桃田 純愛

 5人目にして最後の戦士候補者だ。名を桃田ももた 純愛ぴゅあらぶと言うらしい。

 年齢は16歳との事だが、咲子達の様に高等学校には通っていないそうだ。どこかの店で働いているのかと言うとそうでも無く、純愛ぴゅあらぶの居場所を示すレーダーの光点は人気ひとけの無い山の中にあった。


 大方、休みを利用して1人でキャンプでもしているのだろう。全く、星全体が危険に晒されていると言うのに太平楽な事だ。

 まぁ、1人で居てくれているのなら周りを気にせずにゆっくりと接触出来るので、こちらとしても助かる。


 純愛ぴゅあらぶの近くに転移テレポートして様子を伺う。雪深い山中にひっそりと建てられた小さなテント、その脇で武道の道着を着て一心不乱に樹木を叩いている筋骨隆々とした男がいた。


 格闘家が山篭りでもしているのか、男は身長は180cmを超え、逞しくしなやかな肉体を持っている。こちらに背を向けているので人相は判然としない。


 まぁそんな事はどうでも良い、肝心の桃田純愛ぴゅあらぶはどこに居るのか? 俺は探知レーダーの精度を最大にする。


 ……他に人は居ないね……。


 え? と言う事はあそこで樹木を叩いている奴が純愛ぴゅあらぶなのか? シルエットからでは到底女性とは思えない。


 俺はこっそりとその人物に近づいた。木を殴る度に「はっ! はっ!」と掛け声が上がる、その声質は紛れも無く若い女性の物、しかも咲子達よりも幼げな感じの声だった。


《…桃田純愛ぴゅあらぶよ聞こえるか?(以下略)》


 俺はその人物に念話テレパシーで呼びかける。思念に反応して振り向いたその人物は、固く節くれだった拳、強靭な顎骨、親指程に太い眉毛、細く鋭い眼光、そして赤いリボンで結ばれた2本の三つ編みお下げを持つ、紛れも無い『女子』であった。


 しかしながらその発する闘気は研ぎ澄まされており、彼女(?)に無言で一瞥されただけで、ただでさえ低い周囲の温度が更に2度ほど下がった気がした。


《…失礼、君が桃田純愛ぴゅあらぶで間違いないかな?》


 俺の質問に無言でゆっくりと頷く彼女、あらゆる面で想像の斜め上を行って動揺しているせいか、俺も上手く言葉が出てこない。


《…あー、私は銀河警備隊、第624恒星系担当、ユグロ・パタラデン特務(中略)地球を守って欲しい》


 純愛ぴゅあらぶは黙ったまま俺を見つめている。その目からは何の感情も読み取れない。もしかして捕食対象と思われている可能性もある。ちょっと怖い。


《…えーと、君には戦闘用のバトルスー(中略)い戦士になれるのだ》


 そう言って俺はいつもの通りに純愛ぴゅあらぶの前に桃色のバトルスーツを披露してみせた。

 彼女はそれを数秒見つめたあと、奪い取る様にバトルスーツを手にし、


「委細承知…」


 とだけ答えてまた樹木を殴り始めた。


 承知してもらえたみたいだから一旦帰るとするか……。

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