10話.[やっているだろ]

「兄ちゃん、私は兄ちゃんに言いたいことがある」

「お、おう」


 結構な頻度で来るんだな、それが正直なところだった。

 母のお姉さんは小遣いとかを滅茶苦茶やるタイプなのだろうか? 

 前も言ったが隣県というわけではないから交通費だって馬鹿にならないというのに。


「満兄ちゃんはすっごくいい人なんだからな!?」

「お、おう、分かっているぞ?」

「いや、兄ちゃんは分かっていないっ、満兄ちゃんは初対面の私にもあれだけ優しくできてしまう聖人みたいな人なんだっ、……だから凄く揺れかけたけど、とにかく! 満兄ちゃんになにか迷惑をかけたら許さないからな!?」

「はは、分かってるよ、気にしてくれてありがとな」


 連絡先やID交換だってしているのにわざわざ直接言いに来るあたりが可愛いな。

 だから久しぶりに思いきり異性の頭を撫でておいた。

 最近は満にしかしていないから中々に新鮮な気がする。


「というわけで満兄ちゃんを呼んでおいたぞっ」

「おう、ありがとう」


 愛は空気を読んだつもりなのか部屋から出ていった。

 代わりに満が入ってきて床に静かに座って。


「愛ちゃんはいい子だね」

「そうだな、俺もあれぐらいいい子になりたいわ」

「保君は無理だよ、意地悪だから」

「なんでだよ、基本的に言われた通りにしてやっているだろ?」

「だってひっつくなとか言ってくるでしょ?」


 あれからというもの、やたらと距離が近くなったから気にしているのだ。

 だって外でもしてこようとするからな、やるならふたりきりのときだけって何度も言っているのに聞かないからよ。

 柔らかい表情を浮かべればなんでも許されるというわけでじゃないぞ。


「じー」

「見られても変わらないぞ」

「はぁ、可愛げがなくなっちゃったな……」

「はぁ、こうすればいいんだろ?」

「仕方がないから満足してあげるよ」


 偉そうに、年上なんだからおかしくはないが。

 けど、ある程度はコントロールしておかないと。


「絶対に保君が僕のことを好きになれるように頑張るから」

「そうだな」


 そうすれば母の前でももっと堂々としていられるから。

 それに、まあ……満にももっと堂々と接することができるからな。

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29作品目 Nora @rianora_

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