第5話 相棒と靴下はよく選んだ方がいい

 太陽はすっかり沈み、スターゲイズの店も酒場バーに移り変わっていた。

そんな時間に店にすっと入ってきて、いつもの定位置に座ったのは他でもないヒルデである。


「こんな時間に来るとは、珍しいこともあるもんだな。酒もロクに飲めねぇくせに、何しに来たんだ?」


「いいじゃん別に。他に行くところないし。それに、今日は朝からドクターに付き合わされて疲れてるのー」


 彼女の言う通り、今日はルーシーに振り回される一日であった。

その日はセイリオス神殿が主導で行っていた大遠征調査団が帰ってくる日であり、ルーシーも事務仕事で忙しかった。ヒルデはそれの手伝いをやらされていたのだ。


 調査団にはセイリオスを根城とする冒険者やハンターも多く参加しており、そういった人々の憩いの場の一つがスターゲイズだった。そのため店の中には久しい顔も多く、ヒルデも何人かの顔見知りに軽く挨拶をする。


「ったく。こっちだってテーブル一つ貸してやれるほど暇じゃないんだよ。寝るなら何か頼め」


「ちぇー。じゃあ、お腹減ったからオムライスお願いー。ケチャップ多めねー」


「あいにくバー・スターゲイズではオムライスは出してなくてね。カフェ・スターゲイズにご来店くださいな、ヒルデさんよ」


「ケチ! オレンジジュースでいいよ!」


「あいよ」


 既に店内は何人かの客で賑わっているが、それに負けない騒がしさを見せる二人。客のうち何人かはそれを見て若干の懐かしささえ覚えただろう。一種の名物である。


 そんな名物を見て、懐かしさと共にヒルデに近づく人物が一人いた。腰に小銃のホルスターを下げている赤髪の少女で、流れるようにヒルデと向かい合う形で席に座った。


「やっほー、ヒルデ。久しぶり。いつもの漫才ありがとね」


「んー? あ、ティナ。久しぶり! 遠征お疲れ様!」


 その少女の名前はティノール・プレート。仲の良い人はティナと呼ぶ。


 ヒルデの親友であり、また彼女にとってティナは戦闘の先生でもある。

特に銃器の扱いはティナの特技であり、ヒルデは多くを彼女から学んだ。しかしヒルデ曰く「銃は合わない」とのことで、彼女は銃器を基本持ち歩かない。


そんなヒルデの師匠でもあるティナはハンターを自称しており、当然調査団にも参加したのだった。


「いくつかの街も経由してね。知らない植物とか、お肉とかを見たんだ。なんだっけか。大昔の言葉の……旅! あれもそういう感じだったのかなって思ったね」


「へぇ、いいなぁ。アタシも行きたかったなぁ。なんでドクターは反対したんだろ」


「いろいろあるんでしょ、Dr.ルーシーにだって。それに、ヒルデは今のところ連絡の取れる唯一のセイリオス所属トラベラーなんだし、大事にされてんだよ。きっと」


「そうかなー?」


 普段通りの今にも寝ような体勢は変わらないが、いつにも増して口数が多くなるヒルデ。誰にでも話しやすい相手というのはいるもので、そのうちの一人がティナであるのだ。


「そういえば、あの子は今どこにいるのさ? “スフィア”ちゃん。ヒルデの相棒なんだし、挨拶くらいしたんでしょ?」


「……相棒ねぇ……。なりたくてなったワケじゃないんだけどなぁ。帰ってきたら点検を受けるとかで、アイリスさんのとこ行ってるはずだよ。終わったらどうせここに……。ああ、ほら」


 オレンジジュースを飲みながら話していると、ヒルデは何かに気づき窓の外を指さす。ティナもその方向を見ると、店に向かって歩いてくる一人の人影が見えた。

 その人影のシルエットは独特であった。ひらひらとした装飾がついた服に、大きく長いスカート。

動きやすさを重視する人ばかりが集まっているため、この辺ではまず見かけないような恰好をしていた。


「あの格好。見間違うはずがないでしょ」


「ホントだ。あれはまごうことなきスフィアちゃんだね」


 スフィアと呼ばれる人物は店に入り、真っすぐにヒルデの前へとやって来た。

顔が整っている綺麗な女性で、その派手な服に負けないほどの美しさを持っていた。

だが無表情だった。


彼女はヒルデの前で止まると、ゆっくりと背中を曲げ、頭を彼女に向けて下げた。


「ただいま帰還しました、ご主人様」


 急にそんなことを始めるので、店の中の人々は思わず彼女を見て黙り込んでしまった。

またその頭を下げられている方、つまりヒルデの方に視線が集まる。


「バカ! その大げさなお辞儀やめなさいって何度言えば分かんのさ! その呼び方もやめろって言ったじゃん!?」


「そうだったでしょうか。該当する記憶メモリーは存在しませんが」


「あんたが忘れるワケないでしょうがッ! わざとやったな!?」


「ちょっとしたジョークですよ。ヒルデ様」


 スフィアは表情を変えないままそう言い切った。

それがまたヒルデの苛立ちを助長させるのだが、そんなことスフィアにとって知ったことではないだろう。


「このポンコツがぁ……!」


「まあまあ、ヒルデ。きっとスフィアちゃんも久しぶりの再会に喜んでるんだって」


「はい。ワタクシ、大喜びです」

 

 その感情のこもっていない声と表情で言われても一切嬉しくないと思うヒルデ。

あまり沈黙の時間を延ばしても良くないと思い、ティナは用意してあった話題を彼女たちに振った。


「あはは……。で! ほら、スフィアちゃん。ヒルデに伝えることあったでしょ! 依頼の件!」


「ああ、そうでした。ヒルデ様。ワタクシ、ある街で依頼を受けてきたのです。しかしすぐに対応できるものではないと判断したため、遠征帰還後に引き受けることになっておりました」


「はぇ? 依頼? スフィアが? どういうこと?」


 ヒルデは突然のことに理解が追い付いていなかった。

だが何故か隣でニコニコと笑うティナの顔を見て、何かあるなぁと察することだけはできたのだった。



――数日後――


「ようこそいらっしゃいました! 私たちの街へ! この度は猛獣退治の依頼を受けていただけるとのことで、なんと感謝すれば良いか……!」


「感謝は必要ありません。報酬さえいただければワタクシたちの依頼は完了されますので、余計なものは不必要です」


「あ、あはは……」


 スフィアに連れられてヒルデがやって来たのは、NestHoyleネストホイルという小規模の街だった。

ドーム自体も最近ようやく完成したものらしく、街としては歴史が浅いものだと瞬時に理解した。


 話によれば、その街はつい2年ほど前にようやく街として機能し始めたのだと言う。

元は何もない土地であったが、地下から遺跡が見つかったことで付近に簡易小屋が建てられるようになり、それが村となり次第に大きくなったのだと言う。

そして調査が終わり一部の人が引き上げ、その後残ったハンターや流れ者が今の街の住民となっている。


 今ヒルデたちの目の前にいる”レジナルド”という人物は、この街を率いているリーダー格の存在であるらしい。

この人物は、元は遺跡の調査員で、一人残ってここを村として維持しようと尽力したそうだ。そして環境が整い、商業も始まるようになり、街レベルの規模になったのだと言う。


 しかし一年ほど前から、街の中央にある地下遺跡から猛獣が出てくるようになった。

あまり大きくはない、野犬程度の獣しか出ては来ないが、それでも怪我をする人が既に何人も出ていた。

しかし独自に遺跡を調査する技術も人員もなく、またどこかに依頼するにしても資金が足りないという状態が今まで続いていたのだった。


「住民の中には、最近この辺をうろついている武装集団と手を結んで守ってもらうべきだと言う人もおり、意見が割れていたんです。猛獣被害にあった家族も早急な対応を懇願しており、後がない状況でした。そんな時にここへ立ち寄ってくれたのが、あなた方セイリオス神殿さんだったのです」


「は、はあ……」


 一番最初にこの依頼の話を聞いたのはティナだったらしい。

それがどういうわけか、ティナからスフィアに渡ったそうだ。

しかしヒルデはレジナルドから話を聞くにつれ、段々とティナの思惑が見えてきていた。


「私としては、この街の全員を救いたいのです。しかし武装した怪しげな集団と手を結べば、この街は彼らの拠点の一つとなり、また別の危険が舞い込んでくるでしょう! ですので、ぜひとも今回の件で、猛獣騒ぎを終わらせていただきたいのです……!」


「了解しました。遺跡内部の猛獣を排除しつつ、どこからその猛獣の出所を探ります」


「はい! よろしくお願いします!」


 またいつ猛獣が出てくるか分からない、ということで、ヒルデたちは行動を急いだ。

街を抜け、現在立ち入り禁止となっているエリアを通り、地下の遺跡内部へと入って行った。


「しかしまあ、ティナもずる賢いヤツだよ。食えないね、まったく」


「それはどういう意味でしょう? ヒルデ様」


「そのまんまだよ。フリーであるスフィアを雇う形にすれば、セットでトラベラーのアタシも付いてくるんだから、専門的な遺跡調査も安上がりになる。加えて、この簡易調査でアタシが何か発見すれば、神殿側にもこれを報告しなきゃいけない。すると神殿は自主的にこの遺跡を再調査する必要が出てくる。NestHoyleの街は大きな金を使わないまま、大規模な再調査をしてもらえるってワケ。これドクターが聞いたら面白くないだろうなぁ」


「なるほど。ワタクシの相棒であるヒルデ様は、絶対にワタクシから離れられない。それを逆手に取った作戦なのですね」


「……間違っちゃいないけど、その相棒ってのはアタシは一度も言ったことないからね?あんたは神殿の観察保護下にあって、アタシはその観察人ってだけだからッ」


「ご安心ください。観察期間が過ぎればすぐにでもトラベラーの資格をワタクシも取りますので。そうすれば晴れてヒルデ様の相棒、"随伴者"になれますので。それまでお待ちください」


「アタシは望んでないっつーの!」


 そんな掛け合いをしながら奥へ進んで行くが、やや広めの空間に出た瞬間、ヒルデは何かを感じ取る。


「……いる、かな? スフィア、ちょっと数見てみて」


「了解です。熱源センサ起動。周囲を確認します」


 スフィアはそう言って、暗闇でもなお光り輝く瞳で周囲を見渡す。ヒルデも左手で杖を構え、右手を自由にし戦闘態勢に入る。


「熱源が4体、奥に潜んでいます。大きさから見て野犬か何かかと」


「オッケー。んじゃそっち2体よろしくね。あ、銃弾はもったいないから格闘でよろしく」


「了解。ステゴロで行きます」


 二人はお互いに合図を確認すると、一気に部屋の奥まで駆け抜け、"獣"を相手にする。

相手は犬の変異種であり、唾液に麻痺毒が混ざっているタイプなので口を開かせずに仕留めるべき。ヒルデは瞬時にそう判断する。


 その素早さは相手を圧倒し、暗闇での奇襲が得意分野であるはずの獣に反撃の隙すら与えなかった。


 二人の合図からほんの数秒後、重たい音を立てて獣の死体が地面へ落ちる。

 

「よし、いっちょ上がり。口を押さえながら心臓を一突きで済んだけどスフィアの方は……Oh……」


「こちらも今終わりました。関節をすべて外した後に頭部に致死レベルの打撃を加えました」


 スフィアに毒など効くはずもなく、唾液を気にしなかった彼女は獣が最後の反撃として噴き出した唾液をモロにかぶっていた。


「放っておくと異臭も放つから、できれば早く洗い落として欲しいんだけど……」


「嗅覚センサを遮断するので問題ありません」


「アタシに問題があるのッ!」


 脅威となり得る獣は今のところその4体だけだったようで、後は特に危なげもなく遺跡内を探索できた。


 ネズミ等の小型獣の糞や足跡を追い、彼女たちは遺跡の壁にできていた穴を見つけたのはその後10分もしないうちだった。

ここを通って獣が出てきていたようだ、と彼女たちは見た。


けもの道Desire Pathならぬ"けもの穴Desire Cave"ってやつかな。何度も通った痕がある。どこに繋がってるかは分からないけど、ここから猛獣が侵入してたみたいだね」


「なるほど。この大きさの穴でしたら、確かに大型の獣は通り抜けられないでしょう。もし穴の大きさが広がり続けているのならば、それも時間の問題でありますが」


 ひとまず簡易的な塞ぎを施し、ひとまずはこれでNestHoyleからの依頼は達成となった。

本格的な穴の対処は後日来るであろう専門の調査員に任せることにした。


 しかし本当に何もせずに帰ると後でうるさく言われる可能性もあったため、軽く遺跡のデータを取っておくことにした。

杖を床に接地し、あとは待つだけ。少しの間暇になったヒルデは、ふとスフィアに一つの問いを投げかけた。


「この街さ。どうなると思う?」


「? 急にどうしたのですか?」


「いや、ちょっとね。だって、結構ギリギリじゃない? このNestHoyleって街は」


 遺跡までの道を案内されるついでに、ヒルデはこの街の様子をしっかり見ていた。

植物が育ちやすい土が多くあるわけでもなく、大きな水源があるわけでもなく、特産品もなければ珍しい食べ物もない。

言ってしまえば街に相応しくなかった。


ドームを建てられるほどの資金があったのは事実であろうが、それも貯めに貯めてようやく……と言った経緯であろう。


 そこに加え、武装集団という得体の知れない勢力も近くにいる。

関わってもロクな目に遭わないのは明白だ。


しかしそうは考えない人もいる。どんな形であれ、力を持つ者にすがろうとする人は必ず現れる。

そんな統率の取れない状況で、街という名の"秩序"が成り立つのか。ヒルデはふとそう考えてしまったのだ。


「アタシとしては、このまま立ち行かなくなって、ここの人たちが行き場をなくす……なんてことはあって欲しくないよ。せっかく頑張ってここまで来たんだもん。全部無駄になるのは悲しいことだよ」


「なるほど。ではヒルデ様は、その悲しいという感情をもって、この街をどうにかしたいとお考えなのですね?」


「いや、そこまでは考えてないよ。アドバイスとかできる立場にはないし、これは彼らの問題だからね。ただの願いってやつだよ。……あんたには無いものなんじゃない?」


「……願い、ですか。確かに、ワタクシの中にはそういったものはありません。自分自身では手を出せない領域に対し、こうであって欲しいとただ考えるだけの行為。無意味であり、難解な行動です」


「バッサリ切り捨てるねぇ……。願っているって相手に伝えるだけで、その人の励みになったりもするんだよ?」


「そういうものなのですか。人の心は難しいものです」


 そう言いながら遠くを見つめるような仕草をするスフィアを横目に、ヒルデはそろそろ街に戻るかと腰を上げる。

杖に任せていたデータ収集もそろそろ終わった頃だろう。


「……願いの代わりと言ってはなんですが、少し予測演算をしてみました」


「ん?」


 するとスフィアはヒルデにそんなことを言ってきた。

ほんの数秒やけに黙り込んだと思ったら、そんなことをやっていたのかと思うヒルデ。


「ヒルデ様が案じていた通り、このままレジナルド氏だけが街を引っ張っていくと、いずれは街としての機能が崩壊してしましょうでしょう。土地の状態や人口、行商人の往来頻度を考慮した上での予測結果です」


「……やっぱりか。難しいものだね」


「しかし……。敢えて良い方向に向かう要因を思案しますと、"一丸となった意志"さえあれば、少なくとも現状の維持だけは可能という予測結果が出ました」


「ええ? 一丸となった……なに?」


「意志です。レジナルド氏だけでなく、この街のほぼ全員が、街を良くしたいという統一された考えを持ち、行動すれば、維持だけなら問題なく遂行できるでしょう。もっとも、その統一された意志というのが実現しづらい箇所なのですが」


「それはそうかもだけど……。意志だけでどうにかなるものなの? それこそ願いの類じゃないのさ。人々が同じことを願うことで、何か特別な力でも生じるとでも言う気?」


「いえ、そうではないのです。確かに意志とは願いの一種であるかも知れません。しかし、人は"思考"によって行動を起こします。この街の話であれば、レジナルド氏が物事を決めて引っ張るのではなく、全体が物事を決めて全体で動くことが必要なのです。そうすることで、より強固な街の道筋が現れ、街という計画が瓦解しづらくなります」


「う、ううん?」


 正直なところ、スフィアの言う事をヒルデは理解していなかった。

言っている内容が難しいという理由もあるが、何より今までのスフィアらしくなかったのだ。


ヒルデの知る彼女は、もっと他者に対して冷たく、機械的に物事を対処する性格だった。

しかし今は"願い"と言う言葉に反応したのか、やたら他者に対して物事を述べている。

この変化に違和感を覚え、内容がいまいち入ってきていないのだ。


「ま、まあ。とにかく今のままじゃダメってことで変わりはなさそうだね。ドクターに支援をお願いしてみる……ってのは無理そうか。あの人この街に微塵も興味なさそうだったし」


「そうですね。……願い、とは難しいものです」


 何やらスフィアの様子がおかしかったが、そういうのは帰った後で報告すればいいだとうと思いヒルデは杖を回収する。


 そして地上へ戻ってみると、何やら街の様子がおかしかった。慌ただしいというか、物寂しい雰囲気に包まれていた。




「え!? レジナルドさんが、亡くなった!? アタシたち、さっき会ったばかりですよ!?」


 彼のところに報告をしに行こうとした矢先のことだった。

その訃報を聞かされたヒルデは思わず大声をあげてしまう。

一方スフィアはいつも通り静かにしていた。


「はい……。あなた方が事務所を出て行って、その後すぐのことでした。あ、犯人はもう捕まえました。武装組織賛成派の流れ者だったようです。最後までレジナルドさんは、武装組織との関わりを頑として断ったのです……」


 そう涙ぐみながら語る男がレジナルドの秘書のようなものを勤めていたことを思い出す。

 そんな彼を見て、事務所の周りに集まっていた街の人々が次々と声を挙げ始めた。


「俺たちは……今まで何をしてたんだ! あんなに俺たちを考えていてくれた人が近くにいたと言うのに……こんなことになるまで……!」


「もう自分がどうとか、言ってられないわね……。彼の遺志を継ぐべきよ! 私たち全員が彼の代わりになって、このNestHoyleを支えていくの!」


「ああ、そうだ! ゴロツキ共がなんだ! 俺たちは、自分たちの力でこの街を守るんだ!」


 そんな声が聞こえたかと思うと集団は一斉に拳を高く挙げる。

皆、彼の死をきっかけに奮い立った。


ヒルデらは長居する理由もないと足早に帰ったが、来た時と比べて明らかに街の雰囲気が変わっていた。




 スフィアへの報酬金は、後日きっちり支払われた。またヒルデもセイリオスに戻りNestHoulyの遺跡を報告し、正式に調査団が送られることになった。

 以後、ヒルデたちはその街に行くことは無かったが、人を通じて様子を聞くことはあった。


誰か特定の人物が街を率いるのではなく、全員が協力して街を作る良い地域になっているらしい。

例の武装集団とやらも付け入る隙がなくなったことで、周辺から撤退したようだった。


 スフィアが予想した通りになったと分かったヒルデは彼女を若干怖く思ったが、その思いも数日で消えてしまった。

その予想を誇ることもなければ、聞いても「必然です」としか言わないのなら、気にする方もしなくなるというものだ。


 しかしヒルデは時々思う。もしかして、スフィアはレジナルドの死すらも予想していたのではないか。

そんな考えがよぎるも、決して聞くことはなかった。

その返答が怖かったからではない。

それが何であれ、もう過ぎた事であり、今更言うこともないと考えたからだ。


 それゆえに、スフィアの予想がどこまでされていたのかは、誰一人として知る者はいないのだった。

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この終わりゆく世界に手向けの鉄くずを。 ねぎまる @KTNR

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