第3話

【AD300年、現代ガルレア大陸・辰の国ナグシャム】


アルドたちはナグシャムの宿屋前に着いた。


アルド

「よし、これからどうしようか。」


エイミ

「前回同様、聞き込みで良いんじゃない?この猫を見せて、心当たりがあるか聞いてみましょ。」


サイラス

「拙者もそれで異存は無いでござるよ。」


アルド

「わかった。じゃあ早速始めよう!」


アルドたちはナグシャムの酒場へと向かった。


サイラス

「聞き込みといえばやはりまず酒場でござるな。」


アルド

「マスター!この猫の飼い主を探してるんだけど、何か心当たりはないかな?」


ミロ

「ミャ~。」


酒場の店主

「ふ~ん…猫ねえ……悪いが、猫とその飼い主にまで気を配ってる余裕はねえなあ。そもそも、猫を一緒に連れて街を歩くなんて、普通しねえだろ?」


店主が面倒くさそうに答える。


エイミ

「むっ……それはわからないじゃない。猫だって家族の一員なんだから、どこへ行くのだって一緒にいても変じゃないと思うけど?」


酒場の店主

「だが今飼い主はどっかに行ってんだろ?俺だったら、家族の誰かが居なくなりゃあ、血眼になって国中を探し回るがねえ。猫を探してるって話も、聞いてないぜ。とても家族と呼べはしないんじゃねえかなあ。」


エイミが店主に詰め寄る。


エイミ

「…あのね……!そもそも私たちは

この国にいるしれないぐらいの気持ちで来てるのよ!この猫だってあんたの想像も付かないくらい遥か遠くの場所で見つけてねぇ……!!」


アルド

「お、落ち着けエイミ!気持ちはわかるけど……!マスター悪い、邪魔したな!行くぞ、2人とも!」


アルドとサイラスはエイミを引っ張りながら酒場を出た。


エイミ

「何よ……!知らないなら一言“知らない”っていえば済む話でしょ……!?それをあいつってば嫌味ったらしい事をグチグチと……!」


サイラス

「まあまあ、今回は運が悪かったと思って、次に行くでこざるよ。」


エイミ

「誰よ、“聞き込みと言えばやはりまず酒場だろうゲコ” なんて言ったのは……!」


サイラス

「……だろうゲコとは言ってないでござるが……。」


アルド

「……いや、実はサイラスって、喋る時結構ゲコゲコ言ってたりする………。」


サイラス

「なっ!?何と!!それは真でござるか!?」


サイラスは非常にショックを受けたようだ。


アルドたちが話していると、ミロが何だか落ち着かない様子をしている。


ミロ

「……ミャ~~……。」


エイミ

「……ミロ?どうしたの?またお腹でも空いたのかしら?」


ミロ

「……ミャッ!」


突然ミロが走り出した。


アルド

「お、おい!どこ行くんだ!?」


エイミ

「もしかしたら、飼い主の気配を感じ取ったのかも…!?」


サイラス

「とにかく追いかけるでござるよ!北の方へ向かったでござる!」


アルド

「あっちは…軍の詰所の方だ!急いで追いかけよう!」


アルドたちはミロを追いかけて行った。


軍の詰所のエリアへ来たアルドたちは、とある建物の入口の扉を引っ掻いているミロを見つけた。


エイミ

「ここは……福楽苑?中に入りたがってるみたいだけど……。」


アルド

「ミロと一緒に入ってみよう。」


扉を開けると、ミロは一目散にリンリーの元へ走っていった。


リンリー

「ひゃっ!誰アル!?………っと思ったら、オマエ、もう戻ってきたアルか?」


アルド

「リンリー!その猫のこと、知ってるのか?」


リンリー

「この猫はワタシの特製ウシブタミルクが大好物アル!いつも飼い主の少年と一緒にワタシの所へ来て飲んでるアル。」


エイミ

「飼い主を知ってるのね!この猫、その飼い主とはぐれちゃって、今探している所なの。どこにいるか知らないかしら?」


リンリー

「その飼い主の家族は、数日くらい前にイザナへ引っ越したアルよ。」


サイラス

「なんと、そうでござったか…。」


リンリー

「ついこの間お別れの挨拶に来たばかりなのに、きっとワタシの特製ウシブタミルクが恋しくて、我慢できず戻ってきたアルね~。」


ミロ

「ミャ~~。」


リンリーはミロにミルクを与えてあげた。


エイミ

「イザナか……でも、もう追い付いたも同然よ!さあ、あと少し!行くわよあんたたち!」


アルド

「ああ。リンリーもありがとう。助かったよ。」


リンリー

「またいつでも来るヨロシ。オマエも、今度はちゃんと飼い主と一緒に来るアルね。」


ミロ

「ミャ~。」


アルドたちは福楽苑を後にし、先刻エルジオンで古物商の男から聞いた紅葉街道の景色を楽しみつつ、イナナリ高原からイザナへと向かった。


【東方ガルレア大陸、巳の国・イザナ】


巳の国イザナ、イナナリ高原方面の門前にアルドたちは到着した。


アルド

「リンリーによれば、最近こっちに引っ越して来たらしいからな……とりあえず、門を見張ってるあの人に聞いてみようか。」


エイミ

「ええ。」


アルドたちは門の側にいる武人に猫と飼い主について尋ねた。


アルド

「なあ、ちょっといいかな。」


武人

「何だ?」


アルド

「ここ最近でナグシャムから引っ越して来た家族を知らないか?」


武人

「……お前たち、あの家族の知り合いか?」


アルド

「知り合いではないけど、その家族が飼ってる猫を預かってるんだ。この猫を返してあげたいんだけど。」


ミロ

「ミャ~。」


武人

「……そうか、あの家族は猫も飼ってたんだな。…………悪いが、家族に会うことはできないぞ。」


エイミ

「え?」


サイラス

「…どういうことでござるか?」


武人

「その家族はな、ここに向かって来る途中で魔物の襲撃に合い、護衛もろとも全滅しちまったんだ…。」


エイミ

「……そんな……。」


サイラス

「何ということでござる……。」


武人

「最近出てきた狂暴な魔物でな。ここら辺にキンシシっていう魔物がいるだろ?あれの変異種じゃねえかって言われてる。」


アルド

「……もう魔物は討伐されたのか?」


武人

「…いや。正直俺たちも手を焼いていてな。通常のキンシシを従えて猫神神社の辺りを根城にしてるんだが……。」


アルド

「……その魔物、俺たちに任せてくれないか?」


武人

「お前たちが?見たところ旅人のようだが………大丈夫か?生半可な実力じゃ返り討ちに遭うだけだぜ。」


アルド

「俺たちなら多分大丈夫だと思う。それに、この猫と家族のために、せめて俺たちが仇を討ちたい。」


エイミ

「アルド……。」


サイラス

「うむ、必ず討伐してみせるでござる。」


武人

「そうか……じゃあ頼んだぜ。くれぐれも気を付けろよ。」


アルド

「ああ、わかった。」


武人

「おっと……それともう1つ。その家族は両親と子供の3人家族でな。護衛2人と合わせて大人4人の遺体は回収したんだが…。」


エイミ

「それって……。」


武人

「ああ。子供がまだ見つかっていない。もしかしたら子供は逃げ延びてて、どこかでまだ生きてるかもしれない。行方不明ということで、一応こっちも捜索しているんだが……。」


サイラス

「きっと無事な筈でござる。拙者たちが必ず見つけてみせるでござるよ。」


エイミ

「…そうね。僅かでも希望があるなら、絶対に捨てないわ。」


アルド

「……よし、みんな、猫神神社へ行こう!」


アルドたちは猫神神社へ向かった。


【現代ガルレア大陸・猫神神社】


アルドたちは猫神神社の中を歩いて回る。


エイミ

「……エルジオンで拾った猫を返そうとしただけなのに、まさかこんな事になるなんて……。」


サイラス

「エイミ……悲しいでごさるが、あまり気に病んではいかんでござるよ。」


エイミ

「うん……。せめて行方のわからない子供を見つけられれば……。」


アルド

「大丈夫さ、絶対に見つかるよ。」


すると突然、ミロが今までに無い声を出した。


ミロ

「!………フシィーー……!!」


ミロの全身の毛が逆立ち、明らかに警戒心を顕にしている。


アルド

「ミロ?どうした?……まさか!」


サイラス

「アルド!エイミ!注意するでござる!」


後ろからキンシシが2匹、正面からはその2倍の大きさはありそうなキンシシの変異主が姿を現した。


アルド

「いつの間に…!くっ…囲まれたか……!」


エイミ

「なんて大きさ……それに、蒼白い毛並みに、赤い目……。」


サイラス

「……恐らく、奴が武人の話していた変異種というやつでござろう。」


エイミ

「……どうする!?」


サイラス

「後ろのキンシシ2匹は拙者だけで十分でござる!2人は正面を頼むでござる!……此奴らはかなり素早い魔物…加えてその変異種の力は未知数……油断大敵でござるよ!」


サイラスはアルドとエイミに背中を預けた。

アルドとエイミはキンシシの変異種と対峙する。


エイミ

「かなり素早いのに、サイラス1人で2匹相手して大丈夫なの!?」


エイミが警戒しながらサイラスの方に目を配る。


サイラスは1方のキンシシがアルドとエイミの方に行かないよう牽制しつつ、もう1方のキンシシを攻撃し見事な立ち回りと剣術で魔物を捌いている。


サイラス

「拙者を侮ってもらっては困るでござるよ!」


アルド

「やるなサイラス!……エイミ!俺たちでこいつを倒すぞ!」


エイミ

「わかったわ!」


「グォォオーーーーン!!」

キンシシの変異種が甲高い雄叫びをあげる。その途端、アルドに向けて蒼い炎を吐いた。


アルド

「うわっ!」


紙一重でアルドは炎をかわした。


エイミ

「アルド!大丈夫!?」


アルド

「……ああ!少しびっくりしたけど、問題ない!」


エイミ

「炎まで吐いてくるなんて…やっかいね。」


アルド

「エイミ!俺が隙を作る!その間に目一杯ぶちかましてくれ!」


エイミ

「オーケー!」


キンシシ変異種がアルドに向けて鋭い爪を振り下ろす。

アルドはそれを剣で弾き一撃を浴びせる。


「ガァァオ!!」


アルド

「怯んだ!」


エイミ

「チャンス!はぁあ……ブラストヘヴンッ!!」


キンシシ変異種の懐に渾身の一打が入る。


「グゥゥア!!」


キンシシ変異種がよろめくも、エイミに再び蒼い炎を吹き付ける。


エイミ

「きゃっ!…………やったわね……!!」


キンシシ変異種がエイミに飛び掛かり噛み付こうとするが、エイミは華麗にかわし再度魔物の懐に入り込む。


エイミ

「……これで終わりよ!!」


エイミの拳の連打がキンシシ変異種に決まった。


「グァァアゴ………!!」


キンシシ変異種は沈黙した。


アルド

「……よし、さすがだな、エイミ。」


エイミ

「ふふ、当たり前でしょ。サイラス!そっちは?」


サイラス

「こっちも問題無く片付いたでござる。ミロも無事でござるよ。」


サイラスの足元にキンシシ2匹が倒れていた。


ミロ

「ミャ~。」


アルド

「助かったよ、サイラス。おかけでこいつだけに集中出来た。…………さて、あの武人に報告へ行く前に、ちょっとこの辺りを探してみようか?子供がどこかに隠れているかもしれない。」


エイミ

「……そうね。数日経ってるとはいえ、可能性はあるわ。」


サイラス

「よし、では拙者はあっちの方を……。」


ミロ

「ミャ~~!!」


アルド

「ん?どうしたミロ?」


すると突然どこかから声が聞こえてきた。


(ああ……………………ます………。)


エイミ

「……?サイラス、何か言った?」


サイラス

「いや、だから拙者はあっちの方を探……。」


(……ありがとうございます…………。)


アルド

「えっ!?ちょっと待ってくれ!何か……頭の中で声が聞こえた様な……。」


サイラス

「拙者も聞こえたでござる………これは……。」


エイミ

「え!?な、ななな、何!?」


エイミが慌てふためく。


(ああ……ミロ………無事で良かった……。)


エイミ

「ミロって……!まさか…!?」


(あなた方たちがミロを保護して下さったのですね……本当にありがとうございます……。)


サイラス

「声が……もしやミロの御家族でござるか……!?」


(はい……私たち家族はナグシャムからイザナへ向かう途中で今の魔物に遭遇し……殺されてしまいました…………。)


(それでも息子たちだけは逃がそうと私たちは必死に抵抗し、何とか隙を作り息子を逃がすことが出来ました……。)


アルド

「……という事は、やっぱり子供はまだ生きているんだ…!」


(はい…来ていません。しかし、この世界のどこを探しても、息子とミロを見つけられず……。)


アルド

「…………?」


(ですがあなた方がミロを保護してくれていたなら、息子も必ずどこかに……お願いします……どうか息子とミロを……会わせてあげてください……。)


アルド

「……必ず息子さんのところへミロを連れていくよ。約束する。」


(ああ……ありがとうございます…………私たちはもう時間がありません…。どうか息子に…ミロと一緒に強く生きて、と…………愛してると……伝えてください……。)


アルド

「……ああ。任せてくれ。」


しばらくして、声は聞こえなくなった。


ミロ

「ミャ~~~!」


サイラス

「…………逝ってしまったでござるか……。」


エイミ

「い、い、今のって……。」


アルド

「魔物に襲われた家族の両親の魂…………とかかな?」


エイミ

「冷静に言わないでよ……!」


サイラス

「死者に語りかけられる……摩訶不思議な体験でござるが、仮にもここは神社でござる。まあ、この様な事が起こっても、あまり驚きはせぬでござるな。」


エイミ

「で、でもぉ……。」


サイラス

「恐ろしい悪霊とかではないから、安心するでござるよ、エイミ。」


エイミ

「わ、わわわかってるわよ!ただびっくりしただけ!」


サイラス

「…それより、あの両親から大事なことを託されたでごさるよ。何としても、ご子息を見つけねば。」


アルド

「そうだな。……この世界を探しても見つけられなかったって言ってたけど、どういうことだろう?」


サイラス

「……ふむ。子供の足でそう遠くまで行けるとは思えんでござるしな。魂でも行けない場所があるのか…………エイミはどう思うでごさるか?」


エイミ

「ちょ、ちょっと待って!今深呼吸するから!」


エイミは少しアルドたちと距離を取る。


エイミ

「すぅ~~~………は~~~………すぅ~~~………は~~~………大丈夫…大丈夫よエイミ……あれは……あれはそう、神の御告げだわ。猫の神様が何かこう……ボイスデータか何かを……ダイレクトに……脳みそとかに…………ブツブツ…。」


アルド

「…………エイミ?大丈夫か…?」


エイミがアルドたちの元へ歩く。


エイミ

「よし!平気よ平気!……で、何だったかしら?」


サイラス

「あの両親の魂が……。」


エイミ

「あーそうそう!!そうだったわね黙って良いわよカエル君。」


サイラス

「カエル君て……。」


エイミ

「……この世界のどこにもいなかったってことは、別の時代にいるってことじゃない?ミロも、未来であるエルジオンで見つけたんだし。」


アルド

「なるほど、そういう事か。恐らくミロと一緒に逃げてる途中で時空の穴に入り込んで、別々の時代に飛ばされちゃったんだ。」


サイラス

「そう見て間違いなさそうでござるな。……しかし、そうなるとまた一気に捜索範囲が広がったでござるよ……。」


アルド

「確かに………古代か未来か………更にはミグレイナ大陸かガルレア大陸か……流石にキツいな。何だかまた振り出しに戻った気分だ……。せめて何か手掛かりが掴めれば……。」


エイミ

「振り出しか…言えてるわね。……とりあえず、一旦またエルジオンに戻って、1から考えましょ!」


アルド

「……そうだな。諦めるわけにはいかない。」


サイラス

「うむ。頑張るでござる!」


こうしてアルドたちは、再びエルジオンへと戻った。































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