第14話:亡国

「うっわぁああああ、たすけてくれぇえええ」


 目の前にいた大軍が総崩れになって逃げていきます。

 武器も防具も投げ捨てて命からがら逃げていきます。

 逃げるくらいなら最初から攻めてこなければいいのにと思うのです。

 私達と戦うよりも他国の侵攻に対処すべきだと思うのです。


(馬鹿ね、他国が相手だと勝てないと思ったのよ。

 だから権力者達は簡単に勝てると思った私達の方に来たの。

 強い相手は弱小貴族や国軍に押し付けてね)


 本当にどうしようもないくらい腐っていたのですね、ミンスタ王国は。

 今頃王都を攻め落とされているかもしれませんね。


「やれ、やれ、これでは我らなど不要だな」


 騎士団長を務めるようになったサーレスが呆れかえっています。

 戦士の誇りを大切にする彼から見れば、無様としか言えないでしょうね。


「そんな事はないわよ。

 貴方達には肉の確保と開拓開墾をしてもらわないといけないのだから」


 イーシスがぬけぬけと大嘘を口にします。


「よくそのような嘘を口にされます、アグネス様

 アグネス様なら肉の確保も開拓開墾も、片手間でできるでしょうに」


 サーレスもうんざりとした口調で答えます。

 その気持ちは私にもよく分かります。

 サーレス達が私達の仕えるには相当の覚悟が必要だったでしょう。

 ミンスタ王国は蛮族と蔑んでいましたが、ヴァシュタール王国という国でした。

 しかもサーレスはヴァシュタール王国の王子の一人です。

 その王子が追放貴族の家臣になるというのですからね。


「そんな事をしたら次代の国づくりに弊害が出てしまうじゃない。

 できるだけ人の力で開拓開墾しなければいけないのよ。

 私の魔力に頼った国づくりなんで直ぐに駄目になっちゃうわよ。

 それじゃあ、大切な領民が困るでしょ」


「御意」


 サーレスが心らの尊敬と忠誠を込めた最敬礼をしてくれます。

 サーレス配下の騎士や徒士も一斉に同じように最敬礼してくれます。

 イーシスは平気で鷹揚とした態度で答礼していますが、私はドギマギです。

 恋しいサーレスにそのような態度をとられると心臓が締め付けられます。


「さあ、これから忙しくなるわよ。

 もうミンスタ王国が滅ぶのは確定よ。

 まだ助け出せていないヴァシュタール王国の人達を全員助け出すわよ。

 彼らが差別されることなく受け入れられるように準備しなさい。

 それと防衛戦の準備よ。

 ミンスタ王国を滅ぼした連中が余勢を駆ってここまで攻め込んで来るわ。

 ヴァシュタール王国だってスキを見せたら攻撃してくるわよ。

 気を引き締めなさい」


「「「「「はい」」」」」


 サーレス達が決死の覚悟を浮かべて返事をします。

 ミンスタ王国人に奴隷にされ穢された家族は、ヴァシュタール王国に戻っても穢れた存在として差別されてしまう。

 助け出された家族のために、私達に仕えて普通の生活ができるようにした人達。


 はっきり言ってもうどこにも行くところのない人達です。

 同時に家族が差別されない領地を作った私達に心から忠誠を誓ってくれています。

 彼らの忠誠心を利用するのは少し心が引けますが、私も助け出した甥っ子を幸せにする責任があります。


(なに子供みたいなことを考えているのよ。

 もうこの一帯は弱肉強食なのよ。

 領地も食糧も男も、実力で手に入れなさいよね。

 特に男は自分で何とかしなさいよ。

 私は手助けしないからね)


 ふん、イーシスに言われなくてもサーレスを落として見せるわよ。

 ら、はしたない、イーシスに影響されてしまっているわ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

もう婚約者に未練はありません。 克全 @dokatu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ