第7話 奇声を上げる学園の聖女様とフレンド登録してみた

「あ、でも……あたし、あなたとフレンドじゃないわよ? 突っ込まれた時、それだとまずくない?」


 斎さんはスマホを取り出して言った。

確かにそれもその通りだ。話の辻褄が合わなくなってしまう。


「あー……そうだな、じゃあ、PIBGでフレンド登録しとくか」


 俺達は互いにスマホを出し合って、PIBGを起動させた。久々に起動させたので操作方法を忘れつつあるのだが、何とかフレンド登録を終わらせる。

 斎さんのプロフィールを見てみると、レベルも同じくらいだったし、ちょうどよかった。が、アバターの装備が重課金者のそれだった。めちゃくちゃレアなアバターを装備している。俺なんて無料ガチャで集めた服を着ているのに。

 やっぱり、家が金持ちなのだろうか。それとも、友達がいなさすぎてお小遣いの使い道が他にないのかもしれない。こんな事を言うとまた怒られそうなので黙っておくが。

 ちなみに俺のスマホの通知欄は、LIMEの通知で大変な事になっていた。LIMEとは、メッセージアプリだ。個人間の通話やメッセージのやり取りもできてグループチャットもできる。

 彼女に見られないようにそっと開くと、クラスのグループトークで俺が斎紗菜に連れ去らわれた話題で持ち切りだった。


(うっわぁ……これやばいだろ)


 俺から返信がなく、しかも授業もサボっていることで、余計に想像を膨らませてしまっているらしい。

 親友の佐久間和春さくまかずはるからも個人チャットで『生きてるか⁉ それともあの斎紗菜とセックスか⁉』などと下品なものが届いていた。死ね、とだけ返しておいた。

 なぜいきなり『セックスか⁉』なんてものが送られてきたのかと言うと、それはクラスのグループトークの方を見て理解できた。こっちでは、俺が斎紗菜に体育倉庫に連れ去られて、二人でお楽しみ中という事になっているのだ。ふざけるなと言いたい。こっちは罵られるわ飛び降りさせられそうになるわで大変だったのに。いや、まあ金網によじ登ったのは俺の意思なんだけども。

 こっちもこっちで、ゲームはちょうど良い言い訳になるかもしれない。


「あと……」


 なんだか、斎さんがいきなりもじもじしだした。可愛い。


「なに?」

「ら、LIME」

「は? LIMEがどうしたって?」


 やば、さっきのグループトーク見られたか? と思ったが、彼女は俺の予想外の事を言ってきた。


「だから、その、薫くんのLIME、教えなさいよ」

「俺の? 何で?」

「そ、それは……そう、ほら、情報を共有しとかないと、話が食い違う場合があるじゃない?」

「あー、確かに。それもそうだな。じゃあ、交換しとくか」


 彼女の言い分もわからないでもなかったので、俺達はそのままLIMEの友達追加も互いにした。彼女のプロフィールアイコンは、イルカのゆるキャラだった。お互いにスタンプを送り合って、追加を確認。


(これ、ほんとだったら凄い事なんだけどなぁ)


 空前絶後の美少女・金髪クォーター聖女様の斎紗菜とLIME交換だなんて、きっと全校生徒に羨まれる案件だ。ただ、今の俺には、全くもってその稀少性がないというか、空前絶後の美少女は奇声をあげてブチ切れる女の子というイメージが固まってしまっているので、もう残念な女の子にしか見えない。なんだか、以前俺の中で存在していた斎紗菜と、今目の前にいる斎紗菜が、同一人物とは思えないのだった。

 なぜだか知らないが、彼女は満足げにスマホをいじっていた。もしかすると、本当に友達がいなくて、俺みたいな奴でもフレンドリストに追加されて嬉しいのかもしれない。

 っていうか、もうこれ普通に友達みたいになってない?

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