第2話
アルドがゴブリン達を追いかけてケルリの道からデリスモ街道に差し掛かったところで、
1体のゴーレムが行く手を塞いでいる。
そのすぐ傍からゴブリン達の声が聞こえた。
「オイラ達は今日からゴブリン達の未来を創造する『れじぇんど』になるゴブ!」
ところがアルドには目の前の1体のゴーレムしか見えていない。
周囲を見渡してみてもゴブリンらしき姿はどこにも見当たらない。
「ゴブリンはどこにいるんだ?隠れていないで出てこい!」
アルドの少し怒った問いかけにゴブリン達は応えた。
「オイラ達は逃げも隠れもしない。ここにいるゴブー!じゃじゃーんゴブ!」
なんと、ゴーレムの背中に3匹ともしがみついているではないか。
これにはアルドも呆れ顔。
「ゴブリンがたくさんしがみついていたらさすがにゴーレムも重たいんじゃないかなー。」
ゴーレムのことなんかはお構いなしのゴブリン達は、ゴーレムを少しアルドに近づけさせて不敵な笑みで満たされた顔をゴーレムの背中から覗かせた。
「このゴーレムの一撃でギッタンギッタンのボッコボコにしてやるゴブよ!」
「ほじょのゴブにかかればゴーレムはさいきょーの中のさいきょーになるゴブ!」
「オイラ達とゴーレムで世界を征服するんだゴブ!」
このゴブリン達の言っていることには何か引っかかるものがある。
「ゴブリンの支配する未来を目指している割にはずいぶんとゴーレムへの依存が強いんだなー。」アルドは腕を組んで一言ぼそっと呟いた。
これを聞き逃さなかったゴブリンは怒り心頭に発した。
「ムキーッだゴブ!」
「もう怒ったゴブ!」
「そんなことを言ってられるのも今のうちゴブ!」
忘れないで頂きたい。ゴブリン達はずっとゴブリンにしがみついたままなのである。
ゴブリン達が怒りに任せてアルドに罵声を浴びせようとしているのだが、ゴーレムからは一切降りる気がないのだ。
「ゴーレムから顔だけを見せているだけじゃ何を言っても説得力が微塵も感じられないぞ!」アルドは驚いた表情を隠せない。
そんなやり取りが繰り広げられている中で、ゴブリン達が怒りを露わにしている辺りの時点からゴーレムの動きが完全に停止している。
だが、ゴブリン達もアルドもゴーレムの異変には気づいてはいなかった。
静かにゴーレムの目が赤く光り始め、そして静かにゴブリン達に対する怒りが今にも爆発しそうになっている。
ゴブリン達はアルドの言葉に腹を立てて
「ゴーレム行くゴブっ!今こそオイラ達の宿敵にとどめを刺す時だゴブっ!」
「やっつけるゴブっ!」
「ゴーレムがんばれゴブっ!」
口々にゴーレムにアルド一行をやっつけるように鼓舞した。しかし、ゴーレムからは降りないので第三者から見ればまるで木馬の背中で叫んで暴れる3人の子供たちのようである。
当然の事ながら、このゴーレムの主人(コアを構成した持ち主)はゴブリン達ではない。
ゴーレムが怒りを募らせながら事の発端についてコアに宿る回想記録を引き出した。
それはアルド一行がゴブリン達に遭遇する3日ほど前のこと。
元々の目的は時空の穴を通って古代にやってきたゴブリン達をデリスモ街道でたまたま見つけて、他の生き物の縄張りにいる部外者だと認識して排除しようというものだったのだ。
ゴブリン達は自らを『人間や魔獣に代わって未来の大地を支配する者』と語っていた。
続けて、今のこの時代でゴーレムがゴブリンを排除すればゴーレムや周囲の仲間の未来は保証しないと語っていた。
ゴーレムにとってはまだ『魔獣』の存在を認知していない上に、何よりも主人の未来が危険なのはとても困るのでゴブリン達の依頼をしぶしぶ承諾し、ゴブリン達にとっての『宿敵』を排除するよう協力することにした。
―それが今では、その時と辻褄の合わない戯言を放ち続けているのではないか―
ゴーレムはコアに宿る思考回路で考えた。
そして、悟った。
―もしかしたら未来はこの卑怯者共の手に渡ってはいないのではないか―
ゴーレムの周りを殺意の思念が渦巻き始めたところでゴブリン達はやっとゴーレムの様子がおかしいことに気が付いた。
「ゴブっ!?何やら嫌な予感がするゴブ。」
「背筋に悪寒が走っている気がするゴブ。」
「ひとまず逃げるゴブー!」
ゴブリン達がゴーレムからやっと降りた瞬間、ゴーレムは満ち満ちた怒りに我を忘れてついにタガが外れたかの如く暴走を始めた。
「なんでゴーレムが暴走を始めるんだ!?」
アルドは驚いて剣を構える。
ゴブリン達はといえば、なぜかアルドの後方に回った後に付近の草むらに逃げ込んだ。
「オイラ達をぶじょくした罰だゴブ!」
「さっさと退治するゴブ!」
「そうだゴブ!」
なんだか言っていることがめちゃくちゃである。
「ひとまず暴走しているゴーレムを何とかして止めないと周囲に被害が出そうだ。行くぞ!」
アルド一行はゴーレムの暴走を止めるため戦闘モードに入った。
アルドの剣さばきによってようやくゴーレムのコアは正気を取り戻した。
すっかり弱ってしまったゴーレムはアルドに話しかけた。
「ヤツラ ハ…ワレラノ ミライヲ ホショウシナイ…ト…」
普段は多少ながら勘が鈍いところがあるアルドでも、この一言でゴブリンがゴーレムと協力関係にあった理由を悟った。
そして、アルドは跪きゴーレムを安心させるために一言だけハッキリと伝えた。
「大丈夫、未来はゴブリン達だけの世界じゃないよ。」
―ソウカ…ソウダッタノダナ…ソノコトバヲ…ワレハシンジヨウ―
ゴーレムはゆっくりと停止していた身体を動かし始めた。
そして、デリスモ街道に向かって少しずつ歩を進めた。その背中は安心したのかアルドには少し緊張が解れたかのように見えた。
「これではゴーレムが気の毒だぞ。」
アルドは一段落したところで腕を組んで草むらの方へ向いた。
草むらにはゴブリン達の影も形もなかった。
「ん?なんだって!?逃げたのか?」
アルドは驚いたが、こちらも探すための手段が無い訳ではない。
アルドは仲間である未来の汎用型アンドロイドのリィカを呼んだ。
「お呼びデスか、アルドサン。」
リィカはすぐにやって来て困り顔のアルドに問いかけた。
「俺らの時代のゴブリンがたまたまこの時代にやって来て悪巧みを企てているんだ。
目を離した隙に逃げていったんだけど、さっきまでここの草むらに居たからニオイでどこに逃げていったか判別してくれないか?」
「オ易い御用デスノデ!ワタクシにお任せくだサイ。」
リィカは草むらにあるゴブリンの臭気を識別した後に移動した方角を判断している。
しばらくしてからリィカは応えた。
「ココから東の方角に向かっているようデス。ソレとコレから僅かナガラ、ゴブリンのモノと思われる臭気を検知しまシタ。」
リィカが手にしていたものは、ティレン湖道にいるツルリンの葉であった。
アルドは感心して声を上げた。
「でかしたぞリィカ!ゴブリン達はティレン湖道にいるかもしれない!」
アルドの次の目的地が定まり、リィカはエッヘンと言わんばかりの姿勢で目をピカッと光らせた。
「ワタクシにかかれば万事解決デスノデ!」
リィカの一言を聞いていたのかいないのか、アルドは今にも走り出しそうな態勢に入っている。
「そうと決まれば、急いでティレン湖道に向かおう!」
アルドとリィカは急ぎ足で目的地に向かって行った。
先祖の恨み C.U-yu*[ゆうゆ] @zwei_Hander
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