第4話
【AD1100年、曙光都市エルジオン・ガンマ区画】
アルドたちはイシャール堂前に集まった。
アルド
「さて、どうしようか。この際、仲間の皆に事情を話して、街から街を片っ端から聞いて回ろうか?」
サイラス
「う~~~む……それは最終手段でござるな……。」
エイミ
「……いえ、私考えたんだけど、もっと良い確実な方法があるわ。」
サイラス
「なんと、何か思い付いたでござるか?」
エイミ
「ええ、こうなったら……。」
アルド
「こうなったら…?」
エイミ
「セバスちゃんに頼んで、ミロの飼い主を見つけられる装置を作って貰うのよ!!」
アルド
「ええっ!?」
サイラス
「そんな……都合の良い物が作れるでござるか?」
エイミ
「わかんないけど……セバスちゃんだったら何でも出来そうな気がするじゃない?ほら、例えば、ミロの匂いを元に、同じ匂いを持つ飼い主を見つけるとか…!」
アルド
「う~ん……どうなんだろう?でもそれって、物凄く広い範囲で出来ないと、結局街から街を回って行かないといけないんじゃ……。」
エイミ
「そこは天下のセバスちゃんよ!きっと何とかしてくれるに違いないわ!それに例えばって言ったでしょ?そりゃもう凄~い物を作ってくれるわよ!」
サイラス
「……まあ、他に方法もないのなら、それに頼るしか無いでござるな。」
エイミ
「でしょ?……ってことで、早速セバスちゃんの所へ行くわよ!」
アルド
「…そうだな。とりあえず行ってみよう。」
アルドたちはセバスちゃんのいるシータ区画へ向かった。
【曙光都市エルジオン・シータ区画】
セバスちゃんの部屋へ向かうため、シータ区画を歩くアルド一行。
アルド
「……でもセバスちゃんって、いつも忙しそうにしてるよな?猫の飼い主を探す装置なんて、すぐに作ってくれるかな?」
エイミ
「う………そこはアルド、あんたの交渉術の腕の見せ所じゃない。」
アルド
「俺か!?しかも交渉術って……そんなの自信無いぞ……。」
???
「おや、皆さん、探しましたよ。」
アルドたちが歩いていると、突然後ろから男が声をかけてきた。
アルド
「あんたは…古物商の…?」
古物商の男
「ええ、先ほどはどうも。どうですか、猫の飼い主は見つかりましたか?」
アルド
「……うーん…それが、ちょっと複雑になっちゃって……。」
ミロ
「ミャ~~。」
ミロが顔を出す。
古物商の男
「おや、難航していましたか。」
サイラス
「拙者たちを探していたと言っておったが、また何か用でござるか?」
古物商の男
「ええ、ええ。実はですね、先ほどオークションで大変素晴らしい物を入札しまして。是非皆さまにも見て頂きたく。」
エイミ
「はあ…?」
古物商の男
「これです、これを見てください。」
男は持っていた包みをほどき、花瓶の様な物を出した。
古物商の男
「これは遥か昔、まだ精霊とともに人々が暮らしていたと言われる……2万年も前に存在した、水の都と呼ばれるアクトゥールという街で作られた、猫の花瓶なのですがね。」
アルド
「あ、ああ……。」
古物商の男
「猫が抱きかかえるように壺を持っていますでしょう?なかなかこれ程までに複雑な構造の陶器を、一体どうやって作ることが出来たのか……いやはや、本当に素晴らしい作品なのですよ。」
古物商の男
「幸いなことに状態もとても良い。アクトゥールの水と土は非常に質が良かったとされ、陶器以外にもあらゆる名物、名産品があります。これまでの管理方法も良かったのでしょうが、一番はやはり素材の良さであると言えるでしょう。」
サイラス
「御仁……拙者そういうのには疎いでござるが、確かに綺麗でござる。しかし、拙者たちも今、先を急いでいて……。」
古物商の男
「見てくださいこの劣化の少なさを。アクトゥールで加工された自然は、たとえ2万年の時が経とうとも朽ちることは無い。何か込み上げて来る物がありませんか?…今現在私たちの足元では、触れることも叶わぬ程汚染された大地が広がっているというのに……。」
エイミ
「わーかったから!それが凄いのは!でも私たちもじっくり見てる暇なんか無いの!悪いけど、後にしてくれる!?」
痺れを切らしてエイミが声をあげた。
古物商の男
「ああ、これはすみません。なんと本当に面白いのはここからなんです。」
エイミ
「…ちょっと勘弁してよ、まだ何かあるわけ?あなた、人の話聞いてる?」
古物商の男
「ええ、これはきっと皆さんも驚くことでしょう。この壺を抱えている猫を見てください。この首輪の部分……。」
エイミ
「首輪……?」
アルドたちは猫の陶芸品に近付いて見てみる。すると、首輪には“ミロ”と掘られた部分があった。
サイラス
「こ、これは……!」
古物商の男
「はい、“ミロ”と書かれています。…これは完成した後ではなく、作業過程の中で刻まれた物と見て間違いないでしょう。……そして、今あなたたちが連れている猫の首輪にも、“ミロ”。この文字が掘ってありますね?」
アルド
「……まさか……!」
古物商の男
「先程ガンマ区画にいた男の子が、“拾ってあげてください” の文字と共にたまたま名前を書いた線も考えましたが……やはり、“ミロ” と掘られた文字の方が明らかに劣化しています。……つまり、この2つの文字は同時期に掘られたものではない。」
古物商の男
「……いやあ、これは偶然なのでしょうか。昔の人々はよく猫にミロと名付けていたりとか……?しかし時代も場所も大いに違いますから……。」
アルド
「……いや、これはつまり、ミロの飼い主である子供が、時空の穴で現代ガルレアから古代アクトゥールに飛ばされて……。」
エイミ
「そこで生きていくことになって……将来陶芸家になり、ミロのことを想って作品を作り続けたってこと……!?」
サイラス
「そう考えると、辻褄が合う気がするでござる。よく見ると、この花瓶の猫もどことなくミロに似ている気がするでござるよ。」
アルド
「……本当だ、特徴をよく捉えているな。これは……確認しに行ってみる価値はありそうだ。」
エイミ
「ええ、アクトゥールに行きましょう!
おじさん、ありがと!本当に助かったわ!その猫の花瓶も素敵よ!」
古物商の男
「…………もしかしたらこれは、信仰か何かの表れなのかもしれません。古代ミグレイナ大陸の陶器から、東方ガルレア大陸の首輪に刻まれる“ミロ” という文字……これらを繋ぐ何か……これはもしや相当巨大なものでは………。」
アルドたちは急いでその場を後にし、古代アクトゥールへと向かった。
古物商の男
「……未だ私の見たことのない文献があれば、この謎を紐解く鍵も見つかるかもしれない……。皆さん、見た所旅人の様ですが、何かそういう物はお持ちで…………あれ?」
そこには既に誰も居なかった。
【BC2万年、古代ミグレイナ大陸・水の都アクトゥール】
アルドたちはアクトゥールに到着した。
エイミ
「今度こそ見つかるといいけど……。」
サイラス
「拙者何だか、ここで間違いないような気がしてならないでござる。」
アルド
「ああ、俺もだ。…よし、早速周辺の人に聞いて回って……。」
???
「ミロ…………?」
少し離れた所から少年が歩いてきた。
ミロ
「ミャ~~!」
少年
「ミロ……ミロじゃないかっ!」
少年とミロはお互い駆け寄って行った。
少年
「会いたかった……良かった、ミロ……お前もこっちに来てたんだな……!」
ミロ
「ミャ~!ミャ~~!」
アルドたちが少年の方へ歩いていく。
アルド
「……君が、ミロの飼い主かな?」
少年
「…うん、お兄さんたちは?」
エイミ
「……何から話せば良いか……別の場所、別の時代で、ミロを拾ってね。」
アルドたちは事の経緯を説明した。
少年
「時空の穴………そっか……やっぱり、あれは見間違いなんかじゃなかったんだ…。」
アルド
「君とミロは、魔物から逃げる途中で時空の穴を見つけて、それに吸い込まれたんだよな?」
少年
「うん……イナナリ高原で大きな魔物に襲われて……お父さんとお母さんが命懸けで僕とミロを逃がしてくれて……。イザナへの道は魔物に塞がれてたから、猫神神社の方へ行ってミロと一緒に隠れてたら、見たこともない光に吸い込まれて……気付いたら、ここの近くの湖道にいたんだ。」
エイミ
「大変だったわね……。」
少年
「何とかこの街までたどり着いたけど、どうしたらいいかわかんなくて……。それで困ってたら、街のおじさんが、僕を迎えてくれたんだ。」
サイラス
「そうか……今までよくぞ頑張ったでござる…。」
少年
「でも……うう……!お父さん、お母さん………!」
アルド
「……信じられないかもしれないが、俺たちは君の両親の声を聞いたんだ。……ミロと一緒に強く生きて欲しい。君を、ミロを愛してるって言ってた。」
少年
「お父さんとお母さんが……?」
エイミ
「ええ。ここにいる3人とも、確かに聞いたわ。あなたが無事であると知って、とても安心していたわ。」
少年
「……そっか………うん、ありがとう。嘘だなんて思わないよ。」
アルド
「……それで、君はこれからどうする?実は俺たち、色んな時代を自由に行き来する方法を持ってて、今回もそれで君の元へ来れたわけなんだけど……。君さえよければ、君が元いた時代に連れて帰ることも出来る。」
少年
「僕は…………。」
エイミ
「答えを急ぐ必要はないわよ。好きなだけ考えてちょうだい。」
少年
「……ううん、僕、ここに残るよ。お父さんやお母さんや街のみんながいたあの場所は大好きだけど、ここの人たちも、みんなとても親切にしてくれる。それに…戻ったら……外に出る度、魔物に襲われたあの光景を思い出しそうで……。」
アルド
「………………。」
少年はミロを抱きしめる。
少年
「今の僕は、ミロさえ一緒にいてくれればそれで良い。ミロと一緒なら、何があっても平気だよ。………って言っても、元の時代へ戻る勇気が無いなら、お母さんたちの言う、強く生きることにはならないかな…。」
アルド
「…いや、そんなことないさ。」
サイラス
「少年、君は紛う方なき勇敢な少年でござる。武士である拙者が保証するでござる。」
エイミ
「君の両親は何があっても、君のことを温かく見守ってくれるわ。」
少年
「…うん。」
ミロ
「ミャ~~。」
少年
「これからもずっと一緒だからな、ミロ。」
少年が立ち上がる。
少年
「……それじゃあ僕、そろそろ行くよ。この街では色んな物を作ってて、中でも僕を迎えてくれたおじさんは、食器とか壺を作ってる人で…僕、それにちょっと興味があるんだ。」
アルド
「……そうか。将来は職人になってるかもな。」
少年
「それはまだわからないけど、とにかく僕、色々頑張ってみるよ。お兄さんたち、本当にありがとう!」
エイミ
「元気でね。また遊びに来るわ。」
サイラス
「ここら辺は拙者の庭みたいなものでござる。今度様々な場所を案内するでござるよ。」
少年
「うん!楽しみにしてるよ!……ミロ、おいで!」
ミロ
「ミャ~~!」
少年とミロはアルドたちの元を後にした。
エイミ
「……これで、良かったのよね。」
アルド
「ああ。あの子なら、何も心配いらないさ。」
サイラス
「………やれやれ、ただの捨て猫事件かと思いきや、とんでもない事になっておったでござったな。」
アルド
「はは、そうだな。二人ともお疲れ。特にエイミはな。」
エイミ
「ええ?……私は別に…。」
サイラス
「しかし何だったのでござろうな、あの少年の御両親との会話は。」
エイミ
「うっ…考えないようにしてたのに……。」
エイミは若干顔を引きつらせた。
アルド
「もしかしたら、家族を強く想う親の魂が、ああいう形になって顕れたのかもな。」
サイラス
「ふむ…。想い……魂でござるか……。」
エイミ
「えっ……そういう話する……?」
サイラス
「…思い出したでござる。この近くにそういう“想い”やら“魂”やらが集まるとされる場所があるでござる。エイミ、ちょっと寄って行くのはどうでござる?」
エイミ
「な、何で私なのよ!あんた1人で行きなさいよ!そもそも何しに行くの!」
アルド
「…いや、一応俺たちはイザナに戻って魔物を倒したことを伝えに行かないと……。」
サイラス
「この際エイミの幽霊嫌いもどうにかしたいでござるしなあ…。」
エイミ
「別に嫌いでも苦手でもないっ!大きなお世話だってば!……ほら!アルドがイザナに戻るって言ってるんだから、さっさと戻るわよ!」
エイミが走り去って行った。
アルド
「あっ!エイミ!待ってくれよ!……サイラスも行くぞ!」
サイラス
「…仕方ない、またの機会にするでござるか。」
アルドとサイラスがエイミの後を追いかける。
こうして少年と猫は無事再会を果たし、アクトゥールの地でお互い一生を共にするのだった。
少年は将来陶芸家となり、数々の作品を世に残すこととなる。
【AD1100年、曙光都市エルジオン・シータ区画】
《古物商の男の部屋》
男が今まで集めたお気に入りの骨董品などを置く部屋の中で、彼は考えごとをしながら彷徨いていた。
古物商の男
「う~む……とりあえず今持っている文献を漁ってみましたが、それらしき記述はありませんね……。今のところだと、もう一度現物を見て調べる他ありませんか…。それとも、知り合いの考古学マニアに見せてみますか……。」
古物商の男は部屋に飾ってある猫の花瓶を見る。
古物商の男
「おや…?……変ですね……確か猫が壺を抱きかかえている花瓶だったのに……これは…猫と子供が抱き合っている花瓶に……。」
古物商の男
「はっ……!ま、まさか…いつの間にか泥棒に入られ、偽物にすり替えられてしまったのか……!?い、いかん!!すぐにKMSを呼んで…!」
古物商の男
「ん…!?いや……EPDだったか…?いやCOAか……?……いや違う、EDFか!!??」
おしまい。
捨て猫物語 @N_Y_P_D
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