現代に転生しても、チート能力をフル活用して生きたい

キョウキョウ

転生者の自重しない人生

 ある日、転生した。


 退屈で愚にもつかないような人生を送っていた俺。しょうもない仕事をするだけの日々を過ごして、突然の交通事故で死んでしまった。


 そして、死んだはずの俺は目を覚ました。赤ん坊の身体に生まれ変わって。


 どうやら生まれ変わったらしい、という状況を理解するのに数日掛かった。なんでそんな事になったのか、それは今も分かっていない。


 堂村一どうむらはじめという全くの別人に生まれ変わった俺は、その名の通り一から新たな人生をやり直すことになった。


 ハッキリとした意識を持ったまま赤ん坊としての生活を送るというのは、なかなか面倒だった。成長していない身体では思うように動けないし、まだ話すことが出来ず他の人にお願いや意思を伝えることも出来ない。


 寝て起きてミルクを飲んで、両親が話しかけてくるのを身体を使って反応をする。決まったルーティーンで日々が過ぎるのを待つだけ。暇な時間も多かったので俺は、この先の将来について必死に考えていた。


 今度こそ、しょうもない人生を送らないように努力をする。思い出すのも嫌になるほど無駄で、価値のない人生だった。あんな人生を繰り返さないためにも、早いうちから将来について考えた。


 赤ん坊の頃から自分の将来について考えるだなんて、世界中で俺ぐらいだろうな。そんな事を思いながら、人生プランを組み立てていった。




 まず、勉強は出来るようにしておこう。記憶を保持したまま生まれ変わったから、そのアドバンテージを十分に活用する。


 それから、健康な身体を維持できるように鍛えよう。可能なら、スポーツも出来るように早いうちからトレーニングを始める。なんなら今からハイハイを始めて、運動能力の基礎をつくる。


 最後に、事故に遭わないように日頃から十分な注意を払う。前世では、突然の交通事故によって死んでしまった。それを繰り返さないように、常に警戒しておくことを忘れない。


 転生のことについては、誰にも話さずに死ぬまで黙っておくことにしよう。こんな話を両親に話したところで意味は無いだろうから。将来、出来るであろう友人や恋人にも黙っておく。誰にも打ち明けない秘密として抱え続ける。




 赤ん坊からだんだんと成長して、幼稚園に通うことになった。どうやら堂村家は、中間階級よりも少しだけ裕福な家庭のようだった。しかも俺が一人っ子だったという理由もあってふんだんな金を掛けてもらい、教育のしっかりとした幼稚園に通わせてもらうことなった。


 利口そうな子どもたちの中に混じって、幼稚園生としての生活が始まった。この頃から俺は、自重しなくなった。幼稚園生で習うような知識は、もう既に知っているということをアピール。周りの大人たちには隠すこと無く、知能を披露していった。


「うちの子は、天才だ!」

「とっても優秀! カワイイ我が子!」

「堂村家のお子さんは、本当に優秀ですね」

「あの子が、ハジメ君? 凄いわねぇー」


 父親から褒められ、母親からは愛されて。幼稚園の先生は驚いて。他の幼稚園生の親たちは羨んで。


 興味が湧いたことについて、積極的に学んでいった。他の幼稚園生を圧倒しても、身体を鍛えることは辞めなかった。周りの人たちが褒めてくれるから俺は気持ちよくなって、どんどん成長していった。


 新しく生まれ変わった身体は、とても優秀である。もしかすると、これはチートと呼ばれる能力が授けられていたのかもしれない。俺が転生したとき、神様と呼ばれるような存在とは会わなかった。しかし、神様というのは存在しているのを信じそうなほど転生した俺は恵まれていた。


 一度勉強した知識は忘れないし、トレーニングを繰り返すたびにドンドン成長していく。技術は短時間で習得することが出来て、失敗すること無く繰り返し行える。


 水泳教室に通い、アートを勉強して、英語を習得。その他にも楽器や格闘技など、様々な習い事をかけもちさせてもらった。


 色々と学んでいるうちに、世間では天才少年として噂となっていった。


「今日は、天才少年として噂になっているハジメ君に会いに来ましたよ!」


 とうとう多数のメディアがインタビューを申し込んできた。両親は俺に、テレビに出てみるかどうかを聞いてきたので、頷いた。出演してみたいと。


「はじめまして、ハジメ君」

「はじめまして。本日は、よろしくおねがいします」

「えぇ!? こんなに小さいのに、ちゃんと挨拶が出来るのね。えらい!」

「ありがとうございます」

「体操選手もびっくりするぐらい、身体を自由自在に動かせるって噂だけれど、本当なのかな?」

「はい。出来ます」

「えぇー! ほんとうにぃ? それじゃあ、見せてくれる?」

「わかりました」


 俺の返答にインタビュアーの女性が驚く表情を見せる。大きくて重そうなカメラを肩に載せた中年男性や、ガンマイクを向けてくる若い男性も驚いた表情をしていた。


 曲芸的な動きを見せてくれと求められたので、俺は今までに鍛えてきた身体能力をカメラの前で披露した。バク転やバク宙などを繰り返して、地面を飛び跳ねて普通の人間には出来ないようなアクロバティックな動きを見せた。


「うわ! 凄いですね! テレビの前の皆さん、CGなんかじゃありません。本当に彼が実力で動いているんですよ!」


 チートの身体をフル活用して今までに習得してきた能力を彼らに披露するのはものすごい快感だった。興奮しながらカメラの向こう側に訴えかける、インタビュアーの女性。


 テレビ出演を果たして、注目を集めた。人生は順風満帆だった。だが、ここで俺は少し人生を足踏みすることになる。


 天才少年という注目は、思ったよりもすぐに失われてしまった。別のものに興味が移ったから。人々の興味の移り変わりは激しい。さらに。




「ウチではもう、ハジメ君に教えることはありませんからね」

「もっと優秀な教室を紹介するので、そちらに移った方が……」

「申し訳ありません。ハジメ君は本日限りで」


 優秀過ぎてしまったためなのか、遠回しに教室から出ていってくれと言われるようになってしまった。


 どうやら他の子の親たちが、文句を言ったみたいだ。色々と教えてくれた先生たちも、これ以上は教えることが何も無いから追い出したほうが都合が良かったみたい。


 ということで、さらに他の習い事の教室に移って学んで、それから追い出されてを繰り返し行った。覚えた技術を皆に披露する。自重しなかった。


 数年で俺は、数百もの習い事教室を渡り歩いた。


 数え切れないほど多くの技術を習得することに成功したけれど、もう近所に通える教室が無くなってしまった。




 次の目標を何にするのか考える。身につけた能力を披露して、皆に褒めて欲しい。人生プランを少しだけ修正する。有名人になってみようかな。そして、チート能力を遺憾なく発揮して披露する。普通の人とは違う、ということを他の皆に見せつける。そういう新たな人生の目標を定めた。


 手っ取り早く有名人になるには、やはりテレビに出演することが一番かな。ということで、まずは子役として活動することに決めた。


 両親に相談して、新規子役所属生を募集している芸能事務所に応募した。面接してもらって、すぐに所属が決まった。


「すごい! 君は優秀だ。すぐに芸能界で売れると思う!」


 芸能事務所の社長に絶賛されて、売り出されることになった。


 小学校に通いながら、子役という仕事を待つ日々が始まった。事務所から紹介してもらったドラマ、映画、演劇のオーディションを受ける。しかし、なかなか合格する事ができなかった。


 手応えがあって、最終試験まで残ることが多いけれど採用には至らなかった。


「焦らずゆっくり! おそらく君は、芸能界で大成できるはずだ。だから信じて!」

「はぁ……」


 そう言ってくれる社長だったが、端役すらもらえなかった。これは売れるまでに、ものすごい時間が掛かるかもしれない。評価してくれる社長や応援してくれる両親のためにも挑戦は続けた。けれども、残念ながら結果が伴わない。




 それから数年が経った。あと1年で高校生になる年齢になったが、まだ有名人にはなれていなかった。色々な知識を学び、技術を習得した。だが、その能力を披露する場を手に入れることができなかった。


「ここじゃ、ダメかな」


 俺は、高校生になる前に俳優として有名になる道を諦めることにした。他の場所でチート能力を披露する場を見つけるほうが良いだろう、という結論に至った。


「もう少しすれば、君はブレイクできたかもしれないのに……」

「数年待ちましたが、ダメでした。だから、見切りをつけました」

「申し訳ない。僕の力だけじゃ、君を売り出すことは出来なかった」

「いえ。でも、色々と学ぶことが出来ました。それは感謝しています」


 最後に社長と握手を交わして、俺は芸能事務所を退所した。それで、次に何をするのか。もう決めていた。


「留学!?」

「はい。もうプランも考えてあります」


 芸能事務所を退所した翌日から早速、俺は次に向かって動き出した。


 両親に、成績優秀者留学支援奨学金についての説明をする。この制度を利用して、アメリカへ留学することを考えていることを打ち明けた。


「まだ子供なのに、海外なんて……」

「いや、良いんじゃないか?」


 母親は突然のことに驚き引き止めてきたが、父親は新たな俺のチャレンジについて応援してくれた。


「お前は本当に凄いな。子供の頃から色々と習い事をしてどんどん成長して、それに驕ることなく更にチャレンジすることを止めないとは。ハジメが挑戦をしたいと思うことについて、父さんは全面的にバックアップしてやる。お金のことも心配するな」

「ありがとう、父さん」


 母親は、ギリギリまで引き留めようとしていた。だが何とか説得を続けることで、最終的には理解してもらえた。


「うぅ……。寂しいけれど、私がハジメの人生を邪魔しちゃダメよね」

「認めてくれて嬉しいよ、母さん。ありがとう」


 ということで中学3年生だった俺は、留学に向けた準備と勉強を始めた。




 一年後。奨学金を受けて留学することを認めてもらうための試験をいくつも受け、その全てで優秀な成績を修めた。飛び級まで認められた。それだけでなく、アメリカの名門大学の試験に合格して、入学が認められることになった。




 コンピューター支援エンジニアリングについて勉強するためアメリカに留学して、寮生活を始めた。英語はネイティブ並に扱えたので、すぐに別の国でも馴染むことが出来た。学生仲間もどんどん増えていって、順風満帆な日々を送っていた。



 留学してから3ヶ月ほど経って、新しい生活にも慣れてきた。周りにいる学生たちは皆、必死に勉強している。だが俺は、かなり余裕があった。


 暇な時間は大量の課題で困っている学生を手助けしたり、大学の部活動に参加してみたり。大学教授から与えられた雑仕事をこなしたりしていても、まだまだ時間的な余裕があった。


 この余った時間を有効活用したい。何か、有意義な時間の使い方はないだろうか。そんな事を考えていると、友人からこんなアドバイスを貰った。


「ハジメ、どうやら君は暇しているんだろ。なら、これなんかどうだい?」

「スタントマンの募集?」

「そう。君は身体がとても丈夫だし、信じられないぐらいアクロバットに動くことも出来るだろ。その才能を活かしてみたらどうかな。俳優の経験もあると聞いたよ? お芝居もできるのなら、監督の目に留まる可能性も高いだろうし、チャンスだ」

「日本では全然、売れなかったけどね」

「失礼だけど、日本人は見る目が無いようだね。君のような才能豊かな人材を活かせないなんて。しかしここなら、才能を評価してくれる人物に出会えるかも」

「そうかな」


 ということで、友人に薦められてスタントマンのオーディションを受けてみることになった。大学生活の合間のちょっとしたチャレンジだった。このオーディションに受からなくても、まぁ良いかなという軽い気持ちで応募してみた。その結果。




「ワオ! ブラボーだ! 君のような人材を待っていた!」

「えっと……、ありがとうございます……?」


 ということでオーディションを受けてみたところ、即採用になった。審査していた監督が大きな拍手で喜んでいた。そのオーバー過ぎるリアクションに、俺は戸惑う。


 なんだか、デジャヴを感じるような展開だった。以前も、こんな感じで大きく評価してくれる人が居た。その後、パッとしなかったけど。今回は、どうだろうか。




「君が新しいスタントマンか。よろしく」

「はい。よろしくおねがいします」


 撮影が始まり、俺は主演俳優のスタントマンとして仕事をすることなった。授業の合間に撮影に参加した。今までに無かった新たな体験をすることが出来て、なかなか楽しめる時間を過ごした。鍛えてきた身体能力も披露出来たので、満足だった。


 何事もなく撮影が終わって、数千万円という十分過ぎるギャラも貰った。




「いやぁ! 君は本当に素晴らしいスタントマンだった。それと同時に、素晴らしいアクターでもある」

「ありがとうございます」

「もし君が良ければ、僕の知り合いの監督に紹介したいんだが。どうかな?」

「本当ですか。俺のこと紹介してもらっても大丈夫です」

「うん。それなら、彼に伝えておくよ」


 社交辞令なのかなと思っていたら話が進んで、気付いた時には一週間後に面会する予定が決まっていた。


 驚いたことに、紹介してもらった監督の名は僕もよく知っている人だった。日本で生活していた頃、映画館でその監督の作品を何度か見たこともあるぐらい。


 会いに行ってみると、ものすごく歓迎された。


「ミスターハジメ。君を待っていたよ!」

「は、はぁ……」

「さぁ、撮影を始めよう」

「え?」


 監督に会いに来たと思っていたら、いきなり映画の台本を渡された。そのセリフを覚えるようにと言われてから数分後。俺は立派な衣装を着替えさせられて、カメラに囲まれていた。


 会って話をするだけじゃなかったのか。


 事情について聞く暇もなく、撮影が始まっていた。とりあえず俺は覚悟を決めて、渡された仕事を全力でこなすことにした。


 超有名な監督に初めて会うから緊張するだろうと思っていたら、緊張する暇も無く撮影が始まっていた。その猛スピードな展開についていけず、困惑したまま時は流れた。




「いやぁ、アレックスには一生分の感謝をしなければならないな。君のような天才と引き合わせてくれたことに」

「え、えーっと?」


 とりあえず言われた渡された台本通りに演技をしてみたら、感激した様子の監督に握手を求められた。とりあえず、彼のお眼鏡にかなったということかな。


 あとから聞いたところによると、俺を試していたらしい。どれくらいの実力があるのか。それを見極めるために、プレッシャーのある状況で課題を与えられた。そして俺は、見事にこなすことが出来たというワケらしい。




 それから、撮影する日々がメインとなって大学での勉強はサブになってしまった。それでも優秀な成績を維持することは出来ていた。


 時々、撮影のために授業を休んでも教授陣からは何も言われなかった。というか、むしろ応援された。


「君はもう、学校に通う必要がないほどの知識を学び終えている。なら君のために、有意義な時間の使い方をしなさい」

「撮影している映画の公開、楽しみにしているよ」

「まさか我が校からハリウッド俳優が生まれるとはなぁ……。撮影、頑張りなさい」


 という感じで好意的だった。監督が撮影のために手を回して、色々と大学に便宜を図ってもらっていたらしい。


 勉強するためにアメリカ留学してきたはずなんだけど、まさか海外で俳優としての活動することになるとは予想していなかった。




 撮影が終わったタイミングで、大学を卒業するための色々な課題がスタートした。映画公開に向けての編集作業が行われている最中、俺も大学を卒業するための課題をクリアするために頑張っていた。


 とは言っても、自分の課題についてはすぐにクリア出来ていた。友人たちを手助けするための時間のほうが多かったぐらいだ。


 そして大学の卒業は、無事に認められることになった。





 大学の卒業式が行われる日、航空チケットを贈って日本から両親に来てもらった。ピシッとした格好の両親を出迎えて、一緒に大学内を歩く。


「本当に、立派になって」

「すごいな。ここが、お前の通っていた大学か」


 歩きながら涙ぐむ母親と、興味深そうに大学のキャンパスを見上げる父親。


「ゲストは、あっちで見学できるよ」


 両親をゲスト席に案内してから、俺は大学卒業式に参加した。学長から卒業証書を受け取って握手した。


「君は、我が校始まって以来の優秀な留学生だった。卒業、おめでとう」

「ありがとうございます」


 学長からの卒業証書授与が終わった後、有名な映画スターによる卒業式スピーチが披露された。というか、知り合いだった。俺がスタントマンとして撮影に参加をしたときに知り合った、主演俳優のスターである。


 スピーチが終わった後、彼は俺のもとに近寄ってきた。


「久しぶりだな、ハジメ! 卒業おめでとう」

「うん。久しぶりだね、ジョン」

「まさか、君が学生だったなんて驚きだよ。しかも、こんな名門の大学を卒業できた優秀な学生だったなんて! 改めて、おめでとうだ」

「ありがとう。ジョンも出演した映画が順調なようで。めでたいよ」

「見てくれたのかい? それは、嬉しいなぁ」


 かなり親しみやすく話しかけてくれる彼。しかし今では、誰もが知っているような映画スターとして有名になっていた。俺が彼と知り合った時にも名前は知られていたけれど、今ほどではない。


「君がスタントマンとして参加してくれた、あの作品があったお陰だよ。あの作品で君と出会えたことが、今の俺の地位を確立してくれたんだ」

「いやいや。あれは監督の力と、主演だった君の能力、撮影に参加したみんなの力が合わさったことによる成果だよ」


 こんな風に過去を語ったりしながら、楽しく会話を交わした。振り返ってみると、まさか超有名な映画スターと知り合いになって楽しく会話を交わすなんて想像もしていなかった。交友関係の広がりを感じる。生まれ変わってから努力を続けて、チート能力を自重せずに披露してきたからだと思う。


 この先、俺はどうなってくのだろうか。非常に楽しみだった。



 卒業式が終わった翌日。俺の主演した映画の公開が始まっていたので、両親と一緒に見に行くことにした。スクリーンに映った俺の姿を見て、両親は感激していた。


 映画を観ていた他の観客たちの反応も良くて、俺はご満悦である。

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