第24話 もしかしなくても歪なグループ?②
「く、くっそー! 斎紗菜ぁぁぁぁぁ! 俺はお前に負けないからな! 絶対に負けないからな!」
そして和春は和春で、立ち上がったかと思うと、いきなり和春が紗菜を指差して、ライバル宣言をした。
えっと……? お前、本当にどうした?
「え、ええ⁉ あたし、あなたと競い合う仲なの⁉ 友達じゃなかったの⁉」
紗菜も困惑している。当たり前だ。俺だって困惑している。
「と、友達……そう、俺達は友達だ! でも、俺と斎さんは競い合う仲なんだ!」
「競い合うって……何をよ?」
紗菜が首を傾げて俺を見た。俺も同じく首を傾げる。
ちょっと今日の和春にはついていけない。何か変なキノコでも食ったのか、こいつは。
「それについては、今はわからなくていい……でも、俺は絶対に負けない! だから、俺から勝負を申し出たら受けて立って欲しいんだ!」
もはや和春が何を言っているのかさっぱりわからない。紗菜の頭の上にも『?』がたくさん浮かんでいる。
「えっと……要するに、勝負を持ちかけられたら受ければいいのよね?」
「そうだ!」
「わかったわ。いいわよ」
そして紗菜は紗菜であっさりOKしやがった。ダメだ、こいつもおかしい。
「お前もそんな簡単に受け入れるなよ!」
「いいじゃない。友達との勝負事なんてやった事ないし、楽しみだわ」
受けて立つ、とでも言いたげな紗菜。
いや、これはこれで友達関係が成立しているならそれでいいのか?
「こういう状況になったら、僕も遠慮しなくていいのかなぁ……」
ぽそり、と明日太が俺と和春を見ながら、独り言を言った。
ん? お前はお前で今まで何か遠慮していたのか? 俺にはさっぱりこのグループの空気が読めなくなっているぞ。
もしかして、このグループは何かとてつもなく微妙な均衡で成り立っていたのではないか。そんな不安をふと感じるのだった。
「よぉし! んじゃ、さっそく四人で何かして遊ぼうぜ!」
「いいね、僕も賛成」
「いいわよ」
和春の提案に明日太と紗菜も乗ったので、俺も賛同する。遊ぶとは言っても、この面子で何をするつもりなんだろうか。
とりあえず歩きながら考えようという事になって、俺達四人は昇降口に向かった。
「あ、ねえ」
廊下にて和春と明日太が二人で何で遊ぶかを話しながら歩いているのを後ろから眺めていると、紗菜が唐突にこちらを向いた。
「ん?」
「みんな名前で呼び合ってるけど、あたしだけあの二人の事苗字で呼んじゃってるわ。こういう時って、名前にした方が親近感があって良いのかしら?」
男の子との友達付き合いがわからなくて、紗菜が付け足した。
そういえば、さっき彼女は『佐久間くん』『左藤くん』と言っていた。俺も左藤の事を明日太と呼び始めてしまったので、確かに紗菜だけ少し距離があるように思える。
でも──
「それはダメ。俺以外の男の事、名前で呼ばないで」
「え? どうして?」
「嫌、だから」
気付いたら、俺はそう言って紗菜の手をそっと握っていた。紗菜はびくっと驚いて俺を見ていたが、さっきみたいに『ひあああああああああ⁉』とは叫ばなかった。前に和春達がいるからだろうか。何にせよ、ここで叫ばれたら俺が死んでいたところだったので、助かった。
今のところ、前の二人にはバレていない。しかし、このままこうして手を握っているのは危険だった。それでも、俺は紗菜が他の男を名前で呼ぶ事に心理的な抵抗を感じていた。
おそらくこれは……嫉妬だ。俺のこんな気持ちを押し付けたら紗菜に迷惑ではないだろうか。少しだけ後悔の念が頭をよぎる。
しかし彼女は顔を赤くして、こくりと小さく頷いてくれるのだった。そして、そっと手を握り返してくる。
「わかった……薫くんだけに、する」
その表情があまりに可愛くて、抱き締めたいのにあいつらがいるせいで抱き締められない。
俺達の関係が何なのかわからないけれど……でも、きっと今は『友達』なのだろう。これ以上進めないのだから。
ここでうっかりと和春と明日太に振り返られたら大変なので、「ありがとう」と言って、そっと手を離す。お互い少し名残惜しそうで、だけども少しほっとした様子で。こんな風に、少しずつ縮めていくしかないのだろうか。
でも、今はそれでいい。そう自分を納得させるようにした。
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