君と出会えてよかった。
双極性障害1型の彼が、禁煙をした。
禁煙直後は本当に面倒で、「もういいから吸えよ」とうんざりしていたのだが、今は「禁煙してくれてありがとう」と、心から言える。
彼の双極性障害の症状が、治まったからだ。
確かに、ネットにも本にも書いてあった。
「治療中は、タバコとコーヒーは控えて下さい」
(皆さん誤解しがちですが、『控えて下さい』とは『即止めろ』の柔らかい言い方です。ちょと減らせという意味ではございません)。
しかし、ここまで効果が出るとは思っていなかった。薬を飲んでも消えなかった短気や病的なこだわりが、嘘のように消えたのだから。コーヒーは半量に減らしただけだけど。
実は彼、過去に一度は禁煙に成功していたんだそうだ。ところが前の奥さんが喫煙者だった。吸いたくない彼は彼女にも禁煙を頼んだのだが、「酒を飲むにはタバコは必須」だとか(ヘビースモーカーあるあるの言い訳ですな)、「夜の仕事をしているから禁煙は無理」だとかと躱され続け、結局彼の方が耐えきれず再喫煙してしまった。――それが、双極性障害の治療の妨げになっていたわけだ。
この喫煙エピソードもそうだが、彼はずっと周囲に理解されてこなかった。彼の兄弟と話す機会もあったけれど、彼とは関わりたくないだとか、人間としてクズだとか、DV男だとか、もう本当に散々な言いようであった。
双極性障害というのは、病気ではなく地の性格と勘違いされやすいのだ。同じ病気である私だって、彼の事を「考え方が変だ」とは思ったが「こいつ病気かも」とは思わなかった。
今の彼は、伝統やアートを好む静かで甘えん坊な男の子(42歳)である。料理やお菓子作り、編み物といった根気のいる作業を好む乙男(オトメン)であり、井伏鱒二を私におススメするような文学中年でもある。それに私と喧嘩になっても、絶対に手は挙げない。
彼は言った。「自分は、もっと昔から発病していたのかも知れない」と。
もしそうならば、兄弟の話には納得がいく。おそらく躁と鬱の時期に問題を起こしては、思考も理解もできないまま人生のリセットばかり選んできたのだろう。やり直し願望も病状だ、しかし健常者にはただの責任逃れにしか見えない。
私は、彼に出会えてよかったと思っている。彼が病気と分かる前の異常さも、病気と分かった後の戦いも、回復していく段階も、すべてを観察できたから。彼が本来の姿に戻っていくのを、こうして隣で見ていられるから。そして冷静になった彼だけが、私の人生で唯一私と対等にいてくれる人だったから。
どうか本来の彼の事を、多くの人が理解して愛してくれますように。
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