第37話 紗菜への問いかけ
翌日、昼休みのチャイムが鳴るや否や、いつも通り三階の踊り場へと向かった。そこで少し待っていると、金髪のツーサイドアップの髪を揺らしながら、クォーターの美少女が階段を上ってきた。
その時、明日太に昨日言われた事もあって、彼女の表情をよく見てみると……確かに、どことなく寂しそうな気はした。彼女は俺の視線に気が付くと、すぐさまいつもの三千円くらい支払いたくなる笑顔を向けてくれた。
「はい、今日のお弁当。あなたの好きなからあげを入れてあげたんだから、感謝しなさいよね?」
紗菜がお弁当包を俺に渡して、ふん、とそっぽ向いた。
先月、俺のお弁当も彼女が作ってくれると言ってから、俺達は昼休みここでこっそりと待ち合わせをして、お弁当の受け渡しを行っていたのだ。どうにも和春と明日太の前で渡すのは恥ずかしいらしい。
ただ、彼女から弁当を作ってもらってると知った和春が「斎紗菜に弁当を作らせるくらいなら俺が作る!」と面倒な事を言い出した。丁重にお断りしたのは言うまでもない。
「あ、ああ……いつもありがとう」
そこには少し恥ずかしそうにしながらも、いつも通りの紗菜がいた。さっきの寂し気な表情はない。
昨日、明日太にクラスで紗菜が嫌がらせを受けているかどうかについても訊いてみたが、彼曰くその気配もないという。でも、俺も明日太も気付いたという事は、きっと彼女の中には何かあるはずだ。
「なあ、紗菜?」
「ん? 何よ?」
階段を降りていこうとした紗菜を思わず引き留めていた。振り返った彼女の表情は、いつもと変わりない。
「お前、なんか悩みでもあんのか?」
「はあ? あるわけないでしょう? あたしを誰だと思ってんのよ」
憎たらしいまでの自信満々っぷりで返されてしまうと、俺には何も返せない。
「いや、でも……なんか、最近ちょっと変な時あるって、明日太も言っててさ。それで、なんかあったのかなって」
そう言った時、紗菜の顔が少し強張った。
「もしかして、〝壁〟から嫌がらせ受けてるとか?」
「ないってば」
はっとして彼女はいつもの表情に戻って、不機嫌そうに顔を背けた。
「いや、でも俺だけじゃなくて、明日太も気付いてるんだから、何か──」
「ああ、もうっ! あんたそれ女の子に言わせる気?」
「え?」
「そ、そりゃ……女の子なんだから、そんな日もあるに決まってるじゃない」
紗菜が恥ずかしそうにそう言ってから顔を伏せたので、しまった、と思った。
所謂、女の子デーと言うやつだ。その期間は情緒不安定になったり、普段より体調が悪くなると聞いた事がある。それでぽけーっと呆けていたのを、俺や明日太は勘違いしていたのかもしれない。
「あ、えっと……ごめん」
「……別にいいわよ。心配してくれて、ありがと」
彼女はこちらをちらりと見てからまた顔を逸らすと、それだけ言って先に階段を降りて行った。
(そっか……生理、だったか)
それなら、失礼な事を訊いてしまった。彼女も言いたくなかったに違いない。俺や明日太が、ただ過敏になりすぎていただけのようだった。
男女関係は難しいな、等と思うのだった。
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