シーズン1・エピローグ そして二人は幸せなキスをしました。めでたしめでたし…?



 念のため、倒れている火威の肩を蹴ったり、頭を揺すってみたりしたが起き上がってはこなかった。


「ははは…!はは!勝った!勝ったぁあああああああああああああああああああああああああああああああああ!あああああああああああああああああああああああああああああ!見ててくれたか!マリリーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!」


「ええ!見てたよ!イツキ!見てたよ!!あんたが勝つところ!ちゃんと見てたよ!!」


 屋上の出入り口にマリリンがいた。その後ろには警察の特殊部隊員と雲竜刑事もいた。マリリンは俺の方へ走ってきて、胸に飛び込んできた。


「すごいよ!!やったね!イツキ!頑張った!すごいよ!あんたはすごいよ!!良かった!良かった!イツキ!イツキ!!」


 マリリンは涙を流していた。だけどその顔には悲しみはなかった。眩しいくらいに綺麗な笑顔があったんだ。俺はマリリンをぎゅっと抱きしめる。この勝利を共に分かち合いたいから。


「勝ったよ!マリリン!勝てたよ!君がいたから!俺の隣に君がいてくれたから!!だから勝てた!ありがとう!マリリン!ありがとう!傍に居てくれてありがとう!!大好きだ!!愛してる!!」


 俺たちはただただ抱きしめ合って、互いの熱を感じ合っていた。勝利の高揚と、そしてこれからの未来への希望と。そんな楽しい気持ちを分け合って。


「ははは。いやー盛り上がっているところすみません。ちょっとお話良いですかね?」


 雲竜刑事が若干気まずげな感じで、俺たちに話しかけてきた。


「はは。まずはお礼を。お二人の御蔭でこの悪党をやっと逮捕できました。さきほど政府から連絡がありました。火威と繋がる悪党たちの一斉逮捕が今から行われます。この件はこれでケリがつくでしょう。お二人の幸せを阻むような不届きな輩はもういません」


 警察の特殊部隊員たちは火威をありったけのバインドや拘束具を使って縛り上げていた。そして警察のヘリがやってきて、火威の身柄はそれに乗せられた。


「本来ならば現場検証するのが筋なんでしょうけどね。まあたまにはいいでしょう。この屋上は警察の力で貸し切りです。どうぞお二人で最高の夜をお過ごしください。それでは失礼!」


 雲竜刑事と特殊部隊員たちはそのままヘリで屋上から飛び去ってしまった。そして俺とマリリンだけが屋上に残された。二人っきりで。


「ねぇ見てイツキ。すごく綺麗ね…」


 俺に身を寄せるマリリンの視線の先には東京のネオンが見えた。その灯り一つ一つが俺たち祝福しているかのように見えた。


「そうだね。とても綺麗だ。でもね、あの街の光よりも俺たちの未来の方がずっとキラキラしてるし、何よりも君の方がずっとずっとずぅううっと!綺麗だよ」


「くくく、あはは!すごく月並み!でもすごく嬉しいよ!すごく嬉しいの!あはは!大好き!イツキ大好きだよ!大好き!!愛してる!!」


 マリリンは俺の首筋に腕を絡めてきた。マリリンの瞳が何処か熱を帯びているように濡れていた。だから俺は彼女の頬に手を添えて。


「マリリン…」


「イツキ…ちゅ…ん…」


 俺はマリリンの唇を優しく奪った。軽く触れただけなのに、甘く痺れている。


「はじめてなのに、甘くて何よりも痺れてる…。あーあ…人生はじめてのキスは神父様の前でしてみたかったのに、あなたのせいで悪い子になっちゃったわ。ふふふ。でもね、もったいぶってて良かったかもね。だってこんなに素敵なんだもの!」


「でもこれからはもったいぶらないから…そのつもりでいてくれよ」


「じゃあ早く二度目も奪ってよ。三度目も、四度目も、これから先の全ても!」


 マリリンは甘い声でそう俺を挑発した。だから思い切り激しくマリリンの唇を奪う。啄んで舐って交わって、互いを求めあって。そして俺たちは幸せなキスをして、復讐を果たしたんだ。






めでたしめでたし!







 六本木ツリーズビル地下のウルザブルンサーバールームはまるでカタコンベのようだった。サーバーを常に冷却するためにサーバールームは常に冷やされ続けていた。黒い柩型の大きなサーバーが何百台も並んでいた。それらはチカチカと光ながらつねに送られてくるアプリユーザーの莫大なリクエストを処理し続けていた。


「わたしは思うんですよ。神様は人の心にこそ住まうものだとね」


 桜色の髪の女が白い息を吐きながら、サーバー筐体の間の通路を歩いていく。


「今回の騒動がまさにそれです。本来なら神実樹は火威さんの企みになど気がつかずにいたでしょう。だけどスターカデット隊のマリリン・ハートフォードが粛正を逃れて、筋違いで逆恨みの復讐を果たそうとした。ですが失敗した。何があったかはよくわかりませんが、今のハートフォードさんは神実樹の傍に居る。彼女はきっと彼に運命を見たんでしょうね。その気持ちはわかりますとも。ええ、よくわかる…。復讐鬼だったハートフォードさんは己が心の中にいる神様の導きに従っているのでしょう。…故に愛は必然的に生まれてしまった。そう思います」


 そして女はサーバールームの中心に辿り着いた。そこには硝子で出来た柩が一つあった。中には一人の女が横たわっていた。白いドレスを着た黒髪のとても美しい女の亡骸。穏やかな笑顔のまま横たわっていた。柩に横たわる女の胸には一本の矢が刺さっていた。そして一口齧られた黄金の林檎を、彼女は両手で持っていた。


「ですがはっきり言って今回の件は甚だ遺憾なんですよ。ワークショップは神実樹の動向には常に注意を払っていたんです。ですがあの論文流出事件。あれの所為で彼の運命は大きく狂ってしまった。わたしたちワークショップは彼を裏の世界のアプローチから守り続けていた。ですが結局ハートフォードさんは神実樹に辿り着いてしまった。思うんですよ。あの二人の出会いは運命ですか?それともなにか質の悪いマッチポンプか何かなんじゃないんでしょうか?だってあの論文はここから送信された。…貴女が送信した。違いますか?」


 桜色の髪の女は柩に冷たい視線を向けている。柩からはいくつかのケーブルが伸びていた。そしてそれらは近くのサーバーと繋がっていた。


「黄金の林檎を投げ入れられてしまえば、神々さえも争わざるを得ないのです。トロイヤ戦争なんていい例ですよね。ましてや人の子であれば、それは避けようもない残酷な運命となる。すべての人たちを等しく破滅へと誘っていく。一体何なんですかね?あの馬鹿二人の決闘騒ぎとかね。楽しかったですか?きっと見ていたんでしょう?女としては最高に震える光景ですよね?自分を巡って雄同士が殺し合うのを高みから睥睨するのは雌の快楽ですものね。良かったですね。贔屓している男が勝って。そしてあなたは魔王から解放された。囚われの姫は今やキスを待つだけの身となった。あなたこそがきっとこの世界最高のお姫様でしょうね。気持ち悪い…他人を振り回さないと気持ちよくなれないなんて憐れですよ」 


 柩の横にしゃがみこみ、桜色の髪の女は柩の女の顔を覗き込む。


「あなたは本当に魔女ですよね。あなたは無垢であっても、何か他者の心の闇を炙り出すような質の悪いところがある。だからあなたに関わってしまった人は誰一人として幸せにはなれなかった。そう思いませんか?枢さん」


 そして桜色の髪の女は、柩の女が持っている齧りかけの黄金の林檎を睨みながら、禍々しい笑みを浮かべる。


「磐座枢。わたしはあなたを赦さない。あなたに彼は渡さない。黄金の林檎も渡さない。例え両方ともあなたに口をつけられて穢されていても必ず取り戻すって決めたの。だからそのままそこで死んだままでいてよ!あなたはもう出しゃばらないで!この世界にあなたの居場所はもうないの!不和の魔女はこの世界にはいらない。わたしに討伐されたままでいて。あなたの思い通りになんてさせない。世界はわたしが救う。楽しみにしててね。救われた世界にあなたの居場所はないのだから…くくく、あははははは!!」


 何処か物悲しい笑い声がサーバールームに響き渡る。それを聞いてくれる人は誰もいなかった。






シーズン1・完結!


そしてシーズン2へ続く!


 




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ベンチャー・リベンジャー 復讐の為にベンチャーを起業しました!『株式の半分をくれてやるから許してくれ』なんていまさら言っても、もう遅い! 園業公起 @muteki_succubus

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ