バグった列車
澄岡京樹
不明な列車
バグった列車
ぷぁーーーーーん、がたんごとん、がたごとん。
線路を走る電車の音が聞こえてくる。時刻は二十二時。時間帯としては別段不自然ではない。けどけれどそれは昔のお話である。
二〇二〇年現在、鉄道列車は走っていない。
◇
/回想・数時間前/
私が生まれる少し前、世界中で〈不明物質〉という『触れたらバグる』ヤバい物質が溢れ出した。
専門家が色々と手を尽くしたそうだが、その当時は陸路・海路・空路の全てが大きく制限されたという。
そんな中、
数年前に、オーナーである紅蓮氏の変死事件があったらしいが、そちらについては未だ解決には至ってないという。不明物質に触れた動物が
それはそれとして、私は、かつて陸路を走っていたという鉄道列車が気になっていた。アーカイブ映像で見たことはあったものの、実物はもう走っていない。制限された狭い区間だけでの運行では採算が取れないからだという。そういうこともあって、今では博物館でねんねんころり。ううむ、乗ってみたいものだ。
などと物思いに耽りながらスマートフォンでネットサーフィンをしていると、妙な情報が目に留まった。
——夜闇を駆ける、鉄道列車。
いやいやそんなバカな……と思ったのだが、SNSを見ると走行音を聴いた人がわりといるようで、意外にも信憑性は高そうである。あと、まさかの地元。私の住む
/回想おわり/
◇
ぷぁーーーーーん、がたんごとん、がたごとん。
実際に鉄道列車が走っているところを見ると、なんというか言語にならない感動が芽生えた。例えるならば、そう、化石でしか見たことのない生物がそこら辺を動き回っているのを見た時のような——いや、そっちは見たことないけれどもとにかくそういう感じであった。
「えぇー、すっご。マジすっご……」
なんとか言語化してこれである。まぁ伝説上の乗り物が現役で走っているのを見たらこうなっちゃっても仕方ないと思うのですよ。
ただ普通に妙である。確かに線路自体は残っている。けれどもそこら中がバグりまくっているのでもう使い物にならないはずなのだ。だから列車が走ってくることなど本来ありえない。だが走ってきた。〈たてたち駅〉のホームで待つ、私の元へ。
——そう、鉄道列車は停車した。いつもは通り過ぎていくらしいのだが、今日だけは停まった。理由は明快、あまりに単純。これまで目撃した人たちは、誰一人として〈たてたち駅〉構内には立ち入らなかったからだ。……明快かつ単純な理由かどうかは段々と自信がなくなってきたが、とにかくそれが停車理由であると仮定した。
——がらにもなく、ワクワクしてきた。気分が高揚しているのである。誰も乗ってなさげな六両編成の列車。基本的に一両編成な先鋭列車では見られない光景だ。このような形で連結された列車が走っているところを実際に見られようとは。私は感激に咽び泣きそうになっていた。
……そう、私の父は、鉄道列車の運転手だったのだ。だが不明物質の出現により運転手を続けられなくなった今、父は先鋭列車の
私は父から聞く鉄道列車の話が大好きである。だから、今の元気がない父にこの話をしたかったのだ。たとえその列車が本来ありえない存在だったとしても、それでも写真を撮るぐらいなら——
「————え」
そこで、気づいた。
「なに、、」943
そこに、書かれていたはずの——看板に書かれていたはずの、〈たてたち駅〉と書かれていたはずの——それは——
——〈5-535-、)83」8〉
——と書かれていた。
「え、え、」
気づいた時、そこはもう〈たてたち駅〉のメッキが剥がれ、
ぷぁーーーーーん、(-5-!(959!、(-5-(95!——
列車の音は、よくわからない駆動音へと変貌していた。
「一番ホームに、:3!/)-が参ります」
そして目の前に大きな口が
◆
魔獣解説
〈魔鉄道 オールドレェル〉
司る称号は【捕食/補色】。
不明物質によって変質した鉄道及び列車の総称。変質した駅構内に入り込んだ対象を喰らう魔の鉄道。世界各地の廃線にて存在が確認されているが、神出鬼没かつ高い耐久性と敏捷性を持つため討伐数は少ない。オールドレェルの出現が、鉄道列車運行終了の決定的な理由となった。
バグった列車、了。
バグった列車 澄岡京樹 @TapiokanotC
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