第50話 ストップザ・ワールド
ソアラ
誰かを守るために戦う?確かにそんなの初めてだ・・・いやいや!別にワタシはユミなんてどうでもいい、なんなんだよあいつは!人の踏み入れたれたくない場所にズカズカ入り込んできやがって!なんにも知らないくせに!なんにもわからないクセに!
くそっ、でもなぜか今までで一番深く集中できてるのも事実・・・、ワタシは集中すると時間の進み方が遅くなる体質だ。みんな同じようにそうなんだろうと思ってたけれど、どうやらワタシだけだって気づいた。
集中が深くなればなるほど、時間はスローになっていく、だから相手の攻撃を簡単に避けられるし、入力を間違えることもない。
もうはやく進んでよって思うくらい遅いのだ、簡単すぎて寝てしまいそうなくらい。だからワタシは何をやっても無敵だった、ワタシだけスローなイージーモードでやってるようなものなんだ、負けるはずがない。
それがいやだった、だから誰とも付き合わなくなった、何をしても簡単に勝ててしまうから、自分だけがズルをしてるような気がして。ヒトは必ず自分と相手を比べようとする、そしてどうあがいても勝てそうも無いとわかると憎悪するか、あるいは崇拝する、そのどちらも嫌だった。ワタシを普通の人間扱いしてくれたのはエスだけだった。エスはヒトと競争しようとしなかったから・・・
ワタシは競争なんかしたくない、人殺しなんかしたくない、でもどうやっても、ワタシには戦場しか居場所が無かった。教会の連中はワタシを「皆殺しの天使」だと言った。セカイに審判を下すために現れた殺戮の天使。大層なコトバでいいやがって、結局は死刑執行人だ、家畜屠殺人だ。自分でやりたくないことをワタシに押し付けてきただけだった。
自分は血を見たくないけれど焼き肉ばっかり食べたいと願う奴らのためにワタシは戦わされた、すべてに腹が立った。生きてくってことに腹が立った、生きるってことはどうやっても別の命を食らって生きるってことだ、生きることは殺すこと、それ以外じゃない、そんな生き物を作った神に腹がたった・・・
今もそうだ、レムの7体のギアの動きがものすごく遅い、おそすぎる、いくらなんでも遅すぎる、いままででもこんなに遅いことは無かった。
ちょっとまって、これ永遠に終わらないんじゃないの?もうレムにとどめを刺す未来は変わらないのに、時間が流れていかない、時間が止まってしまった。
やばいゾーンに入ってしまった、ワタシは死ぬのかもしんない、死ぬなら死ぬでいいから早く終わってくれ。でもこれが死っていうことならゾッとした、いつまでこの止まったセカイにいないといけないんだ・・・
エスは最後にワタシに言った、生きてくれ、って。その託された願いが一番重かった、とんでもない約束をさせられた。生き続ける?そんな難しい願い事ってないよ、エスはその場の思いつきで言っただけなのかもしれないけど、ワタシには死にたいっていう願いしかなかった、なんでもいいから早く終わりたいと思ってた・・・
違う、そうだ、思い出した。ワタシがエスに言ったんだ、絶対に死んじゃダメだって、そう言われて嬉しかったから、ワタシに同じことを言ったんだよね・・
・・・これは認めろってことか?わかったよ!そうだ、誰かを守るために戦うと、いつもより頑張れる、嬉しかった・・・ユミは一瞬だけど止まったワタシのセカイに入ってきた・・・たった1人ワタシだけがいるこの止まったセカイに入って来た、それに驚きすぎてあっという間に負けていた・・それが嬉しかった・・・
ワタシに生きろって言ってくれる人に出会えて嬉しかった・・・ワタシだって誰かを救いたいよ・・・ワタシだって誰かに愛されたい、それを認めるのがずっと怖かった・・・
セカイが動き出す、バイバイ、レムニスケート、あなたもワタシと同じようなたった1人のセカイに生きてたんだよね・・・
世界はそのまま真っ白になっていった。
遠くから誰かの怒鳴り声が聞こえる
?「いやよ!ワタシがサイクロイドの研究にどれだけ時間をかけたかわかってるの!」
?「うっせぇババァ!オトナになれ!殺すぞ!」
目をうっすら開けるとネルが隣で端末をいじっていた
ネル「起きました?」
ソアラ「何を喧嘩してんの?」
ネル「ミネルヴァがサイクロイド技術のデータを処分するのをしぶってるんです、悪用されそうな先進技術は全部イレースしようって言ってるのに」
ユミ「これの本当の目的はわかってるぞ、どうせ自分が年を取らないでずっと美人のままでいようっていう研究なんだろ!おまえらババァがいつまでもそうやって、若作りするばっかでかっこいいオトナの女っていうロールモデルになってくれないからみんな年を取る前に自殺したりするんだ」
ミネルヴァ「そうよ!でもワタシだって同じだ!ワタシの上の世代だっていつまでも若作りするバカ女ばっかだったんだから!特に王族なんて輪をかけてバカばっかりなんだから!」
ユミ「これだからボンボンはやだ。じゅあ自分がパイオニアになって、これがかっこいいオトナの女だよっていうのを見せつけてやろうとは思わないわけ?ほらカナビスやっちまえ!」
カナビス「よっしゃ、まかしとけ、オラァ!」
ぐしゃあ!
ミネルヴァ「ぎゃあ!!ワタシのデータがぁ!!ひぃん」
ソアラ「バカみたい・・・いつまでも若くて美人でいたいって、あの人そんなことのために戦ってたの」
ネル「まぁ普通の女の人には大事なんじゃないですか?ボクもよくわかりませんけど、子供だし。オトナの女になったらわかるのかなぁ?ソアラさんこれからどうしますか?」
ソアラ「レムは?」
ネル「・・・研究所の爆破と一緒に死んだと思います、最初からそのつもりだったみたいです、僕たちが何をしなくても、レーゼがボク達がやる前にあの人に消えない傷をつけてやったみたいです」
ソアラ「そっか・・・」
ネル「ソアラさんはレムを倒すまでの約束でしたものね、どこに降ろしますか?ちなみにボク達は、生き残った人間をばれないようにサポートしたり、悪用されそうな技術とか施設を一つ一つ潰していくつもりですけど」
ネルは相変わらず気が利かないらしい、誰かこの子の母親代わりをやってあげなきゃいけないよね
ソアラ「その・・なんだ・・、後片付けしなきゃね・・ワタシも。手伝うよ・・・」
ネル「えっ!?なんですか?もごもご言ってて聞こえません」
ソアラ「ネル!あなたわざとやってんでしょ!」
ネル「アハハwバレました?ソアラさんデレさせるの面白いんですもんw」
ネルが笑うのを初めて見た。
Varth 統一戦史 チヲコミント @ChiWoCo_Mint
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