4話 自習室

 話しかける成神だが、外の物音に全神経が向かった。

 左手の人差し指を口に当てながら鈴木を見ると、鈴木は今にも泣き出しそうな顔でコクコクと何度も小刻みに頷く。

 そして右手人差し指で廊下の方を指すと成神はゆっくりと廊下へと向かって行く。


(まずいよ成神くん!ナニかいたら……!!)


 小声で成神に話しかける鈴木だが、彼は止まる事は考えていなかった。

 聞き耳を立てながらゆっくりと廊下へと顔を出すと、廊下には何も居ない。


(居ない?でも確かに物音がしたんだけどな……)


 確かに音がしたのは事実だ。

 廊下では無いとすれば、自然と視線は隣の教室へと向けられた。

 教室の札には“自習室”と書かれている。


(ドアは……鍵は掛かってなさそうだ)


 ドアに手を掛けると動く事が分かる。

 そして決心しドアを開けようとした時、成神が意思せずにドアがガラリと開いたのだ。


「うぉ!?」


 ドアが勢いよく開くと中から何かが飛び出してきた。

 ちょうど目の前にいた成神にその何かがぶつかると、成神は廊下に倒れこむ様に転んでしまう。


「成神くん!?」


「いってて……」


「大丈夫?」


「だ、大丈夫だけど……あ」


 成神の視線の先に立っていたのは男子生徒だった。

 そしてその男子生徒は成神は知っていた。


「新井か?」


「んだよ 成神かよ」


 怪訝けげんそうに成神の名前を呼び溜め息を吐く新井と呼ばれた男子生徒。

 また鈴木は新井を見ると怯えていた。


「あ、新井……くん」


 成神は思い出した。

 この新井大輔あらいだいすけはサッカー部所属しており、実力はプロに行ける程のレベルだ。

 だが彼には素行が悪いという一面もあり、特に鈴木に対してイジメをしていたのだ。


「…ッチ!じゃあな」


「おい新井待て!どこ行くんだ!」


「うっせぇな!鈴木のクズと一緒にいたら死んじまう 場所を変える!」


「おい新井!おい……!」


 新井は鈴木を睨みつけながらそう言葉を言い放ち階段を降りていってしまった。

 呼び止めようとしたが無視する様に背を向けて行ってしまい成神は溜め息を吐く。


「行っちまった まぁいいや……」


 新井を追いかけようとするが止める。

 それよりも新井が出てきた自習室に彼は気になったのか、ドアを開き中へと入った。


「何だよコレ」


 自習室の中は他の教室とは違い綺麗そのものだった。

 血痕すらない床には机が積み上げられておりバリケードの様な形をしていた。


「彼奴 1人で此処に籠城してたのか?」


 部屋の様子を見ただけでも分かる。

 新井は安全なこの空間を独り占めしていたのだろう。


「マジ最悪だな いや、むしろコレが正解なのかな?」


 そう独り言を呟きながら自習室の中を見渡す成神。


「ん?」


 すると下に向けられた視線の先には何かが燃え尽きたカスを見つけた。

 指でそれを摘むとボロっと崩れ落ちて行く。

 そして指先に灰色の何かがこびり付くと、彼は鼻に近づけて匂いを嗅ぐとそれが何かすぐに分かった。


「タバコ」


 タバコの吸殻だ。

 成神は周りをよく見渡すとタバコの箱を見つける。

 そしてタバコの箱の中には数本のタバコと一緒に100円ライターも入っていた。


此奴こいつ喫煙もしてたのかよ スポーツマンがよくやるよな」


 呆れながら話す成神。

 彼も野球部に所属していた為、スポーツマンとしてタバコなどは決して手にしなかった。

 だが同じスポーツマン。

 ましてやプロにも注目される新井がタバコを吸っていた事に対し呆れる以外の感情は出てこなかったのだ。


「はぁ ライターは使えるかな?火があれば灯りにもなるしな」


 そう呟きながらライターだけを取り出しズボンのポケットへと入れる。

 すると鈴木が自習室の中へと入ってくる。


「な、成神くん?」


「鈴木 そうだちょうど良い」


「え?」


「聞かせてくれねぇか?何が起きたのか」


 その言葉に鈴木はビクッと体を震わせる。

 成神自身は記憶が曖昧で、この現状になった事が分からない。

 おそらく鈴木なら知っていると踏んだのだろう、聞き込みをする事にしたのだ。


「覚えてるか?何があったのか」


「う、うん」


 質問に鈴木が頷く。

 どうやら彼は全容を知っている様で、成神は鈴木から知っている事を全部話してもらう事にした。

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深き眠りの果てに・・・ オレッち @seisyun25

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