第6話 学園の聖女様はどうやら根暗っぽかった
「で、どう言い訳するつもりなんだよ」
「何が?」
斎さんが素っ頓狂な声を上げていた。
全く何の事かわかっていない様子なので、俺は大きく溜め息を吐いた。
「男が話し掛けちゃいけないくらい人気者の聖女様が、どこぞの男子生徒の手を引いて消えた挙句、授業サボった件だよ」
「ああ……そうだったぁ……」
自分の行動を思い出したようで、また彼女はぼすっと自分の膝に顔を埋めていた。やっぱり、ぼっちなだけあって根暗なのだろうか。
「どうしよう……?」
上目遣いで不安げにこちらを見て来る。
いや、まぁ……可愛いんだけどさ。可愛いんだけど、自分の無計画さでこうなっている事を思い出してほしい。
「聖ヨゼフ学園始まって以来の人気者・斎紗菜とモブキャラ男子の組み合わせだからなぁ。なかなか自然みを出す理由って難しいな」
そうぽそりと呟くと、斎さんがやや不機嫌そうな表情をしていた。
「なに?」
「あなたはモブキャラ男子なんかじゃないわよ」
予想外の言葉に、思わず胸が詰まる。
「どうして」
「モブキャラ男子なら、あんなとこ登って危険侵してまで、あたしのこと、信用させようとするわけないじゃない」
彼女は下を向いているので、どんな表情をしているのかはわからない。でも、彼女の耳が真っ赤になってしまっていた。そんな風にいわれると、こっちまで恥ずかしくなってしまう。
「まあ……俺がモブかどうかは置いといて」
「置いとくなっ」
「なんで?」
「な、なんでって……今、あたしすっごく勇気出したんだけど……」
なんだかひとりでぶつぶつ言ってまた顔を埋めてしまった。
やっぱり根暗だなぁ。
「とりあえず、何か俺に相談事があった事にするしかないんじゃないか?」
「あたしが薫くんに相談? 何の?」
彼女は怪訝そうに首を傾げた。確かに、接点がなさすぎて、相談事も思いつかない。
「んー……例えば、俺の男友達を紹介してほしい、とか?」
「嫌よ。あたしが男漁ってるみたいじゃない」
「ゲームの攻略法を聞きたい、とか」
「ゲーム、ゲームねえ……昔、死界村ならやったことがあるわよ」
なんでそんな難易度がめちゃくちゃ高いレトロゲームをやってるんだよ。俺がむしろやった事がない。
「俺がわからん。スマホゲームは?」
「スマホのゲームなら、PIBGとかやってたわ」
「なるほど」
PIBGはスマホで遊べるFPSゲームだ。
FPSとは、ファーストパーソン・シューターの略で、主人公の視点で空間を移動して戦うアクションゲーム。PIBGはスマホのゲームアプリで、銃器を拾って戦って敵を殺すゲームなのだが、内容が過激で依存性が高いとかで、インドでは禁止令が出たとか何とか。ここ日本でももちろん流行っていて、一時期皆でやっていた時期がある。
「へえ、意外。女の子でもPIBGやるのか」
「たまにね」
「なんで?」
「ストレス解消になるじゃない? 撃ちまくるの」
ダメだこいつ。本当に根っこが俺より陰キャ過ぎて救えない。
「でも、PIBG女子部って結構あるみたいよ? あたしの周りでは誰もいないみたいだけど」
「それこそあの連中と一緒にやればいいのに」
「嫌よ。それに、あの子達みんなお嬢様だから」
こんな野蛮なゲームやらないわよ、と付け足した。
幼等部からエスカレーター組の斎さんの方がお嬢様だと思うのだけれど、今はそこを突っ込んでも話が進まないので、スルーした。
俺もPIBGは一時期やっていた。あのゲームは面白いのだけれど、その反面眼精疲労が著しいので、最近ではあまりやらなくなってしまっていた。ただ、これは案外良い接点になりそうだ。
「それ使えるな。よし、じゃあ俺達はPIBGでフレンドって事にするか」
「え? フレンドになってどうするの?」
「出会いの馴れ初めは、たまたま野良でパーティーを組んだ事にしよう」
野良パーティーとは、ランダムで組むチームの事だ。偶然同じパーティーになった俺達は、テキストやボイスチャットで話してるうちに同じ学校だと判明したことにする。日本以外のサーバーで野良パーティーをやってしまうと、周りが外国語ばかりでさっぱりわからない事があるのだが、国内サーバーで野良をやっていれば、出会わない可能性はゼロではない。かなり低いけども。
ちなみに俺の初野良パーティーは、台湾人とパキスタン人だった。サーバーを選び間違えていたのだ。三者三様でさっぱり何を言っているのかわからず、全く連携が取れないまま瞬殺された。俺が野良パーティーをやらなくなった理由の一つである。
「それで、話の内容や声から俺が斎さんだと気付いて、あの時廊下でそれを言い当てた」
それにびっくりした斎さんは、動揺してとりあえず俺を連れ去ってしまった、という話だ。
「それだったら何とか辻褄合わせられない?」
「そう、ね……そういう事なら、何とか誤魔化しも利くかもしれないわ。あたしがあなたを引っ張っていったのは色んな人が見ちゃってるから、あたしがそうせざるを得なかった状況が必要ってことね」
「そういう事」
「あなた、思ったより頭がいいのね。あたしじゃ絶対に思い浮かばない事だわ」
感心したように斎さんが俺を見た。
「学年順位・中の中をナメんなよ?」
言ってやると、くすっと斎さんは「そこそこデキる中の中ね」と笑った。
とりあえず話は一旦それでまとまった。他に良い案も浮かんでこなかったし、これが可能な限り現状起こり得る事柄だ。バーチャルで会っていた事にすれば、いくらでも話は付け加えられる。我ながら、なかなか良い作戦だった。
その後は二人で言い訳を考えて調整し、補填し合った。
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