第十話 美しき薔薇の牙・魔獣騎士ヴェルチ
「て、てめえ、離しやがれこのっ! ……イテテテテッ!」
「
それは、
「ヴェルチ!」
「シクヨロ、この
シクヨロに「ヴェルチ」と呼ばれ、振り向いたその騎士はそう言ってニヤリと笑った。燃えるような紅蓮の瞳と、艶めいた褐色の肌。縞模様のロングヘアと、頭部のケモ耳と口元からのぞく鋭い牙は、まさに彼女が
そして、
「ああ、
「いいさ、これくらい」
そのとき、ヴェルチの一瞬の隙を狙って、
「……んの
「フン、抜いたな?」
ヴェルチは、まるでそれを予想していたかのように身を
「酒場で武器を抜くのはご
ヴェルチはそう言うと、自分よりも大柄なその
「おい、そいつを店の外に放り出しておけ。しばらくは出入り禁止じゃ」
店主の老ドワーフ、ルビコンは
「ご主人、店を騒がせてすまなかった」
ヴェルチはそう言って、ルビコンに頭を下げた。彼女が大立ち回りを演じて、一時騒然となっていた酒場は、ようやく落ち着きを取り戻していた。
「いや、気にせんでくれ、ヴェルチ。
ルビコンは、冷たいエールを満たしたジョッキをヴェルチに手渡した。
「おお、これはありがたい! では、遠慮なく」
ヴェルチはジョッキをあおり、エールを流し込んだ。喉を鳴らして一気に飲み干すと、彼女はジョッキを握った手の甲で口元を拭いながら息をついた。
「っかぁーっ! うまいっ!」
「それにしても、いつもホント
ヴェルチのそばに立ち、あらためてシクヨロは声をかけた。
「ひさしぶりじゃないか、シクヨロ。どうしたんだ? このところ
「まあ、いろいろあってな……。だが、ようやく
「初仕事って、まさかあの『迷宮探偵』か?」
シクヨロは、答えるかわりにアイシアを指差した。
「この
シクヨロが紹介するまえに、彼女は自分の名前を告げた。
「私は『ヴェルチ』。元・王国魔獣騎士団『
「はぁー、すごい、でっかい……」
アイシアは、ヴェルチと対面しながら、いろんな意味でそうつぶやいた。
「あ、あの、先ほどは助けていただいて、本当にありがとうございました!」
ようやく我にかえって頭を下げるアイシアに、ヴェルチは大声で笑って応えた。彼らは元のテーブルに戻って、あらためて初顔合わせの祝杯を挙げた。
「それにしても、エルフの
「はい! あんまり、迷宮の経験はないんですけど……」
「でもな、こう見えて
シクヨロの言葉に、目を丸くしたヴェルチ。
「えっ、
「えへへ」
ヴェルチに賞賛され、素直に喜ぶアイシア。どうやら、見た目よりかなりくだけた性格らしい。
「お姉さんも、王国魔獣騎士団なんてすばらしいです。私、
「まあ『元』、だけどな。まだ、ほんの二十一歳の若輩者さ」
こちとら、
「マルタンとも、ずいぶん会ってなかったな」
「キミは、ずいぶんと入り浸ってるようだね」
ヴェルチの挨拶に、そっけなく答えるマルタン。
「ああ、なんてったって
そう言ってヴェルチは、もう何杯目かわからないジョッキをグビグビっと飲み干した。そんなヴェルチの、胸当てに刻印された薔薇のエンブレムを、ため息まじりに横目で見るマルタン。
「まったく、『
説明しよう。
「
かつて、
以上、説明終わり。
「しかしシクヨロも、いよいよ迷宮探偵の初仕事か……。大変だろうが、まあがんばってくれ!」
そんなヴェルチに、シクヨロはさらっと告げる。
「いや、おまえも行くんだよ」
続く
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