『襲撃(二)』
朝食を取り終えた
「チッ、なんでてめえと二人乗りしなきゃなんねーんだよ」
「そらコッチの台詞や。何が悲しいて男と相乗りせなアカンねん」
「私は拓飛と一緒で構わないのだが」
「たまにはいいじゃない。女同士と男同士っていうのも、ね?」
隣では
この妙な組み合わせは凰華が提案したものだ。今回はどうしても女同士で相乗りしたいと言い張る凰華に押し切られた形である。
「それに拓飛は女の子に触れると蕁麻疹が出ちゃうじゃない」
「そうなのか?」
凰華の言葉に燕児が素早く反応する。
「せやねん。ホンマ難儀なやっちゃろ」
「うっせえ! これでも最近はちったあマシになって来てんだよ」
「うーむ、そうなると色々対応を考えなければならないか……」
各々が口々に喋る中、凰華は複雑な心境であった。
(さっきの燕児さんの口振り……、まさかね……)
「————おい、凰華!」
「……え?」
声のする方を振り向けば、拓飛と眼が合った。
「え? じゃねえよ。いいか、次の休憩ん時には交代するかんな」
「う、うん……」
「……? なんだよ、元気がねえな。どうかしたのか?」
「どこか痛むのなら、私が手綱を握るぞ?」
拓飛に同調して、燕児も声を掛けてくる。
「ありがとう。でも、ちょっとボーッとしてただけだから大丈夫よ。次の休憩まではこのままで行きましょ」
そう言うと凰華は手綱を引き絞り、速度を上げた。
季節は初夏であり南下するほどに暑さが増してくる。焔星と桃花も全身に汗をかき、少し疲れてきた様子が窺えた。
「あっ、見てみい!」
斉が街道の脇を指差すと、木々の間から、太陽の光を反射し眩く輝く小川が見えた。その輝きを眼にした四人と二頭は一目散に水場へと駆け込む。
「美味えか? 焔星」
「たくさん飲んでね、桃花」
拓飛と凰華は愛馬の汗を流しながら声を掛ける。焔星と桃花は返事をするかのようにいななくと、再び川に口を運んだ。
河原に座り込み、足を水流で冷ましていた斉が燕児に話しかけた。
「なあ燕児ちゃん、いっちょワイらも余計なモンは脱ぎ捨てて水浴びしよか」
「汗をかいたのなら好きにするといい。私は南方育ちなので、この程度の気温ではなんとも無い」
「ちぇー、ほな凰華ちゃんに頼むしかないかあ」
斉が残念そうに頭を掻くと、燕児の眼光が鋭さを帯びた。
「……待て、斉」
「……あらら、ええ具合に汗をかく事になりそうやな」
燕児と斉は同時に立ち上がり、周囲を見回した。
「————ねえ、拓飛」
「あ?」
声に拓飛が振り返ると、桃花の身体を洗う手が止まり、思い詰めたような面持ちの凰華の姿が眼に入った。
「どうした?」
「……うん、あのね……」
「————待て!」
何か言いたげな凰華を拓飛は手で制した。
「拓飛……?」
不思議そうに凰華が訊き返したその時、太陽の光が刃となって拓飛の顔面へと襲い掛かった。
拓飛の白髪がパラパラと宙に舞い、その頬に一筋の赤い線が走る。
「拓飛!」
「……いきなりやってくれんじゃねえの……!」
拓飛は眼を見開き、流れ落ちる血を舌舐めずりした。その足元を見ると、三日月型の刃が突き刺さっており、程なくして煙のように霧散した。
「————この暗器は……!」
凰華が呟いた時、木々の間から青い外套を纏った女たちが一斉に姿を現した。各々、氣で生成された剣や刀、軟鞭や槍などをその手に握っている。
「まさか青龍派⁉︎」
青龍派と思しき女たちは、殺気立った表情で拓飛を取り囲んだ。
「チッ、まーた女かよ! なんだってこう女に絡まれるんだ⁉︎」
拓飛は吐き捨てるように言うと凰華や焔星たちを巻き込まないよう、跳躍して包囲網を脱出するが、先程の三日月型暗器が四方八方からその身に襲い掛かった。
「ケッ!」
拓飛は両手の指の間に暗器を挟み込んで受け止めると、
「ッそらよ!」
空中から眼下の女たちに向けて放つが、暗器は全ててんでバラバラの方向へ飛んで行ってしまった。
「ありゃあ、扱いが難しい暗器だな」
「拓飛ぃっ!」
着地した拓飛のそばに斉が走り寄り、背中合わせになった。
「羨ましいこっちゃな。なんでお前だけ、こないにおネエちゃんにモテんねん?」
「こいつら多分、青龍派だ。どうやら俺が奴らに目の
「なんや、それ?」
それには答えず、拓飛は女たちに向かって声を上げた。
「てめえらの狙いは俺だろ! 関係ねえ奴を巻き込むんじゃねえ!」
言い様、拓飛は走り出し、凰華たちから更に距離を取った。その間にもどこからともなく三日月型暗器が拓飛の身に襲い掛かる。
(普通の暗器なら直線的に飛んで来るモンだが、こいつは出所が分かんねえ。どっから狙ってきてやがる……⁉︎)
無数に襲い来る暗器をかいくぐりながら拓飛は射手の潜む場所を探るが、周囲には木々が密生しており、にわかには見当も付かない。
「私に任せろ、拓飛」
「————燕児!」
拓飛の頭上を燕児が飛び越し、はるか上空まで跳躍する。
燕児の遠見筒のような双眸が木々の間に向けられると、次の瞬間にはまるで獲物を捕捉した隼のように急降下して行く。
燕児は凄まじい速度で飛行しつつも、華麗に枝々を避けながら大木の陰に身を潜める標的まで迫る。その鋭い手刀が槍のように突き出されたが、喉元まであと一寸という所で白魚のような手に止められた。
「何故、拓飛を狙う?」
「…………」
射手の女は無言で燕児の手を振り払うと、大木の枝から素早く地面に降り立った。その背後から攻撃的なまでの氣の奔流が押し寄せる。
「……やっぱり、おめえか。
————射手は青龍派の女弟子、
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