一日目:魔女お雪、業務開始 第三話

 いったい何が起きたのかと亜耶は、洋一の部屋の入り口で茫然と佇んでいる。

「あたしの家に帰ってきたのに、ドアを開けたら洋一の部屋で……うそ? あたしの部屋はどこに行っちゃったの?」

 亜耶の狼狽ぶりと妙に静かな魔女の様子から、異変だと察知した洋一はベッドから飛び起きると、急いで部屋を出た。

 だが、そこは間違いなく彼の家の間取りだった。

「なんで! あたしのうちから入ったはずなのに、いつの間にか洋一のおうちに来てるじゃない!」

 それにも関わらずまだ混乱している亜耶に、洋一は異変の内容を理解した。

「ちょっと来いよ!」

 洋一は亜耶の手を引いて玄関に向かうと、キッチンにいた母親が足音に気づいて声を掛けてきた。

「あら、亜耶ちゃんこんにちは。洋一のとこに来てたのね。お茶でも用意するわね」

「あっ、すみません。お邪魔しています」

「ちょっと、母さん。いまそれどころじゃないから、あとで」

 急いで家を出ていく息子たちを見て、母親も訝しそうに見送った。

 洋一たちは外に出ると数軒となりの亜耶の家に入っていく。

「洋ちゃん、おひさしぶりね。今日は一緒に勉強?」

「おばさん、こんにちは。大した用事じゃないんで、すぐ帰ります」

 そのまま二階の亜耶の部屋へと向かった。

 ドアを開けると、その中は洋一の部屋。

 雪は座禅を組み、ドロッチャはイスに腰かけていたが、魔女たちは狡猾な笑みを浮かべながら黙って眺めている。

 二人は一旦室内に入り、ドアを閉めてから思い切って開けてみる。

 その先はついさっき出たばかりの洋一の家の間取りだった。

「やだ! また洋一のおうちに来てる!」

「もう一回、亜耶の部屋に行こう!」

 外出したはずの息子たちが、ふたたび部屋から出てきたので洋一の母も首を捻る。

 再度、亜耶の家に入ると彼女の母がまた声を掛けた。

「あら、二人ともさっき入っていったんじゃなかった?」

「すみません、忘れものです」

 亜耶の部屋のドアをあらためて開けると、その中は洋一の部屋。

 やはり魔女たちがくつろいでいる。

「ちょっと、どういうこと! あたしの部屋が洋一の部屋で、洋一のおうちの部屋も洋一の部屋で、あたしの部屋があたしのうちから洋一の部屋に……」

 そのまま卒倒して、膝から崩れる亜耶。

 慌てて洋一が彼女の背中を支えた。

「おい、亜耶、だいじょうぶか! お雪、これってどういうことなんだよ!」

「ひとつ屋根の下で、ともに生活を送れば一気に親密度があがるのですわ! 恋の合宿ですわよ!」

「そうじゃなくて、亜耶のおばさんにどうやって説明するんだよ!」

「三枝亜耶と知恵を合わせて、この艱難辛苦かんなんしんくを乗り越えるのだ。愛の力でな」

「うるさいよ! なんでふたりしてドヤ顔なんだよ。どうすっかな……」


 洋一は気を失った亜耶を、まずは自分のベッドに横にさせた。

 それから頭を抱えて室内をぐるぐると回る。

 だが、雪もドロッチャもそれ以降は何の言葉も発さず、ノーヒントだった。

 念のためドアノブを手に取る。

 恐る恐る回すと、ドアの向こうはやはり洋一の家だった。

 やがて、意識を戻した亜耶が、ベッドからゆっくりと身体を起こした。

「平気なのかよ。まだ無理しないほうがいいって」

「そうだった、あたしの部屋が無くなっちゃったんだ」

 途方に暮れた亜耶がドアを開くと、その間取りは彼女の家。

「あれ? あたしんちになってる」

「どういうことだ……わかった!」

 ドアを閉めた洋一は、あらためて自分でドアノブを回す。

 その先は彼の家の廊下。

 再度ドアを閉めて、次に亜耶を扉の前に立たせる。

「ちょっと亜耶がやってみて」

 亜耶がドアノブを回すと、そこに続くのは彼女の家だった。

「このドアノブのせいだ。どっちが触るかで外に繋がる家が違うんだ」

 無事に第一関門を突破した洋一に、雪もドロッチャも感心してうなずく。

 こんどは二人とも廊下に出て、ドアを交互に開くも中はどちらも洋一の部屋。

「外のドアノブはどっちが触っても、僕の部屋になっちゃうんだな」

「あたしの部屋は無くなったけど、とりあえずここにいても、すぐ家には帰れるんだ」

 二人は一旦室内に戻り、状況を整理していた時だ。

 ドアがノックされて、廊下から亜耶の母の声がする。

「亜耶。洋ちゃんが来てるなら、おやつ持ってきたけど?」

「ちょっ、洋一! お母さんだ!」

「あわわ……マズい! おばさんが開けたら僕の部屋だってバレちゃう!」

 慌てふためく二人を見て、魔女たちも声を殺して笑う。

 亜耶はドアノブを回すと、室内が見えないように隙間から首だけ出して母に話しかけた。

「いま、洋一にテスト勉強をみてもらってるから、そこに置いといてくれればいいよ」

 怪訝そうに盆を廊下に置いて、亜耶の母は去っていく。

 母の気配が消えたところで、亜耶はジュースと菓子が乗った盆を室内に回収する。念のため中身も片づけることにした。

「さて、僕らこれからどうする? このヘンな状況がいつ終わるか……」

 洋一は器用に首をひねって腕組みしながらクッキーを食べ進めていると、座禅をしていた雪がおもむろに立ちあがる。

「洋一、なにか書くものを借りるぞ」

 雪が紙とペンを取り出すと、なにかをさらさらと書いていく。

 そしてベッドの上に立って腕を伸ばすと、指先から紙をぱっと離した。

 それを見た亜耶が驚いて、洋一の背後に隠れる。

「やだ、洋一! 紙が部屋の中から急に出てきたよ!」

 魔女の姿は見えないが、魔女の手から離れたものは普通の人にも見えるようだった。

 洋一はひらひらと降りてくる紙を捕まえる。

「なになに……『明日の朝七時まで、この状況をやり過ごすが良い 神より』ってなんだよ、こりゃ」

「ちょっと待ってよ! あたしの部屋が明日まで無くなっちゃったのっ?」

「これはヤバいよな……どうしようか。まず家族を騙すしかないよな」

「なんで、洋一はそんなに落ち着いてられるのよっ!」

「あ、いや、まぁ、起きたことに対してどう対処をしようかって焦りはあるけど」

 まさか知り合いの魔女がやったことだ、とは到底言えないため、洋一はとりあえず現状の打開策を考えた。

「亜耶に開けてもらって、僕が家を出ていく。おばさんに僕が帰ったって思わせないと。いったん外に出よう」

 亜耶がドアノブを回して、彼女の家の廊下に出る。

 そのまま階段を下りて玄関へと向かう洋一を、見送るていで後に続く亜耶。

「すみません、お邪魔しました」

「ごめんね、洋ちゃん。亜耶の勉強を見てもらって。またよろしくね」

「お母さん。あたしまだ部屋でテスト勉強の続きをしてるから、今日は静かにしてよ」

 洋一は彼女の母に会釈をすると、何食わぬ顔をして玄関を出ていく。

 亜耶も自分の部屋の扉へ戻る。

 洋一が自宅に帰ると、母が物音に気づきキッチンから顔をのぞかせた。

「亜耶ちゃんが遊びにきてたんじゃないの?」

「あぁ、もう帰ったよ。いま送ってきた」

 そう言い残して自分の部屋に入ると、そこには先に戻っていた亜耶と魔女たちがいた。

「これで、まずはお互い自宅にいるってことになったな。よかった」

 洋一はほっと胸を撫で下ろして、ベッドに座り込む。

「全然よくないよ! あたしの部屋がなくなってどうするの、これ!」

「明日の六時五十九分に亜耶が廊下に出れば、一分後には元の部屋に戻ってるはずだろ。それまではこうするしかないじゃないか」

「はぁ……もう、最近は洋一と一緒にいたら変なことにばっかり巻き込まれるじゃない。ホント最低、これは悪夢だわ」

 亜耶は髪をくしゃっと掻き上げ、天を仰ぐと深い溜息をついた。

 いつもは学校でも同じ時間を過ごしたり、たまには互いの部屋を行き来もしているが、今日もまた、なんとなく気まずい空気が流れていく。

「まぁ、お構いもできないけど、明日までゆっくりしてよ」

「言われなくたってするわよ。するしかないでしょ」

 亜耶はカーペットの上に腰を落とした。


 それきり互いにスマートフォンを眺めたり、漫画を読んだり、ゲームをしたり、無言の時間が続く。

 しばらくは洋一たちの様子を見ていた魔女たちは、窓際まで歩き出す。

「じゃあ、そろそろお邪魔ものは退散しましょう。あとは若いお二人に任せますわ」

 ドロッチャがウィンクをすると、ほうきにまたがりガラス窓を通り抜けていく。

 雪も頬を吊り上げて、ぎこちなく片目を閉じると、竹刀にまたがり飛んでいった。

「ウィンク下手か」

「何言ってるの、洋一?」

「あぁ、こっちのこと」

 それからも時計の針だけが、刻々と時間を刻む。

 漫画を読んでいた亜耶はスマートフォンを手に取り、現在時刻を確認すると立ちあがった。

「あたしんちの夕飯は六時半なの。部活が終わるの早い日はいつもお母さんと一緒に食べてるから」

「あいよ。うちは七時だから。そのあと行くわ」

 亜耶が退室すると、窓ガラスから首だけ通り抜けた雪が、声を掛けてくる。

「なにをマッタリと……お前らは老夫婦か。モタモタしているな、洋一。私の魔法はもう今日は使えないのだぞ。もっと接近せよ」

「わかってるって。まったく、こんな目に遭わせておいて、よく言うよ」

「洋一が願った契約であろう。はやく成就させよ」

 雪はまた首を引っ込めて、屋外へと出ていった。


 それぞれの家族と夕食を済ませて部屋に戻ってきた二人。

 またも持て余した時間は無為に流れていく。

 やがて、午後九時を過ぎた頃になって、急に亜耶がそわそわしだす。

「ねぇ、洋一。あたしそろそろお風呂に入りたいんだけど」

「行ってくりゃいいじゃん。うちは時間は決まってないから」

「そうじゃなくて。この格好をどうするの?」

 亜耶は帰宅した時から着替えができておらず、未だ制服のシャツとブレザー、スカートのままだった。

「僕の部屋着で洗濯してあるやつから、好きなの選んでいいよ」

 洋一は自分のタンスとクローゼットを開けて、亜耶に服を選ばせる。

「まさかこんなことになるなんてね……もう最悪!」

 着替えを持った亜耶が部屋を出ていくと、洋一は自分の身体の匂いを嗅ぐ。

「……僕も風呂に入るか。くさいと嫌われそうだもんな」

 洋一がさっと入浴を終えて部屋でくつろいでいると、亜耶が戻ってくる。

 借りもののスウェットのズボンにTシャツを着ていたが、少しサイズが大きくだぼっとした男物のシャツは、亜耶のうなじや鎖骨のあたりが襟元から見えた。

 自宅にはない、流行りの女性もののシャンプーの香りをさせた風呂あがりの亜耶の姿をみると、洋一も緊張感が増して心拍があがっていく。

「……なに見てるのよ」

「あ、いや、やっぱ女の子って風呂の時間が長いんだなって……」

「お風呂だけじゃないんだから。ドライヤーかけたり大変なんだからね」

 洋一は室外へ出ると廊下にある収納スペースから、毛布とクッションを用意する。

 毛布を床に敷いて、クッションは半分に折って枕のかわりにした。

「とりあえず僕がこれで下で寝るから、亜耶はベッドを使ってよ」

「いいよ。悪いから、あたしが床で寝るから。だって洋一のベッドでしょ?」

「いいって。カーペットとはいえ床は堅くて寒いんだから、こんなとこに女の子を寝かせらんないだろ。それとも男のベッドが嫌だったりするのかな、やっぱ……」

 念のため、亜耶が風呂に入っているうちに、消臭スプレーも満遍なく噴霧したのだが。臭い、汚い、生理的に無理と言われたらどうしようと、内心不安であった。

「……べつに洋一のふとん嫌じゃないよ」

 亜耶はベッドに腰掛ける。その視線は敢えて洋一と合わせないように、室内を見回していた。

「こうやってお泊まりで亜耶と寝るのはいつ以来かなーって……はは」

 無言の間をつぶすように洋一も話題を振ってみるが、くだらない話にくわえて愛想笑いなどする自分に、嫌気がさした。

「いつだろ……小学校卒業する前くらい以来じゃない?」

「そんなになるっけ? なんかずいぶん空いたんだな」

 子供の頃から日常の接し方はなにも変わらないのに、いつの間にか互いを異性として認識している。

 でもそれを素直に認めたら、いままでの関係や距離感が壊れてしまうかもしれない、と臆病になっている部分がある。

 それは洋一も、亜耶も。

 流れた時間がそのことを雄弁に物語っていた。

 亜耶が洋一と視線を合わせにくかったのも、不思議な異変のせいとはいえ、言い換えれば彼の家にお泊まりをしているという事実が、なんとも照れ臭かった。

 はやく眠って今日を終わらせてしまおうと、亜耶は腕を大きく伸ばして、それとなく洋一に意思表示した。

「さて、あたしは部活だけじゃなくて、今日のヘンなことで疲れちゃったから、そろそろ寝ようかな」

「さすが運動部は健全だな。いつもならこっちはまだダラダラとスマホ見てるよ」

 室内の照明が消され、二人ともふとんや毛布の中に入った。


 暗然とした室内に、無音の時間が続く。

 洋一も眠りにつこうとするが、目が冴えてしまいまったく眠れない。

 昨晩も雪だけでなくドロッチャまで同居しはじめたせいで寝不足だったのだが、久しぶりに亜耶が同じ部屋で寝ている、という事実だけで胸の鼓動が高まっていった。

 亜耶は背を向けて壁側に顔があるせいか、その様子を窺うことはできない。

 彼女の寝顔はどんな感じなのか。

 子供の頃よりは彼女の寝相は良くなっているのか。

 もしかしたら自分の服が着崩れしてしまうのではないか。

 倫理と理性と欲望がせめぎ合う中で、魔女たちが覗き見をして楽しんでいるかも、という一抹の恐怖が彼を制御していた。

 渦巻く邪念を捨て払うように毛布をくるっと頭まで巻いて、必死に目を瞑る。

「ねぇ……洋一。まだ起きてる?」

 亜耶が寝返りもせず壁を向いたまま声を掛ける。

「……起きてるよ」

 それからまたしばらく無言になる亜耶に、洋一は毛布から首を出した。

「洋一が自分が床で寝るって言ったときに、あたしのこと女の子だからって言ってくれたよね……あれ、嬉しかったよ」

 また、それきり会話もなく、やがて亜耶も寝息を立てはじめた。

『どういう意味なんだ、いったい……』

 洋一は逆に思考を延々とめぐらせている。

 しかし、二晩連続の寝不足はさすがに堪えたのか、そのうち眠りに落ちていった。

 魔女たちはベランダに立って、室内の様子を覗き込む。

 ドロッチャは興奮して身を乗り出すと顔をガラス窓から透過させるが、室内を見るなり明らかに落胆する。

「なんですの、これは……せっかく激しい愛の夜を過ごしているのかと思ったら……ホントに先が思いやられる二人ですわね」

「仕方あるまい。の刻三つになり、日付をまたいだので新たな魔法が使える。このまま作戦第二弾だな」

 雪は大きく構えた魔法スティックを振った。


 翌朝。

 亜耶はカーテンの隙間から差し込む陽光で目を醒ました。

 手元にあるスマートフォンを眺める。

「うそっ! アラームが止まってるんだけど、どういうこと!」

 その声に驚いて飛び起きた洋一もスマートフォンを見ると、彼のアラームも停止していた。

「だって、六時五十八分に鳴るように、ふたりしてセットしたはずじゃん!」

 現在時刻は七時十四分。

 慌てて亜耶がドアを何度も開閉させるが、その先はもう洋一の自宅ばかりであった。

 階下からは洋一の母の声がする。

「ちょっと、洋一。寝坊するとまた亜耶ちゃんが待っちゃうわよ。早く起きなさい」

 そのまま足音は階段をあがってくる。

「母さん、起きた、起きた。おはよう、起きたよ」

 洋一は大声で母にアピールするが、その足音は止まない。

「それなら、シーツ洗うから。はやくあんたは朝ご飯を食べなさい」

 この状況を見られて取り繕う言い訳も思いつかずに涙目で狼狽する亜耶を、洋一はベッドの上に押し倒す。

 そのままふとんをかぶせると、自分もその中に潜り込み、顔だけ出した。

 直後、ドアが開き母が入ってきた。

「なにしてんのよ、洋一。まだ寝てるじゃないの。ほら、シーツ取るからそこからどきなさい」

「だいじょうぶ、ほら、すごく起きてる。シーツも自分で取るから全然だいじょうぶ」

「はやくしてよ、洗濯機まわしちゃったのよ。シーツよこしなさい」

 ふとんの中では亜耶が背中を丸めて息を殺している。

 洋一も慌ててふとんに潜り込んだせいで、互いに抱き合うように向きあってしまっていた。

 緊張で震える亜耶のかすかな動きを、彼女の吐息を、洋一は胸元で感じた。

「だいじょうぶだから、すぐやるよ。ものの数秒でできるから、先に行っててよ」

「ちょっと、ふざけてないではやくしなさい」

 いよいよシーツを取ろうと手を伸ばす母を、彼は真剣な顔で諫めた。

「母さん……言いにくいけど、寝相が悪くてパンツが脱げてるんだ。それにほら、朝だから、生理現象でさ……ね?」

 母は大きく吹きだすと廊下へと戻る。

「わかったわよ。あんたの名誉のために出ていくから、はやくしなさいね」

 ドアが閉められると、ほっと安堵の表情を浮かべ、洋一は掛けぶとんをめくった。

「母さんに出てってもらうには、あぁ言うしかなかったよ。とにかくこれで……」

 間髪いれず亜耶に頬を盛大に叩かれてベッドに倒れた。

「ヘンタイ洋一っ! あたしもう帰るから、早く支度しなさい!」

 洋一がシーツを洗濯機まで持っていっている間に、亜耶は制服に着替えると、彼の先導で足音を立てぬよう息を殺して、玄関を出ていった。

 自宅へ戻ると彼女の両親が朝食を摂っている。

「どうしたのよ、亜耶。起こしに行っても部屋に姿もないから心配してたのに」

「ごめんね、お母さん。あのね、すごい早い朝練に行ってた」

「それで、わざわざ学校から帰ってきたの?」

「そう、朝ごはん食べるためにね!」

 怪訝そうに見ていた母も、娘を朝食の席へと手招きした。


 一方、洋一が制服に着替えていると、魔女たちが窓から入ってきた。

「なかなかの機転でしたわよ。なんて言ってお母さまを追い出すのか、ワクワクしてたら、まさかあんなことを言うなんて」

 意味もわからずドロッチャから解説を聞いた途端、頬を染めて無言でいる雪とは対照的に、とても嬉しそうに話すドロッチャ。

「とんでもない話だよ。いいかい、お雪。今後はドロちゃんの作戦は禁止だぞ!」

「あら? それでも多少はヨーイチとの仲も進展したのではないかしら?」

 彼の怒りには気にも留めず、ひょいと肩をすくめたドロッチャは、クローゼットからティーポットとカップを取り出し、優雅なモーニングティーの準備を始める。


 洋一が自宅を出たところで、ついさっき別れたばかりの亜耶が玄関の前にいた。

 頬をぶたれて変態呼ばわりされてしまい、今日はてっきり置いていかれたと思っていたので、彼女の姿に驚いて言葉も無く立ちつくす。

「……ほら、遅刻するからはやく行くわよ」

 亜耶もばつが悪そうに顔をそむけると、駅にむかって歩き出した。

 その後を小走りで追っていく洋一。

 互いに会話は無かったが、それでも付かず離れず、二人は一緒に登校した。

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