『変面(四)』
この
「いやあ、ホンマ頑丈なやっちゃな。もうちょっと弱らさへんと虎退治とはいかんようやな」
呆れたように話す
「さっきの手の型は鷹爪だな? つうこたぁそりゃ鷹の面ってことか」
「そや。ほな、これはなんか分かるか?」
斉天大聖が袖で顔を払うと、また仮面が変わった。
(———龍面!)
果たして構えを取った斉天大聖の手の型は龍爪である。
「やっぱり虎の相手ゆうたら龍やろ」
「へっ! やってみやがれ!」
再び撃ち合い始めた二人だったが、斉天大聖は撃ち合いの最中にも頻繁に面を変えた。猴・蟷螂・鷹・龍と面が変わるたびに斉天大聖の技も、面に合わせたものに瞬時に変わる。最初は戸惑った拓飛だったが、斉天大聖の面は規則正しく順番に変わることに気づいた。
(龍・猴と来りゃ次は———)
拓飛の読み通り斉天大聖の猴の面が蟷螂に変わる。
(もらった!)
先読みして蟷螂拳に対する返し技を放った拓飛だったが、その拳は空を切り、斉天大聖の回し蹴りが側頭部に直撃した。その動きは蟷螂拳ではなく、龍形拳のそれであった。
「悪いなあ。せやけど、面と同じ技しか使えへんとはゆうてへんで?」
そう言った斉天大聖の面はいつの間に鷹に変わっていた。
「何でわざわざ技に合わせて面を変えてた思う? 無意識にでも技と面が一致してると思い込ませるためや」
「拓飛!」
凰華が駆け寄るが、うつ伏せに倒れた拓飛ピクリとも動かない。
「なかなかオモロかったでニイちゃん。さてと、ほな、いただくモンいただいてお暇しよか」
「待ちなさい! 次はあたしが相手よ!」
背を向けた斉天大聖に凰華が構えを取った。
「やめときや。おネエちゃん、内功使えへんねやろ。あんたじゃ相手に———」
その時、倒れた拓飛の左腕が一人でにブルブルと動き出し、急にピンッと宙に伸びると、左腕に引っ張られるように拓飛の身体が起き上がった。
「なんやと?」
斉天大聖が驚きの声を上げたが、拓飛の顔は俯いたままである。
「拓飛! 気がついたの?」
凰華が話しかけるが、拓飛はそれには反応せず構えを取る。しかし、脚が小刻みに震えて力が入っていないように見える。
「なんや、フラフラやないか。ええわ、とどめ刺したるわ」
斉天大聖が言い様拓飛に襲いかかる。面は蟷螂のままだったが、振るう技は鷹爪拳や猿猴拳、龍形拳と瞬時に切り替わる。
だが拓飛は動じず斉天大聖の攻撃を全て受け流し、突け入る隙を見せない。しかし、その眼は虚ろで、闘いの最中にも関わらずなにやらブツブツと呟いていた。
『———おい、拓飛。おめえ何でいまだに俺から一本も取れねえか分かるか?』
『……おっさんが俺よりちょっとだけ強えから』
『あのな、そういうことを言ってんじゃねえんだよ。いいか、おめえはいっつも自分から仕掛けやがる』
『ケンカは先手必勝だろ!』
『馬鹿野郎。武術はゴロツキの喧嘩じゃねえんだ。先手必勝が通用するのは良くて相手が同格までだ。相手が格上の時は、落ち着いて相手の出方を窺ってみろ。見えなかったモンが見えるかも知れねえぞ』
「———うるせえ! おっさん、説教すんじゃねえ!」
これまで受けに徹していた拓飛が突如、大声と共に突きを繰り出した。意表を突かれた斉天大聖は正面から受け止めるが、威力を殺せず数丈後ろへ吹き飛ばされた。
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