第八話 探索者ギルドに、いらっしゃぁい♪
カランコロンカラン♪
「あらぁ、シクヨロさん。いらっしゃぁい」
軽快にドアベルを鳴らしながら、探索者ギルドの扉を開けたシクヨロたち一行を迎えたのは、なんとものんびりとした甘ったるい口調で話す女性の声だった。
「いよお、メリアンちゃん、ひさしぶり」
「やだぁ、あなた
シクヨロに「メリアン(ちゃん)」と呼ばれたその女性は、そう言って笑った。ほどよく美人で、ほどよくかわいい。受付の看板娘、と呼ぶには少々
「へへ、そうだっけか。……あ、そうそう。例の
「そうよぉ。あのワンちゃん、自力で帰ってきたらしいの。
「その代わりに、べつの依頼が自分のほうからやって来てくれたけどな」
そう言って、シクヨロは背後にいたアイシアの方を振り返った。
「あぁ、あなたこの前の……アイシアさん、だったかしら?」
「あ、はい。その
そう言って、アイシアは深々と頭を下げた。
「やっぱり、この
「そうよぉ。でもたしか、もう三日も前だったと思うけど」
「三日ぁ?」
驚いたシクヨロに、アイシアが答えた。
「はい。じつはあの、ちょっっっとだけ道を迷っちゃって……」
「ギルドから
「んー、なんでですかねえ……」
シクヨロは、アイシアが自称「あわてんぼうで方向音痴」だったことを思い出した。とは言うものの、ごくふつうの街中で三日もさまよってしまうようだと、いざ迷宮内ではいったいどうなってしまうのか。そのやりとりを聞きながら、そばにいたマルタンがため息まじりに小さくつぶやいた。
「さすが、
「え、なんですか?」
「べつに」
「ふふ、こんにちはマルタンくん。めずらしく、あなたも来てたのねぇ」
メリアンはそう言ってマルタンの方を向き、すこしだけ姿勢をかがめるとにっこり微笑んだ。白いブラウスからのぞく、やわらかそうな胸の谷間が、少年の視界に飛び込んできた。
「う、うん。どうも……」
そう言うと、マルタンはすこし赤くなって横を向いた。もちろん、マルタンも彼女の熱烈な
「それでぇ、今日は
「
「アイシアさんの依頼ね? すると、第十三迷宮ってことだけど……いいのよねぇ?」
「ああ、頼む」
「わかったわ。じゃあ、迷宮要項をよく読んでもらってぇ、この用紙に必要事項を書いて提出してくれるかしら」
「あ、それ、ぼくが記入するよ」
そう言ってマルタンは、メリアンから用紙を受け取った。
「こういう書類は、あんまり人任せにしたくないんだ。放っておいたら、どんな契約を結ばされるかわからないからね」
「疑り深いヤツだねえ、ガキのくせに」
「ふっ、おじさんに言われたくないよ」
そう言うとマルタンは、アイシアに向かって話しかけた。
「アイシア、キミも書類の内容をチェックしておいたほうがいい。申請用紙の書き方も教えてあげる」
「はい、マルタンさん。ありがとうございます!」
そう言ってふたりは、申請カウンターの方へ移動していった。
「そういえば、
「あぁ、べつに深い意味はないわ。シクヨロさんが、あの
「なぜだい?」
「迷宮探偵さんの最初の依頼にしては、すこし
「いろいろあってな。ま、なんとかやってみるさ」
「無理しないでねぇ、あなたレベル三なんだから」
「ほっといてくれ」
通常であれば、第十三迷宮はそうそう気軽に足を踏み入れていいダンジョンではない。まして、レベルの低い探索者ならなおさらである。にもかかわらず、メリアンはシクヨロの挑戦をとくにとがめ立てしていない。伝説のクソゲーと名高い、この剣と魔法のファンタジーRPG『ドラゴンファンタジスタ2』の探索者ギルドで、これまでに何千何万というプレイヤーをダンジョンへ送り出していった彼女ならではの、経験とカンがそうさせているのかもしれない。
「そうだメリアン、『マカラカラムの
「それなんだけどぉ……。私、この仕事けっこう長くやってるけど、聞いたことないのよねぇ、そんなレアアイテム」
「そうか」
「アイシアさんの持ってた古文書は、いちおう確かなものだとは思うけどぉ。第十三迷宮は、未踏エリアもかなり多いから」
「わかった。ありがとな」
「ええ、シクヨロさん。迷宮探偵の初仕事、がんばってねぇ」
そう言って、メリアンはとびきりの笑顔を見せた。シクヨロは、心のギアがひとつ上がった気がした。
「シクヨロ、書けたよ」
「ああ、ご苦労さん」
シクヨロは、書類をメリアンに提出すると、探索者ギルドを後にした。
「それでそれで、これからどうするんですか? いよいよ迷宮に……」
「いや、まだだ。これから『ルビコンの酒場』へ行く」
「ルビコンの酒場?」
「さすがに、最難関の第十三迷宮をオレたち三人じゃ心もとないからな。もうひとり、仲間を見つけるのさ」
続く
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