第23話 もしかしなくても歪なグループ?
「というわけで、こちらのお嬢さんが、B組の斎紗菜」
俺は教室で待っていてくれた、和春と左藤に紗菜を紹介した。いちいち紹介しなくても彼女の事なんてこの学園の生徒なら誰でも知っているのだけど、なんとなく体裁として必要だと思ったからだ。
「斎です。もしかしたら話しかけにくいイメージあったかもしれないけど、あんまり気にしないで気軽に話しかけちゃってください」
紗菜が、あんぐりと固まったままの和春と左藤に対して、例の三千円くらい支払いたくなる笑顔を見せた。
おい、俺以外にそれを見せるな。こいつらが好きになっちまうだろうが。などと思うが、そんな事は言えるはずがない。
「え、えっと、俺は佐久間和春」
「左藤明日太です……」
緊張した面持ちのまま、左藤と和春はそれぞれ名前を言った。
「佐久間くんに左藤くんね。改めて、よろしくね」
紗菜がぺこりと頭を下げ、それにつられるように二人が頭を下げた。
「なんでお前らそんなに緊張してるの? 別に紗菜を目の前にするの初めてじゃないだろ。左藤なんて同じクラスなんだし」
予め紹介するって言っていたのに、カチンコチンだ。和春なんて女慣れしてるくせに、ここまでなるのはおかしい。
「あ、あのなぁ! いきなりさらっと紹介されてるけど、俺らにとって斎紗菜は話し掛けちゃいけないっていう共通認識っていうか、謂わば刷り込みみたいなものがあるから、目の前にすると緊張するんだよ!」
「何で鈴谷くんはむしろそんなに気さくに話せるのかが謎だよ……」
和春と左藤がそれぞれ本音を言う。
それは多分、紗菜のポンコツっぷりを知ってるからだろうなぁ……。
「しかも職員室に連行されたお前を救出してくるだなんて……あの斎紗菜がお前ごときを助けるって何なんだよ! 意味わかんねーよ!」
しかも和春はなんだかよくわからないところでキレているし。
「あ、佐久間くん。それ誤解があるみたいだけど、別に助けに行ったわけじゃないのよ? 同じ理由で授業をサボってるのに、薫くんだけ叱られるのはおかしいからあたしも叱られるべきって意見しに行っただけだから」
紗菜は困ったように笑って、「ね?」と俺に首を傾げて訊いてくる。おい、それ可愛い。可愛いからそれ禁止。二人だけの時にしなさい。
「ぐ……くそ。もう名前で呼び合ってるだと……なんという強敵なんだ。俺だって一週間はかかったのに……」
和春がぽそっと呟いた。
何が強敵なんだ? とりあえず、聞き流しておこう。なんだか触れてはいけない気がする。
「とか言いながら、自分が言えば収まるって知ってたんだろ? このエスカレーター組め」
「まあね。こんなときぐらいしか使い道ない権力だし、有効利用すればいいんじゃないかしら?」
訊くと、紗菜がウィンクして答えて見せた。これだからエスカレーター組はずるいんだ、などと文句を言う前にそのウィンクで心がやられてしまって、言葉を詰まらせてしまった。紗菜の横顔、視線、小さな動き……そんな一挙手一投足にドキドキしてしまう。
「ぐあああああああああああ! ちくしょぉぉぉぉ!」
すると、いきなり和春が頭を抱えて叫びながら机に突っ込んで倒れた。
なんだ、どうした? 敵襲か?
「お、おい、和春? どうした?」
「大丈夫? どこか具合悪いの? 保健室いく?」
冷静沈着爽やかイケメンの和春のいきなりの狂いっぷりに、俺と紗菜も顔を見合わて駆け寄ろうとする。
「まあまあ。和春くん、今はちょっと色々心の整理がつかない状態なんだよ」
なぜか左藤が俺と紗菜を宥めるようにして間に入ってくる。
宥める方こっちじゃなくないか? 和春じゃないか? なんか床でのたうちまわってるぞ、あいつ。
「ところで、鈴谷くん」
そんな和春を後目に、ふと左藤が真剣な眼差しでこちらを見てくる。
「ん? なんだ?」
「斎さんの事も名前で呼んでるし、これだと僕だけ他人みたいなんだけど……」
なぜか少し不服そうにて言う。なんでそんな顔してるんだ?
「ああ、言われてみればそうだな。じゃあ、俺も明日太って呼ぶから、お前も名前で呼んでくれよ」
「うん! わかったよ、薫!」
そういうと、左藤……ではなくて、明日太が嬉しそうに微笑んで、和春を起こしに行った。そういえば、明日太はずっと苗字で呼んでたから、もしかしたら疎外感を感じさせてしまっていたのかもしれない。
そんな事を思っていると、横の紗菜がクスッと笑った。
「どうした?」
「ううん。薫くんの友達って、やっぱり変わってて面白いのね」
「そうか?」
和春がいつもより壊れてて確かに面白い感じになっているのは間違いないのだけれど。これはこれでどういう事なんだろうか?
のたうちまわっている和春、そしてそれをなだめようとする明日太を眺めながら、違和感を覚えていた。なんだか紗菜が入ってからちょっと空気変わってない? ついでに言うとキャラも変わってない? 俺、ついていけないんだけど。
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