赤井 咲子 その2

《オイコラ開けろ! 話は済んでないぞ!》


 俺は必死になって窓をガンガンと叩く。もう一度引っ掻いても良かったが、それをすると二度と開けてもらえない気がして自重してみた。


 三度目の正直か、ようやく咲子は俺が念話テレパシーを飛ばしている事に気がついたらしい。


「え? マジなんなの? 猫が喋ってるの? …怖いんですけど?」


《とりあえず部屋の中に入れてもらえるとありがたいのだが…?》


 疑問符の山に頭ごと埋もれている咲子の思念ことばを遮って更に窓を叩いた。


 咲子は観念したのか、窓を開けて俺を迎え入れてくれた。その目には警戒と恐怖が混在しているのが見て取れる。とにかく事情を話して協力を取り付ける事が何より先決だ。


《まずは落ち着いて話を聞いて欲しい。私は銀河警備隊、第624恒星系担当、ユグロ・パタラデン特務大尉だ。今地球は侵略者ズコビェースによって危険に晒されている。君は超能戦隊色彩戦士レットゥルトゥーアの一員として君の故郷である地球を守って欲しい》


 我ながら良い切り出しだ。故郷を守る戦士となれば現地人にとっても最高の栄誉だろう。彼女はその栄誉に感涙し俺を崇拝するような目で見て……。


「おかーさん! 変な喋る猫が居るの、警察か保健所呼んでー!」


 って、おま! 何してくれてんだよ?! せっかく1人の所を狙ったのに他人を呼びつけようとするんじゃねーよ!


 ええい、こうなったら最終手段だ。俺は敵勢力との戦闘が激化した時に備えて、周囲に被害を出さない為に戦闘フィールドごと異空間に転移させる『敵勢力との戦闘が激化した時に備えて周囲に被害を出さない為に戦闘フィールドごと異空間に転移させる装置』を起動させた。


 枯れ草の広がる荒れ地とポツポツと光のバラけた星空しかない空間。それが『退避用異空間』だ。ここでならいくら暴れても、それこそ熱核反応弾を使用しても外の空間には一切の被害は出ない。ズコビェースとレットゥルトゥーアとの間で戦闘が激化してきたら使うつもりだったが、こんなに早く使う事になるとは思っても見なかった。


「え? 何これ? ここドコ?」

 咲子は辺りをキョロキョロと見回している。自分が異空間に転移された事など想像だにしていない様子だ。


《…そろそろ話を聞いてもらっても良いだろうか?》


 錯乱している咲子を落ち着かせようと、俺も努めて穏やかな口調で話しかける。


 咲子は俺を見ると、体の小さな俺と視線を合わせるように俺の前にひざまずく。そのまま腰を落とし正座した。


 よしよし、これでようやく本題を切り出せるというものだ。俺が新たな思念を出そうとした時に、咲子は正座の状態から手を前につき頭を下げた。


「…お願いです。家に帰してください。餌を上げなかったのは謝ります。戻ったら猫缶でも何でも差し上げますから…」


 いや俺、誘拐犯じゃねーから!

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