おにぎり! の謎
澄岡京樹
謎のメッセージ
おにぎり! の謎
【おにぎり!】
ホラースポット探しの途中で見つけた廃屋の室内、その壁にただそれだけが書かれている。
「なんすかねこれ。『!』マークまでついていてやたらゴキゲンですけど」
僕はそう言いながらバラさんに話しかけた。バラさんはオカルト研究サークルの先輩で、屈強でカッコいいムキムキマンだ。大学をn留しているらしい。
「ううむ……これは——」
バラさんは【おにぎり!】から何かを感じ取ったようで、険しい顔をし始めた。
「バラさん、もしかしてこれ、なんかヤバいやつなんですか?」
そう訊ねたのだが、バラさんは顔を横に振った。否定である。
「これはだな……そうだな、これ自体はただの文章だ。一見すると、おにぎり大好きな食いしん坊による落書きだと思えなくもない」
「一見……じゃ、じゃあその、これは『おにぎりおいしすぎワロタ』的なメッセージではないと……」
僕の問いに、バラさんは複雑そうな表情を見せた。
「今さっき言った通り、これ自体はただの文章ゆえにヤバいわけじゃない。だが、だがこれは——」
唾をごくりと飲み込んでから、バラさんはこう言った。
「これは——俺にはトラウマ案件に他ならない」
「な——————」
衝撃。あまりに衝撃。あの鉄メンタルのバラさんが——ちょっとした怪異なら片腕で粉砕してしまうパワーを持つあのバラさんが——怯えている……だと……? その事実に僕は何より衝撃を受けた。
だが一体どうして……バラさんが学食で注文するの大抵カレーライスじゃないですか。ライスはいけるはずなんですけど……だからそれはつまり、おにぎりこわすぎワロエナイではないはず……はずなんだ……。だというのに、だというのにどうして、どうしてそんな——
僕が困惑しているのを察してくれたのか、バラさんは僕の肩に手をかけながら口を開いた。
「びっくりさせちゃったな。俺もここまでトラウマってるとは自覚していなかった。これでも苦手意識をどうにか克服しようと努力してきたんだがな……」
「バラさん……その、辛かったら無理しないでくださいね」
僕がそう言うと、バラさんは「いや、お前には話しておこう」と呟き、そして【おにぎり!】に隠された意味を解説し始めた。
「まずこの『!』なんだが……これは酒呑童子だ」
「酒呑童子」
酒呑童子……確か大江山というところで源頼光とその四天王が討伐したという鬼だったか。確か酒呑童子は首を斬られて——ハッ!
「も、もしやこの『!』マークは……上下を変えると、」
「そうだ。これは『!』マークではなく、首と胴体とが分かれた酒呑童子を描いた絵だ」
「……!」
そ、そんな。僕はてっきりどこぞの食いしん坊がおにぎりの美味しさがヤバすぎて感嘆符を書いたとばかり……なんて、なんて浅はかな考察だったのだろう——。
「そして、『おにぎり』の『ぎ』だが……」
説明をしているバラさんの表情が曇り、呼吸が荒くなっているのが見てとれた。
「バラさん、無理しないでください!」
「いやいい、続けさせてくれ……」
僕の制止を抑えて、バラさんは衝撃的な発言をした。
「『ぎ』の濁点『゙』……これは茨木童子——俺の腕を表している」
「な——っ!?」
突然の告白に頭が真っ白になる。茨木童子、その名も知っている。茨木童子は酒呑童子の仲間——そう、鬼である。頼光四天王の一人、渡辺綱に腕を斬られたものの、のちに取り戻し、そのまま消息をたったというあの茨木童子——。バラさんが、あの茨木童子——だと——?
「あの時、
「バラさん……」
ビックリはしたものの、今のバラさんは屈強で頼れる先輩以外の何者でもないと僕は思ったので、恐怖心は特に抱かなかった。どちらかというと【おにぎり!】の謎を解きたくなったのである。
「もう真相に迫ろうか。……【おにぎり!】の『゙』と『!』に意味を見出した以上、残る部分の方にこそ、俺が特に恐れる要素があるんだ……」
耐えきれなくなったのか、バラさんは矢継ぎ早に真実を語り始めた。
「【おにぎり!】の説明していない部分、そして、綱の持っていた刀の銘〈鬼切安綱〉——そうだ。あれは美味しいおにぎりのことではない、あれは、そう、あれは——」
鬼切〜ONIKIRI〜——
「ほぼダジャレじゃねーか!!!!!」
それはそれとしてツッコミは入れちゃったのだった。
おにぎり! の謎、了。
おにぎり! の謎 澄岡京樹 @TapiokanotC
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