【短編】Sランクになった途端に「必要ない」とクビにされた【呪具師】~『呪いのアイテム』しか作れませんが、その性能はアーティファクト級なんだけど、いいんですか?

LA軍@多数書籍化(呪具師100万部!)

呪具師、追放される

「ゲイン。悪いが、お前を解雇する」

「……は? え?」


 クエスト後、打合せのために宿にてゲインは、パーティのリーダー、カッシュにそう告げられた。


「え、えっと?」


 一瞬のことで思考が追いつかず言葉が出ないゲイン。

 それを見てわざとらしいため息をつくカッシュは、酒場中に聞こえんばかりの大声で言う。


「分らないのか? クビだ。クビ!」

「──ッ!」


 再び突き付けられたその言葉にゲインの目の前が真っ白になる。

 心臓がドキン! と大きくはねたのが分かった。


 なにか……。

 何か言わないと!


「ぷ! みてみてこの顔ー! きゃははは!」

 ケラケラと笑う女軽戦士メリッサ。

 ただのビッチだ。


「おやおや、まさかクビになるなんて思ってもみなかったという顔ですね」

 メガネの奥でニヤニヤと笑う黒魔術師ノーリス。

 ただの腹黒眼鏡だ。


「……もう用件は済んだだろ? さっさと目の前から消えてくれよ?」

 斜に構えて二枚目オーラを出しているのは盗賊のルーク。

 ただの出っ歯だ。


「ほら、皆こー言ってるだろ? いい加減空気を読めよ」

 そして、我らがリーダーのカッシュ。

 ……ただのクズだ。


 だが、図ったようなタイミングでこの言い草。

 どうやら……すでに知っていたかのように平然としている仲間たち。


 いや、知っていたかのようではない。知っていたのだろう。


「ちょ、ちょっと待ってくれよ! きゅ、急に言われても何が何だか……」

「──急だと?」


 スッ、と目つきの据わるカッシュ。


「お前……自分が何でクビになるのかわかっていないのか?」

「え……? そ──」


 そんなこと、心当たりなんて……。

 ゲインは必死に頭を働かせて原因を思い出そうとする。


 パーティを結成して約3年。

 低ランクの頃からずっとやってきたゲインは、パーティにはなくてはならないと思ってきた。


 しかし、


「はぁ……。本当にわからないらしいな。コイツの鈍さにはあきれ果てるぜ」


 やれやれと首を振るカッシュ。

 他の面々もウンウンと追従している。


「あのな? この際だから教えてやるが……。お前の職業【呪具師】だが──……わかっているのか? ありゃ支援職としては最悪だぞ? できることと言えば、消耗品の呪具を使ってモンスターにデバフをかけるだけ。それ以外では何の役にも立ちやしない。そのせいでお前は俺たちの中で一番レベルが低い!」


「そ、それは──ちゃんと理由があって……」


「オマケにお前の呪具は呪いが強すぎて、下手に障ったら俺たちまで呪われちまう」


 そ、そりゃ……呪具なんだから当然のことで──!

 ……いや、言うまい。


「じ、呪具師がハズれ職業なのは知ってるさ! だけど、おれのデバフアイテムがあれば、どんなモンスターだって能力が低下して狩りがしやすかっただろ? そ、それに呪いだって多少は弱くできるんだぞ? 俺の呪符やちゃんとした神官がいれば【解呪ディスペル】だって……」


「はっ! それがそもそも間違ってんだよ! いいか? 俺たちはもうSランクなんだ。……チンケなデバフに頼らなくても、そこらのモンスターなんざ屁でもない! だいたい、お前の使う消耗品の呪具の高いこと高いこと……!」


「ま、待てよ! 全部が全部消耗品じゃないぞ!? こ、このネックレスだって。モンスターにだけ作用するように作ったパッシブ型の呪具で──」


 そういって、首から下げる髑髏のネックレスを掲げるゲイン。


「うげ!」

「だ、出すなそんなもん!」

「きもちわるー!」


 途端にパーティメンバーから避難轟々。


「うぐ……。そ、そういうものを平然と身に着けられるお前の神経もどうかしてるぞ」

 そういって目を背けるカッシュ。

 たしかに、見た目は恐ろしい外観のネックレスだ。


 装備型呪具で、身につければ呪われるアイテムではあるが、呪具師であるゲインには全く問題がないもの。

 材料はリッチの下顎を核に、グールの胆嚢とドラゴンゾンビの脳漿で煮込んだもの。それに様々な呪具素材を混ぜて作った『闇骨王の呪い』という、デバフアイテムだった。


 アンデッドには効果が薄いが、それ以外のモンスターなら呪具の範囲にいるだけで様々なステータス障害が出るという優れものである。

 ちなみに、呪具師以外が付けると『狂気』のバッドステータスに侵される。


「分らないやつだな! お前の呪具なんかなくても十分にやっていけるんだ。それに、」


 パチンッ!

 と指を弾くと、酒場のカウンターに控えていたらしい女性が一人現れる。


「彼女は支援術師のモーラ。知っての通り、デバフとバフの両方を使いこなす魔法師だ」

「モーラです。よろしく」


 口元までフードで覆ったモーラは肉付きのいい美しい女性だった。


 口々に「よろしくー」と挨拶を交わすメンバーをみていると、すでに顔合わせはとっくにすんでいるらしい。


「……これでわかっただろう? お前はもうお払い箱──直接戦うわけでもなく、チマチマと呪具をモンスターに投げたり、怪しげな儀式で効くかどうかもわからないデバフをかけるだけの奴なんて、俺たちにはいらないんだよ」


「か、カッシュ……!」


 お払い箱。

 そして、後釜の存在。


 それらをまざまざと見せつけられたゲインは何も言い返せず項垂れるしかできなかい。

 なにより、これまでずっとやってきたパーティのメンバーにそんな風に思われていたのはショックだった。


 もちろん……。

 それを狙ってカッシュは今日この場で解雇を告げたのだろうが……。


 それでも、創設以来の付き合いで、ずっと一緒にやっていこうって……──【牙狼の群れウルフパック】のメンバーのとして、身を粉にして働いてきたのにこの仕打ち。


 皆には嫌がられるだろうけど、呪いを弱めてパーティの能力を底上げする『呪具』を皆の武器に仕込んでいた。

 そうやって目に見えないところで努力してのに……。

 どうやら、誰も気づいてくれず──貢献しているものとばかり思っていたのは、どうにもこうにも自分だけようだ。


 足元がガラガラと崩れていくような絶望に、ゲインは悔し涙すら浮かんできた。


「な、なぁ! せ、せめてもう一回……! もう一回チャンスをくれよ! つ、次の冒険では俺、もっと活躍するからさ」


「……必要ない。わかるだろ? どうしてモーラに声をかけたのか」


 はっきりと言い切るカッシュ。

 どうやら、すでに決定事項であり、どうやっても覆すことはできないらしい……。


 一縷の望みをかけて、モーラを除くパーティメンバー3人に目をむけるも、……その目の冷たさ。


「いくら言っても変わらないわよー」

「困りましたね……。空気を読めない男はどこに行っても嫌われますよ」

「本当なら、もっと前にクビにする予定だったんだぜー」


 残る3人の仲間の冷たい反応。


「どうだ? わかっただろ? 今日の分の宿代はこっちで持つから──明日朝一にはここを出てくれないか?」

 そういって冷たく突き放す──カッシュ……。


「な、なぁ。どうにもならないのか?」

「あぁ」


「こ、後悔しないのか?」

「ない」


 グっ……と拳に力が入る。


「あ、後で間違いだったって言っても……。お、俺は知らないぞ?! もう、」

「──いい加減しつこいぞ? そろそろ部屋に帰って荷造りでもしてこい。俺たちはこれからモーラの歓迎パーティなんだ」


 負け惜しみに近いゲインの言葉も、しつこいの一言で片づけられ、ガックリと肩を落とす。

 もう、何を言っても通じないだろう……。


「…………悪いことは言わん。冒険者は諦めて、呪具屋でもやってろ。あぁ、それと悪いが──今月の給料はない。もちろん、解雇の慰謝料もな」


 むしろ、こっちが慰謝料を欲しいくらいだ、とカッシュは吐き捨てる。


 誰一人引き留めるものはなく、あっさりと解雇を告げると、彼らは口々に店主に酒と料理を注文し、ゲインに背を向ける。


 もちろん、メニューにはゲインの分はない。


「そうか……。わかったよ──世話になった」


 あまりにも呆気ない幕引き。

 ゲインは戸惑い悲しみつつも、もはや虚しさすら感じていた──。


 未練は、もうない……。


 ※


「くそ……。なんて奴らだ! あんなに長いこと一緒にやってきたのに……!」


 オマケに、ほぼ無一文で放り出された。


「カッシュの野郎。自分たちだけでここまでこれたと思ってんだな……。まったく、どうなっても知らないからな?」


 その日のうちに荷物をまとめたゲインは、すぐに宿を発った。

 もううんざりだ。


 チャックアウトを告げて宿を出るときに、酒場をチラリとのぞいたが、ゲラゲラと笑うカッシュ達を見ると、本当に他人になったんだなと実感できた。


「じゃぁ、これも解除しとかないとな……」

 ゲインは懐に入れていた、呪具の解呪アイテム──呪符を使用した。

 これはカッシュ達の装備に施していた呪具を解除する道具で、使用すれば彼らの装備はゲインの呪具の効果から解放されることだろう。


「【解呪ディスペル】!」


 パァ──と、解呪の呪符を使用すると、一瞬だけ中空に呪印が浮かび上がり、パァンと砕け散った。

 それで、彼らの装備は元の状態に戻ることだろう。余計なこととは思いつつも貢献していたつもりだったのだ。


「う……」


 ガクンと膝をつくゲイン。

 今まで自分にバッドステータスが跳ね返ってくるようにしていた『呪い』を解呪したのだ。何らかの悪影響はあるかと思っていたのだが──。


 カッシュ達に装備に施していた『呪い』。

 性能を2~3倍に引き上げる代わりに、経験値の吸収率や弱い状態異常にかかるというもの。


 呪われた装備品というものは、『呪い』という枷を負うが、その分、性能が破格なものが多い。

 能力値だけを見るなら、そこらの聖遺物にすら勝るほどだ。


 そして、それら『呪い』のバッドステータス部分をゲインが全て肩代わりすることで彼らの装備品に破格の性能を与えていたのだ。


 だが、追放されてまでその義務を負う必要もない。

 ……そもそも、ゲインのお節介でやっていたことだ。


「ちょっと、反動が来たけど──やっぱり体が軽くなった気がするな」


 コキコキと肩を鳴らすゲインはどこかスッキリした顔をしていた。

 破格の性能を与える代わりに4人分のバッドステータスを引き受けていたのだ。いくら呪具師の力で呪いを弱めてはいても、さすがに厳しかったようだ。


「これでカッシュ達には呪具の恩恵はなくなったけど。……まぁ、新しい支援術師を仲間にしたみたいだし、彼女に任せておけば大丈夫かな。どっちみち俺が気にすることじゃないしな」


 ステータスを確認すると、驚くほど跳ね上がっている。

 経験値の吸収率が低かった分や、低下していたステータスも正常値に戻ってみればなんというか、結構高い気がする。


 カッシュ達のレベルが50前後だから──。


 ※ ※

レベル:48(UP!)

名 前:ゲイン

職 業:呪具師

 ※ ※


 あ、やっぱり……。


 確認してみれば、カッシュ達にそん色ないほどのステータスを誇っていたゲイン。

 今までは、彼らに使っていた呪具のせいでステータスが下がっていたけど、その分がなくなればゲインもそこそこの強さだったのだ。

 さらに、以前までのカッシュ達は、そこにゲイン製の『呪具』の恩恵を受けていたはずなので、ステータスはかなり下がっただろう。


 その不足分を補うための支援術師なのだろう。


「さて……。これで本当にカッシュ達とは縁が切れちゃったな」

 晴れ晴れした顔でゲインは空を仰ぐ。


「どうせ追放された身だ。……あいつらが言うように、露店でもやるかな?」


 ステータスは並以上にあるし、

 お金はないけど、今まで作った呪具がたくさんある。


「他にも、田舎のほうで道具屋なんてのもいいかもな──」

 そして、兼業で冒険者をやりつつ、材料をゲットして呪具を作成し、売ってお金を稼ぐ。


 手先は器用なつもりなので、普通の雑貨だって作れるはずだ。


 うん。

「よーし! なんだかワクワクしてきたぞ」


 ちょっと前まで落ち込んでいたけど、解呪とともに縁も切ってしまえば何ということはない。

 ゲインは自由を手に入れたのだ。


 好きな時に寝て、

 好きな時にご飯を食べる。


 そして、

 好きな呪具を作って、

 好きな研究に費やす。


 『牙狼の群れウルフパック』では散々使えないだのなんだのと言われていたことを思い出せば、なぜもっと早く自分から出て行かなかったのか疑問に感じるくらいだ。


 よし!

「──まずは、露店で路銀を稼ごう!」


 生産系職業クラフトジョブなら、誰でも夢見る自分のお店。

 その第一歩としてクラウスは昔から一度はやってみたかった露店を始めることにした。



※ その頃の『牙狼の群れ』 ※



「いやースッキリしたぜー」

「ほーんと、あいつがいなくなって清々したわー」


 カッシュとメリッサが宿の食堂で酒を飲みながら管を巻いている。


「初期メンバーだからってカッシュが甘やかしてるからですよ」

「そーそー。もっと早く支援術師を入れるべきだったんだよ」


 ノーリスとルークも酒を飲みながら、美人のモーラに鼻を伸ばす。


「悪い、悪い。アイツとはパーティ結成の頃の付き合いだからな、ついついな」

 全く悪びれていないカッシュはメリッサとイチャイチャしながらゲインをこき下ろす。


「ほんと使えないやつだったぜ。日中は呪具ばっか作ってやがるし、たまに働いても、なーんかいっつも顔色悪くてよー」

「そーそー! しかも、知ってるぅ? アイツ、おまじないとか言って皆の装備にたまに変なことしてたのよ」


 きもちわるーいと、舌を出してアピールするメリッサ。

 その時、



 パァ……。



 と、中空に薄い魔法陣のようなものが現れる。それも4つほど。


「これは……【解呪】?」

 その魔法陣に一番に気付いたのは、新人のモーラだった。


「な、なんだこれ?」

「うわ……! 俺の短剣が光ってるぞ?」


 ノーリスとルークが自分の装備を確かめて驚く。

 慌てて、カッシュとメリッサも装備を確かめるとそれぞれ武器、防具など部位の異なるそれらが淡く輝き…………そして、消えて元の冷たい装備に戻っていった。


「な、なんだ今の?」

「わ、分からないわ?」


 カッシュとメリッサは気味が悪そうに装備を眺める。

 そして、


「あ、あれ? なんですかね? 魔力が薄くなったような……」

「お、俺も体が重いような──なんだこれ?」


 まさか、呪具の恩恵を受けていたなど思いもよらないカッシュ達。

 突然ステータスが下がり、今まで破格の性能を誇る装備を持っていたとなかなか気づけない。


「い、今のはなんですか? かなり高度な解呪の術式に見えましたが──」


 モーラだけは同じような支援系統の職業ということで、ゲインの呪具のそれに気付いたらしい。

 しかし、まさか彼女もゲインがこっそり『呪い』の高性能部分だけを仲間に施し、バッドステータスをすべて自分で引き受けていたとは思いもよらなかったようだ。


「か、解呪?…………ま、まさか」

「あ、ありうるわよー。きっとゲインが何かしたんだわ!」


「むむむ。あの呪具師──まさか、追放された腹いせに何か仕掛けてきたのでしょうか?」

「ち……。やっぱり殺しとけばよかったんだ!」


 口々にゲインを罵る4人。

 しかし、モーラだけはそんなことがあり得ないと思っていた。


 『呪い』を駆けるならまだしも、『解呪』によって不利益を被るなど普通はあり得ない。

 しかも、4人同時ということは術者側から解呪したということだろう。

 常識的に考えるなら、呪いを解いた────ということ。


 だが、カッシュ達はまるでゲインに呪いを仕掛けられたとでも言いたげである。


「ち……! 何が何だか知らねぇが、ゲインごときに今さら何ができるってんだ」

「そ、そうね。アイツが何か仕掛けてきても、アタシたちなら余裕で反撃できるわ!」


「い、いえ……ちょっと待ってください。今のは解呪なので──悪いことなど一つも、」


 モーラが4人を諫めようとするも、カッシュ達の中ではすでにゲインからの嫌がらせ攻撃だと決めつけられてしまったらしい。


「今度、どこかで会ったら、魔法で焼き殺してやりましょうか」

「おーういいねぇ! 俺はアイツの指を切り落として二度と呪具を作れなくしてやるぜ」


 ギヒヒヒ

 ゲヘヘヘ


 と、下品に笑う黒魔術師ノーリスと盗賊ルーク。

 その姿にドン引きしているモーラであったが、一方で4人同時に【解呪】を行ったゲインに興味をもった。


(どういうこと?……まるで、解呪した途端に彼らが弱くなったように感じたんだけど。そんなことありうる?)


 モーラは支援術師として後方からバフをかけることをメインにしているため、なんとなくパーティメンバーのステータスが肌で感じることができる。

 その彼女の感覚からすれば、目の前の4人が一気に弱くなったように見えたのだ。

 それも解呪を境にして……。




「まるで、常時バフをうけていたみたいな感じだったけど……。まさかね」




 呪具師にバフは使えない。

 もし、呪具にそんな便利な機能があったら、それは破格の性能で──並みの呪具師のそれではない。


 だがそれができたなら?


 そして、

 それをなしていた呪具師がこの場にいないなら、『牙狼の群れウルフパック』というパーティはそもそもSランクに相当する腕前なのだろうか、と。モーラは考えた。


 だけど……。

 まさか、呪具師に──??


「まぁ、アイツのことは、どうでもいいや」

「それよりも明日からいよいよ、Sランクのクエストよ!」

「そうでした! Sランク初クエスト──腕がなりますね!」

「へへへ。ゲインのおかげで中々ランクアップできなかったけど、いよいよ俺たちの真の力をギルド中に知らしめることができるな!」


「「「「まずは、災害級モンスター、ベヒモスの討伐だー!」」」」

 乾杯ッッッ!



 わーーーはっはっはははは!



 モーラの抱いた疑問と懸念をよそにさらにさらに酒を痛飲し、カッシュ達は明日以降のクエストに思いを馳せるのだった。


 だが、支援術師モーラの抱いた懸念は後日現実のものとなる。


 ゲインの施していた破格の性能を誇る呪具の恩恵から【解呪】された『牙狼の群れ』は、はたしてSランクに相当する強さを持っているのだろうか────……。



※ そして、ゲインの様子はと言えば……? ※



「さーて、売るぞー」


 露店街の一角を借りたゲイン。

 カッシュ達に言われた通りに露店でお金を稼ぐのは少し業腹であったが、そんなことも言っていられないほど金欠だったので背に腹は代えられない。


「さて、とりあえず余ってる呪具と、インテリア向きの装備を売ろうかな」


 呪具師であるゲインは、様々な呪具を自作する。

 また、呪印を施すことで装備に呪いなどを付与できる。


 今日露店に並べていくのはそういった品の数々だ。


「っと、相場がわからないな……。ま、いいや。材料費くらいに稼げれば採算は合うでしょ」


 とんとんとーん、と呪符や呪いのアイテムを並べていくゲイン。


 【遅滞スロウ】の呪具。

 【防御力低下アンチアーマー】の呪具。

 【狂気バーサク】の呪具。


 設置型、投擲型、範囲型。いろいろ


 その他、

 複合型の香油タイプや遅効性の噴霧型呪具。そして巻物型などなど。


 ゲインは、消耗品で元のパーティで使っていたものをどんどん並べていく。

 カッシュには材料が効果だと言われていたが、実際はアンデッドなどの素材やお手製の薬品から作っているのでほとんど材料費はかかっていない。


 どちらかというと技術料? ゲインの制作苦労時間はプライスレス。


「よし! ジャンジャン売るぞ。商売はなんだかんだで初めてだからドキドキするな」

 露店街を行く人々を見ながらゲインは期待でわくわくする。

 この王都の人たちに、ゲインの呪具はどんな風に受け入れられるだろうか。

 一抹の不安と、大きた期待をもってゲインは声を張り上げるのだった。


「さぁ。いらっしゃい、いらっしゃい! 冒険者御用達のデバフアイテムだよ! お安くしとくよー」


 王都中の人が集まると言われる露店街にゲインの声が響くのだった。


「お? 呪符か、めずらしいな」

「いらっしゃい!」


 ゲインが商品を並べていく間にも幾人もの冒険者が足を止めて呪具を見てくれる。


「へー。【猛毒】の呪符が銅貨5枚?! やっすいなー」

「はいはい。そちらオススメですよ」


 他にも様々な状態異常を起こす呪符や、ステータス低下のデバフ効果をもった呪具がいっぱい。

 お値段も、その辺のお店より安い。


「よし、性能はともかく、安いし買っとくかな」

「まいどー!」


 そんな感じで次々に呪具は売れていく。

 在庫はたっぷりあるので惜しみなく売りさばいていくゲイン。


「それは?」

「呪いの短剣です。敏捷が少し下がりますが、かわりに【防御低下アンチアーマー】の効果をモンスターに付与します。そして、副効果にステータスが敏捷以外の1.2倍増加します……あと、呪われています」


「あ゛?! なんつった?」

「えっと? 【防御低下】ですか?」

「いや、最後」

「……呪われています」


 冒険者がジト目でゲインを睨む。


「兄ちゃん。……正直なのはいいけどよー。呪いのアイテムなんて誰が買うんだよ」

「そ、そうですよね。えっと……なので、インテリアとして。ほら握り部分とかカッコよくないですか?」


 ゾンビウルフの骨を加工して作った短剣だ。製作時間1時間。お値段銀貨1枚。


「ふんッ。インテリアか……。ま、悪趣味だが、いいぜ。安いし買ってやる──家の魔よけの飾りによさそうだ」

「ありがとうございます! これ、オマケの【解呪】の呪符です。3枚つけときますね」


「お、気が利くじゃねーか。ありがとよ」


 そんな感じで、呪いの装備もいくつかはインテリアとして売れていく。


 例えば、


「あ、それは呪いのネックレスでして。全ステータスが1.5倍になる代わりに、呪われます」


 ……デザインが悪趣味でいいとかで売れた。

 【解呪】の呪符はもちろんオマケする。


「お、それは呪いの靴ですね。敏捷が2.5倍になる代わりに、呪われます」

 ……奴隷に履かせるとかで売れた。

 【解呪】? もちろんオマケした。


「はい、それは呪いのボウガンですね。全ステータスが1.3倍、【必中】の効果付きですが、呪われます」

 ……年に一度の狩り大会で使うそうで、売れた。いいのかそれ?

 【解呪】?? 当然つけたよ、5枚ほど。


 そして、消耗品、装備品問わずバンバン売れていく。

 もちろんお客様には誠実に説明し、呪いの影響や解呪の方法。そして、呪いの副産物である上昇効果も推しで説明。


 呪われたアイテムは、呪いの代わりに付与される効果が凄いのが特徴だ。


 常に使うならともかく、ここぞという時に使うととても有用だゲインは思っている。だから、ちゃんと【解呪】の呪符もセットでわたしている。

 

 勇者の相棒に、狂戦士がいたと伝わっており、彼は呪われた鎧を愛用していたという。それくらいに、呪いの装備は強いのだ。

 もっとも、やはり呪いというところで忌避感情が働くみたいだけどね。


「さぁお安いよー。【解呪】付きで、呪いの装備も扱っておりまーす!」


 カッシュ達に致命的デザインと言われていたゲインの呪いの装備も、見る人が見れば……。


 いつの間にか盛況も盛況。大盛況でゲインの呪具は売れていった。

 以外にもオマケの【解呪】の呪符が人気商品だったんだけど……。なんで?


 ゲインにもよくわからない理由で次々に呪具は売れていき、その日は完売御礼隣売り上げも上々であった。

 これでゲインの懐も、結構ホクホク。

 なにせ、材料はほとんど見向きもされないアンデッド素材や毒薬やゴミだからね。



「今日はありがとうございました! また、あしたきまーす!」


 そういって、呪具を買い求める冒険者の皆さんをかき分けてゲインは宿に帰るのだった。


 ──ゲインの帰った後、露店広場にて。


「おいおい、これスゲーぞ」

「うわ……なんだこれ? マジでステータスが1.5倍だぞ?!」


「ひえええ、指輪でこんなにいい効果ついていいの? 別に外さないから・・・・・・呪われてても関係なくね?」


 ゲインが去った後、試しに呪いの装備を付けた冒険者たちが驚愕している。

 冗談のつもりで装備した呪われた装備に数々は、ちょっとの呪いの効果に目をつぶればその他の性能は破格のものであったのだ。

 しかも、普通なら高価な【解呪】がオマケとしてタダでついてきた。


「おいおい。解呪の呪符、転売だけで儲かるんじゃないのか?」

「しぃー! 滅多なこと言うんじゃねーよ。神殿が怒り狂うぞ? アイツ等【解呪】に金貨を要求しやがるからな」


「いや、とんでもねぇ【呪具師】がいたもんだ。こりゃ、どこのギルドもパーティも見逃さねーぞ」

「っていうか、アイツ誰だよ? どっかで見たことある気がするんだけどなー」

「あんな溌溂とした【呪具師】いたっけか?」


 ヒソヒソと噂し合う冒険者たち。

 まさか彼らは気づかない。


 かつて、呪いを背負って体調を常に崩していた呪具師がいたなど……。

 ましてや、すさまじい効果を秘めた『呪具』をバーゲン並みに売りさばく規格外の呪具師がパーティを追放されているなど思いもよらなかっただろう。



 この日を境に、たまに露店を開く神出鬼没の呪具師が王都で密かに噂になる……。

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