第13話:若衆頭・サーレス・ヴァシュタール2

「私には領地を護る戦士が少ないのよ。

 私の家臣になって領地を護ってくれないかしら。

 給料というのか扶持というのか、報酬はそちらの基準でいいわ」


 イーシスがリーダーの漢と交渉しています。

 傭兵団というのか戦士団というのかは分かりませんが、雇う心算のようです。

 イーシスの感情から推察すると、抱え込んで争いを防ぐ心算のようです。

 魔術で穀物や果実を創り出せるイーシスならではの事です。


「……正式に家臣にするというのか。

 我らは誇り高い戦士だ、ミンスタの犬になる気はない。

 どうしても俺達を犬にしたいのなら、誇りを捨てるほどの報酬を用意するんだな」


 漢のミンスタ王国に対する怒りがまざまざと感じられます。


「へえ、どんな報酬を用意すればいいのかなぁ」


 それに対してイーシスは余裕綽々です。

 イーシスの考えている事が手に取るように分かるだけにため息が出そうです。

 ちょっとずる過ぎる気がします。


(なに言っているのよ、他の者には絶対にできない、もの凄い報酬よ。

 彼らが犬になるのも当然の報酬よ)


 イーシスの言う事とが正しい事は私にも理解はできます。

 確かに私の知る誰にもできない事です。

 でも、魔術で漢の心を読んで望みを知った上での交渉は狡い気がしてしまいます。

 

「奴隷にされた我らの同胞だ。

 我らの同胞を奴隷から解放して連れてくるなら犬でも何でもなってやる」


 やはり漢の望みは奴隷にされた仲間を助け出す事でした。

 イーシスが魔術で漢の心を覗いて知った一番大きな望みです。

 その気高さには私も漢を尊敬してしまいそうです。


「この子でいいかしら、それともこの子なのかしら」


 イーシスが二人の娘をミンスタ王国から強制転移させました。

 性奴隷にされていたのでしょう、露な服装をさせられています。

 思わず目を背けようとしましたが、できませんでした。

 身体の支配権をイーシスが持っているので私には何もできないのです。

 自分が暮らしていたミンスタ王国の暗部を見せつかれれています。


「リン、ミル、おお、おお、可哀想に。

 だがもう大丈夫だ、これからは何があっても私が護って見せる」


 漢が二人の娘に心からの言葉をかけています。

 ですがイーシスが他の戦士達の心を読んだので私には分かります。

 ミンスタ王国で性奴隷にされていた彼女達が故郷に戻っても幸せになれないのを。


「さて、私は貴男の望みをかなえてあげたわよ。

 かなえたら犬にでも何にでもなると言ったわね。

 漢ならその約束を果たして欲しいモノだわね。

 まずは名前から教えてもらいましょうか」


「分かった、俺も戦士だ、口にした約束は必ず守る。

 俺の名はサーレス・ヴァシュタール。

 王族に連なる者だ」

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