『物語のひねり方 読者を飽きさせないプロット創作入門』イントロダクション

『物語のひねり方 読者を飽きさせないプロット創作入門』

 ジェーン・K・クリーランド=著



 イントロダクション


「私が小説の書き方を学んだかどうかなんて世間のあずかり知るところではない。それをするために私は生まれてきたのだと世間に思わせれば良いだけのことだ」


 ——アーネスト・ヘミングウェイ


 人々が夢中になり寝る間も惜しんで一晩中読みふけるようなストーリーは、回想録でも、サスペンス小説でも、ノンフィクション文学でも、文芸小説でも、どれもすべて予想外のひねりや方向転換に満ちている。それらは総じて「プロットのひねり」と呼ばれているものだが、より具体的にはプロット創作における三つの方法論であり、確実に読者を意外性で釘付けにして、次は一体どうなるのだろうかと待ちきれない気持ちにさせるためのものだ。


 プロットのひねり(ツイスト=T):ストーリーを別の軌道へと導くもの

 プロットの反転(リバーサル=R):ストーリーを真逆の方向に導くもの

 危機が高まる場面(デンジャー=D):ストーリーに切迫感と不安を付加するもの

 プロットのひねり(T)とプロットの反転(R)と危機が高まる場面(D)のTRDを、絶妙なタイミングで戦略的に使うことで、そのストーリーのペースを速めながら、そこで描かれる行動に読者の焦点を集めることができる。


「Bound For Freedom(自由に向かって)」

 パート1

 私が8歳だったある日、2階の子供部屋でバービー人形と遊んでいると、突然母があげた叫び声が反響して、階段から2階の廊下を抜け、私の部屋にまで届いてきた。


 この「Bound For Freedom」はミニ回顧録だ。この一つのセンテンスに私は2人の登場人物と舞台設定と刺激的な出来事を盛り込んでいる。次に何が起こるのだろう? あなたはきっと何か嫌なことが起こるのではないかと予想したのではないだろうか? それとも、邪悪な何か、または、霊的な何かが起こるのではないかと思った人もいるだろう。サプライズを効果的にする要素のひとつは、次に起こる出来事が予想外であることだ。ということは、いま挙げた嫌な出来事、邪悪な出来事、超自然現象的な出来事は、効果的に機能しないということになる……読者はそうなるのではないかと予想しているからだ。では、私の母は蜘蛛を見たというのはどうだろう。これなら確かに予想していたものと違うという意味ではプロットのひねりとして成立するが、逆方向に向かうもの(つまり反転)ではない。では、母がドアを開けると誰かが時限爆弾を投げ込んできた、というのはどうだろう。これなら危機が高まる場面として成立するかもしれない。ところで、この作品は実は次のように展開している。


「Bound For Freedom(自由に向かって)」

 パート2

 私は手に持っていたバービー人形をベッドに置いて、急いで階段の上まで行き、そこからは一段ずつためらいながらゆっくりと階段を降りた。

 直角に曲がっている踊り場のところで一度立ち止まり、恐怖を覚えながら、隅からそっと下を覗き込んでみた︒玄関先で立ち尽くしている母の足元には、雑誌とチラシと封筒が重なって落ちており、母の手には手紙が1通だけ握られていた。その頰には涙が伝い落ちていた。

「ママ? だいじょうぶ?」

 声を聞きつけて急いでやってきた父も、母の顔を見て一瞬固まった、「ルース?」

 すると母は、にっこりと笑って「やったわ」とだけ言った。


 母の叫び声は、悲惨な出来事を示すものではななく、嬉しさからくるものだったという展開はプロットの反転(読者の予想の逆方向に進むもの)にあたる。母が喜んでいる理由を私がまだこの時点では明かしていないことにも注目してほしい。その理由の開示を遅らせれば遅らせるほどインパクトは高まってゆく。


 本書を読み進んでいけば自然に分かってくることだが、各チャプターの流れとしては、まず、そのチャプターで取り上げるトピックについて概略を説明し、次に、以下の4つのステップをたどりながら詳しく考察していくという形をとっている。


 コンテクスト そのトピックの仕組みを理解し、どのようにあなた自らの執筆に適用させるべきかを判断する。

 実例とケーススタディ そのトピックの抽象的な教義のような内容を具体的な戦略として解釈する。

 エクササイズ そのトピックについて学んだツールを実際に扱ってみることで、あなた自らの執筆にはどの戦略が適しているかを見極める。

 使用評価 そのトピックに関するあなた自身の進歩を判断する。



 ストーリーの核に対立がある限りTRDはどんなジャンルの作品にも適用できる




 作品のジャンルや長さに関わらず、すべてのストーリーはサプライズをもたらせるひねりや反転や危機が高まる場面(つまりTRD)の恩恵を受けている。そのTRDを機能させるためには、対立がストーリーの隅々にまで行き渡っていなければならない。この原則は、善VS悪、混沌VS秩序、罪VS無実などといった対立構図で描かれる推理小説では、実に容易に見て取ることができる。それ以外のジャンルでは推理小説ほど明瞭にはこの原則がどのように適用されているかを見極めることができない。本書では、文芸小説、大衆小説、回顧録、児童文学において、この原則がどのように適用されているかを示していこうと思っている。


 また、本書では一貫して、二つの創作過程にあるストーリーをケーススタディとして用いることにした。ケーススタディ1は、史上最年少の米大統領候補者で車いす生活を送るインド系の女性アシャ・バッタ上院議員が、コールガールをしている妹のパリを守ろうとすることで、国際的な金融犯罪の陰謀に巻き込まれるストーリー(政治サスペンス)。ケーススタディ2のストーリーでは、12歳の少年トミーがひとりで10歳の妹ライラを救い出さなければならない状況に陥る。ライラが妖精たちに誘拐されてしまったのだ。トミーが妖精のスーから聞いたところによると、妖精の女王の息子で難病で死にそうなキー王子の命を救うためには、どうしてもライラの血が必要なのだという(8〜12 歳向けファンタジー)。


「Bound For Freedom(自由に向かって)」

 パート3

 母は手に持っていた手紙を振って見せた。母はまず私の顔を、次いで父の顔を見た。「私の本が出版されるのよ!」

「オォ、ルース!」と父は母の足が床から離れるほど強く抱きしめた。

 母は、片腕を力強く父の背中に回したまま、もう一方の腕を私の方に伸ばし、指先で手繰るようにして私を引き寄せた。私たち3人は固く抱擁したまま泣き、母の夢がかなったその瞬間を共に過ごした。


 これは、私の母の処女作品で8〜12歳向け歴史ミステリー小説の「Bound For Freedom」の出版が決まったという連絡を受けたときの母の様子を描いたストーリーだ。


 新人もベテランも関係なく、多くの作家がプロットの機能の仕方について分析的な知識を持ち合わせていない。自分のストーリーテリングのセンスだけに頼って、成り行きに任せながら書いているというのが実情だ。本書で語られているプロット創作のための手法は具体的なものばかりだ。理論的なコンセプトを、実践的な戦略として解釈している。本書は、読者であるあなたに「何を」すべきかを教えることだけでなく、「どうやって」すべきかを示している。数多くの実例とケーススタディに加えて、本書では、様々なヒントやテクニックについての説明、エクササイズ、現実性と実用性と利用価値に特化した自己分析評価の仕方も掲載している。


 パート1:まずはプロット創作のための準備から始めよう。最初にストーリーが存在しなければならないし、そのストーリーには基礎の土台となる対立が内在的に行き渡っていなければならない。登場人物に行動を起こさせる原動力となるものについてもここで論じている。また、ストーリーにおける前提、テーマ、ナラティブ・クエスチョンとはそれぞれ何か、ということについてもここで考えていこうと思う。それらはどれもプロットを動かすために必要な核となる要素だ。


 パート2:それらの核となる要素を使って的確なペースを選択しながらプロットを創作していこう。プロットをマッピングし、人を惹きつけるサブプロットを二つほど選択し、戦略的な形で色々な場面にTRDを据えてゆく。TRDがあることで、サスペンス感が付加され、ストーリーのパワーが増して、読み応えのある面白さが読者に提供される。


 この2ステップからなるアプローチが、人々を釘付けにするプロット(フィクション)やストーリーライン(ノンフィクション)の創作に役立つことになるだろう。また、このアプローチをとれば、熱心な読者を勝ちとるために必要な、機微や多面性をしっかりと有したストーリーを作り上げることもできるはずだ。



(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)

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