『ワンダーブック 図解 奇想小説創作全書』ようこそ

『ワンダーブック 図解 奇想小説創作全書』

 ジェフ・ヴァンダミア=著



 ようこそ


 ようこそ、『ワンダーブック』へ。はじめに、持ち物をチェックしてほしい。じゅうぶんな水と食料、なんらかの登山装備。ちゃんと睡眠もとっておく。ペンと紙は、肌身離さず。電子機器は、いつ壊れるかわからないからね。いざ冒険に旅立つとき、奇妙なしゃべる動物の言語について知っていると有利だ。だから、下調べを怠らないように。そして、いつも̶̶いつもだよ、油断は禁物だ。さあ、覚悟を決めて

 ……準備はいいかい。飛びこめ……すべてのど真ん中に。


 反対ページの『裏庭』に描かれているように、生活のありふれた一瞬にさえ、複雑さと不思議が隠されているかもしれない。ぼくが好きな執筆ガイド本には、フィクションとは入りくんだ、ときに謎めいた世界を理解する手段で、世界じゅうでストーリーが息づいていると、認識しているものもある。なかでも好きなのは、クリエイティビティを称えつつ、有益なアドバイスに根ざしている本だ。実用的でありながら、読者を楽しませる。

 そういうわけで、きみが手にしているこの本は生まれた。『ワンダーブック』は何よりもまず、フィクションという芸術の総合ガイドなんだけど、想像力を刺激する珍品のコレクションでもある。執筆への有機的なアプローチは、体系化された手順やフィクションの改良テストと一体であるべきという、ぼくの信念が反映されている。ワークショップの専門用語や安易すぎる解決策̶実用的な解決策とはまったくの別物̶も避けている。きみは『ワンダーブック』からフィクション執筆の基礎を学ぶだけでなく、ときには、より高度なテーマで能力を試される。伝授するテクニックが、いわゆる「文学的」フィクションにも「商業的」フィクションにも利用できる点でいえば、『ワンダーブック』はジャンルを特定していない。きみが書きたいのが、数世紀におよぶヒロイック・ファンタジー三部作であれ、孤独な男の1日を探る長編小説であれ、その中間のものであれ、『ワンダーブック』は役に立つ。


 この本の特徴


『ワンダーブック』は2つの点で、よくある執筆ガイド本とは異なる。まず、イラストが文章にかわって説明をしたり、文章を補ったりすることが多い。30人を超えるアーティストが作品を提供してくれたけど、図表はどれも、ぼくのスケッチとコンセプトをもとにジェレミー・ザーフォスが描いてくれた。この本には、いままでのどんな執筆ガイド本よりもわかりやすくて刺激的な――実用面でもビジュアル面でも――挿絵が載っている。イラストがいつでも文章のかわりになるわけじゃないけど、キーコンセプトを伝えたり、複雑なことをかみ砕いて単純にしたりするうえで、とても役に立つ。きみのクリエイティビティへの刺激にもなるといいんだけど。

 次に、ジャンルを問わず新人・中堅作家の助けになるといっても、『ワンダーブック』のデフォルトの設定は写実主義リアリズムではなくファンタジーにしてある。たいていの執筆ガイド本は写実小説をデフォルトにしていて、ファンタジーはストーリーテリングのほかのジャンルから切り離されている感じだ。もし、きみがファンタジー、ホラー、SF、マジックリアリズム、不条理主義や超現実主義シュルレアリズムといったジャンルで書いているなら、この本を読んで、ふるさとに帰ったような気分になってもらえると思う。それ以外のジャンルであっても、ありふれたテーマへの新しい視点に気づくだろう(ぼくが語る、基礎の基礎をただしく身につけるだけでなく)。「リアルな」フィクションと「ファンタジックな」フィクションには、概念、理論、実践において、たいした違いがないことにも。きっと、ストーリーテリングのあらゆるジャンルで「想像力あふれる」作品と出会うはずだ。

 ぼくはといえば、はじめのうちは文学のメインストリームにいたけど、すぐに自分の小説がもっとファンタジー寄りだと気づいた。友人たちに読んでもらったら、ぼくがリアルだと思いこんでいたものは、友人たちにはシュールだった。いろんなジャンルの作品から影響を受けて、いつの間にか「二重国籍」を持っていたのだ。しかも、子供のころ家族で何度も旅したから、不思議なことや奇想天外なことが現実世界にどれほどあふれているか、実体験として知っていた。フィジーの夜の暗礁で、懐中電灯に照らされた巨大オニヒトデと出くわすにしろ、ぜんそくにかかるにしろ、クスコ(訳注:ペルーの都市)のホテルで、窓の外を飛びながら交尾するエメラルド色とルビー色の2羽のハチドリを驚きの目で見つめるにしろ、ノンフィクションの正確な記録にとどまらず、もっと深い解釈とくわしい描写をするべき世界にぼくたちは生きていると感じた。ストーリーテリングはさまざまな体験を調和させる必要性から生まれ、ぼくはファンタジーを選んだともいえる。

 あまりにもたくさんの土地を旅したから、それぞれの断片を結びつけることでしか、真のふるさとを見いだせなかった。それに、フィクションでしか世界の複雑さと美しさ――ときには恐ろしさ――を表現できなかった。


 構成と使いかた


『ワンダーブック』は拾い読みでも使えるけど、じっくり味わうなら通読がおすすめだ。まず、インスピレーションの概念とストーリーの構成要素をじっくり教え、そのあと、さまざまなストーリーテリングの冒険に乗りだす。第3章から第6章では、フィクションの入り口をいくつも用意している。たいていの作家は面白いオープニングやエンディングを思いついてから、ひとによってはプロットや構成、キャラクター、設定を考えてからでないと書けない。テクニックを語るうえで、短編小説と長編小説をあまり区別していないけど、トピックやサブトピックが、どちらかによりふさわしいようなら明記している。長編小説と短編小説に違いがあるにせよ、執筆アドバイスの多くはどちらにもあてはまる。


 各章のアプローチは、テーマに合わせて少しずつ変えている。たとえば、第3章では、ぼくの作品を中心にしている。自作を解剖することで、作品にふさわしいオープニングの選択肢を見せるために、架空の小説に頼ったり、ほかの作家の選択に当てずっぽうを述べたりしなくてすむ。キャラクター描写の章では、この本のためにおこなった好きな作家たちへのインタビューを重視していて、彼らの意見とぼくの意見を織りまぜてある。世界の構築の章では、説明の図表より、設定の例を示すイラストと写真が多い。キャプションも大活躍だ。改訂のコツはたいていの章にふくまれているけど、第7章であらためて取りくみ、ほかの作家の知恵も借りている。改訂については、どうしても同じことをくり返してしまうけど、最適なタイミングで最適なアドバイスをすることのほうが、ぼくには大切だ。


 でも、こういう考えは、メインの章につづく補足のワークショップにはあてはまらない。補足のワークショップは、作家ごとにバラバラで予測がつかないし、きみを未知なる地へ連れていくだろう。順番どおりより、順不同で読むのに向いている。きみが挑む難解なライティング・エクササイズと併せて、ライブRPGやゲームの専門家によるフィクションの展望、技巧に関するジョージ・R・R・マーティンのインタビューも載っている。楽しんで――迷子になるな。いや、むしろ、なってしまえ。ときには、迷子になることがクライマックスだ。

 本文に加えて、章により深みを与える補足コーナーもある。


 • ニール・ゲイマン、アーシュラ・K・ル=グウィン、レヴ・グロスマンをはじめとする作家たちのエッセイ。情報を追加したり、本文のテーマを発展させたりするのが目的だ。ほとんどが『ワンダーブック』の書きおろしで、緑色の枠で囲んである。



(ぜひ本編も併せてお楽しみ下さい)

※掲載しているすべてのコンテンツの無断複写・転載を禁じます。


▼Amazonで購入する

https://www.amazon.co.jp/gp/product/4845918048


▼物語やキャラクター創作に役立つ39冊

http://www.kaminotane.com/2020/01/08/3888/

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る