東雲昼間

 

 どこにでもいるスーツ姿の冴えない男が公園のベンチに重く、うなだれながら座っていた。

「今日もまた、取引先を怒らせてしまった」

独り言というにはいささか大きいが会話するほど大きい声ではなかった。

「思えば失敗ばかりの人生だった、女房に愛想つかされ、大学も浪人して結局入れず、ギャンブルにのめり込んで借金は膨らむばかりだし」

男はうなだれていると自分の影に目が行った

「いいよな影は何の心配も嫌なこともなくて

あーあ影になりてぇ」

 そういったとたん男はゆっくりと地面に埋もれていき、男の影だけが地面に引っ付いていた。

「もしかして本当に影になれたのか、やっほーう、何もかも解放されて自由なんだ」

 男は町中はしゃぎまわった。

普段は行くことのない高級店。

関係者しか入ることができない扉の中。

知らない人の家。

果てはスカートの通行人の真下にぴったり張り付きその揺れる中をのぞいてみたり。

ひとしきりはしゃいだ男はあることに気が付いた。

「地面から剥がれることができないのか、そのせいで視界がありんこみたいだ」

色々と試しても地面から剥がれることは出来なかった。

次第に影であることに不便さを感じ始め、人間に戻りたいと願い始めた。

しかし戻ることはかなわなかった。

そして次第に辺りが明るくなり完全に明るくなったさわやかな朝。

新聞配達のアルバイトがあくびをしながら郵便受けに新聞を詰め込んでいたそのころ。

男の影は、影を作るからだがないため日の光に照らされてどこかへ消えて行ってしまった

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東雲昼間 @sinonomehiruma

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