後編

 また同じ夢を見ました。

 みーちゃんといつものように遊んでお話しをする。

 いつものように並んで歩く帰り道。


「あっ」


 誰かが声をあげて振り返ると。

 顔を真っ赤にしたみーちゃんが、目を見開いてびっくりしています。


 …………


<日曜日>


 今日も朝からスマホをこねくり回して迷っていますよ。


 昨日見たみーちゃんは全部夢。

 現実のみーちゃんは今でもプンプン怒ってる。


 そう考えるとメッセージが送れない。


 もぅっ、グジグジ悩むぐらいなら!

 夢でもなんでもいいから、またみーちゃんのしらたきさんになろう。

 そのほうが楽しいしそれに……可愛いって、好きって……。


 うう、顔が火照って湯気が出そうです。


 違いますちがいます、みーちゃんの事を考えるいい機会なんです!

 ヨコシマな気持ちなんてありません。


 よいしょっと。

 しらたきさんを抱いて横になったらいつでもなれる気がします。


――――――――――――


「おはよう、しらたきさん」

『おはよう、みーちゃん』


 ベッドの中で一人会話の後に私=ふわもこしらたきさんを抱き寄せるみーちゃん。

 そのお顔がアップになって近づく。

 またいつものキスですか。


 むにゅっ。


 ん、あれ?

 な、なんか感触がリアルに!?


 そういえば今ふとんの温もりとみーちゃんの体温を感じていますよ?

 感覚がどんどん進化してますよー。

 なんかすごい恥ずかしくてクラクラして、変なキモチになりますよー!

 ……これが「イヤラシイ」って気持ちですか?


「ちーちゃんのこと考えていたら、ゆうべ寝られなかったよ」


 私もだよ。


『たいへんだね、でもはやくおきないとママが…』

「美里ーっ!

 いつまで寝ているのー、早く起きてゴハン食べなさーい」

「はーいっ」


 クローゼットを開けるとゴソゴソ。

 扉の向こうでお着換え中なのかな。

 いつもオシャレなみーちゃんはどんな部屋着なのかなー。


 あ、出てきた。

 って!?

 上のピンクのパーカーはいいとして下は生足だけですよー?


 家の中ではけっこうズボラさんなんですね……。


 しばらくして部屋に戻ってきてベッドに寝転ぶみーちゃん。

 スマホを操作して。


「もぉーっ!

 ちーちゃんからなんか送ってよぉーっ」


 私も絶賛悩み中なんですー!

 大体いつもみーちゃんからメッセージ送ってくるじゃない。

 いつもみたいに送ってきてよ!


 ちーちゃんはベッドの上に座りなおすと足の上に私を乗せる。


 はうっ!

 生足の太ももの上は気持ちいいです!!


「…もしかしてちーちゃん、

 今頃ほかの友達と遊んでいるのかなぁ。

 どう思う、しらたきさん」

『かもしれないね。

 みーちゃんのことキライになったかも』

「わたしももう他の友達と遊んだらスッキリするかな!

 だって友達は私の方がずっと多いしネッ」

『そうだよ!

 それがいいよ、それがいい……』


 だんだん声が小さくなっていって、明るい部屋に静寂が訪れる。

 外から小さな子供のはしゃぐ声が近づいて遠ざかる。


 ぼんやりとした目で長い間私は見つめられて。

 私を持ち上げて形のいい桜色のくちびるに近づけて。

 何度も何度もキスをする。

 

 ふにゅふにゅふにゅふにゅっ。

 ああ、私のくちびるがこそばゆくて溶けてしまいそうですっ!


 でもキスをするたびにみーちゃんの顔が悲しく曇っていく。


「……なんでケンカなんかしたのかなぁ。

 なんでケンカになっちゃったんだろう……

 こんなにしらたきさんも、ちーちゃんも好きなのに……」


 ……私はどうなんだろう。

 みーちゃんのことがキライになっただろうか。


 ううん、そんなことない!

 絶対そんなことはない。


 もうケンカしたことなんてどうでもよかった。

 ケンカの内容もどうでもよかった。


「ちーちゃんは臆病で友達も少ないから、

 わたしが独占できると思ったの。

 ちーちゃんに何を言っても嫌われないって思ってた。

 だから……つい甘えていっぱい傷つけてたのかなぁ。

 わたしがネクラにしちゃったのかなぁ……」


 違うよ、みーちゃん。

 臆病でネクラなのは元々だし。

 友達が少ないのも事実だし。


 だからクラスの人気者のみーちゃんが、


「わたしもしらたきさん、好きなんだー」


 って、いっぱい話しかけてくれたときはうれしかった。

 仲良しになれて楽しかった。


 でもね。

 私が最近おかしくなってきていたんだ。


 みーちゃんが他の友達と遊んでいると頭がモヤモヤってして。

 男の子たちと話しているのを見ると胸が苦しくなって。

 みーちゃんは悪くないのに。

 自分が苦しいからって責めてしまったんだ……


 うん、もう自分の部屋に戻ろう!

 そしてみーちゃんにスマホで謝ります!!


 ……あれ?

 これどうしたら戻れるんだろう。

 いつもはどうやって戻っていたかな?


 ちーちゃんがぎゅっと強く抱きついて、再びキスの連射が再開される。


 あわわわ、ダメですダメです!

 これ以上されると感覚が壊れますーっ!!

 早くはやく戻らなきゃーっ!


 ……。


 結局戻れませんでした。


 ちーちゃんはしらたきさんとのキスに満足してのか、私を放り出した後は。

 部屋をウロウロ歩いたり、ベッドでゴロゴロしたりと落ち着かない。


 そしてそのうちにだんだんベッドから動かなくなってきた。


 ううー、早く帰りたい!

 早くみーちゃんに「ごめんなさい」て言いたいよぉーっ!


「ママー。

 あのねー…頭がいたいの」


 部屋を開けっぱなしで出て行ったみーちゃんの声が聞こえる。


 みーちゃんママによって微熱があることが発覚。

 ママに付き添われて部屋に戻ってきました。

 大変、大変!


「みり。

 千智ちゃんと仲直りは出来た?」

「……まだ」


 みーちゃんママがため息をつく。


「もうっ、熱の原因はきっとそれね。

 スマホっていう便利な道具があるんだからさっさと仲直りしちゃいなさい」

「……んん」


 みーちゃんママがカーペットに落ちていたスマホを拾って渡すと部屋を出て行った。


 しばらくスマホを手でもてあそんだ後、文字の入力を始める。


「……せんちちゃん、ごめんなさい……っと」


 ああああっ。

 早く帰ってスマホを確認して返事しなきゃ!

 はやく帰って帰ってぇぇっ!!

 

 どんなに願っても願っても自分の部屋に戻れず。

 私は何度もため息をついて何度もスマホを確認するみーちゃんを、抱かれたままただ見続けることしかできません。


 でも、これは夢でしかないのだから。

 みーちゃんからのメッセージなんて無いかもしれないし。


 そうこうしてるうちに、いつしか空はだいだい色に染まってきました。


「ちーちゃん、どうしたのかな……。

 いつもはすぐ既読がついて返事くれるのに……」


 最後のほうはみーちゃんの声がうわずってきて。


「わたしのこと……キライになったのかな……

 どうしよ゛う゛、しらだぎさん……うぐっえっぐ……

 あしだからどんな゛かおじて、ガッコいけばいいのかな……ううううっ」


 大粒の涙を流してちーちゃんが泣いている。

 無理やり止めようと何度も何度も瞳をこするほど、むせび泣きが大きくなる。


 やだやだやだやだやだやだっ!

 夢でもなんでも、ちーちゃんの泣くところなんて見たくないっ!!

 はやくはやくもどれええええっっ。 


――――――――――――


「千智ーっ!

 アンタお昼も食べないでいつまでゴロゴロしてるのーっ!!」


 お母さんがふすまを勢いよく開けた音にびっくりして目を覚ました。


 飛び起きると夕闇色に染まる薄暗い部屋で、私はスマホを探す。

 しらたきさんがコロコロ転がったけど、ごめん、今はかまってあげられない。


「こらっ!

 せんちー、聞いてるのー!?」

「ごめん、お母さん!

 後でいくらでも怒られるから、放っておいてっ」


 私の勢いに飲まれてお母さんが廊下まで下がった。


 スマホを見つけて、新着メッセージを選択して開く。


< せんちちゃん、ごめんなさい >


 その文字を確認するとビデオ通話ボタンを迷いなく押す。

 ワンコールの後に接続しました。


『……ちーちゃん!?』


 目を真っ赤にしてベッドで横になるみーちゃんが映る。

 柔らかなほっぺがいつもより赤いです。


「みーちゃん、みーちゃん!!

 ごめんなさい、ごめんなさいごめんな゛ざい……

 あたし、みーちゃんがいつもいづも幸せそうでうらやまじがったんです!」


 視界がぼやけて、頬の上を熱い筋が幾重にも落ちていく。


 廊下にはもう誰もいません。


「 みーぢゃんをキライになんてならな゛いよ゛ぉぉ……、

 わだしがわ゛るがったのぉ、ごめんな゛さぁい゛……!

 もっとみ゛ーぢゃんとあぞんでおはなしじだいよ゛ぉ……」


 もっといっぱい伝えることがあったはずなのに、ほとんど「ごめんなさい」しか言えませんでした。


『ちーちゃん、ちーちゃん!!

 わるぐち言ってごめんね、あんなこと思っていないからぁ!

 わあああああああん、わあああああああ……』


 スマホにはみーちゃんが顔をくちゃくちゃにして泣いているのが映されてます。


 この後たっぷり一時間、泣き顔と泣き声を交信するビデオ通話をしました。


<月曜日>


「ホントに信じてね。

 クラスにはみーちゃんのことを不良とかイヤラシイなんて言ってる人はいないですから!」

「もーいいって。

 その話はやめにしよっ」


 少し照れながらもお互いつつがなく学校を終えて。

 その帰り道をランドセルを背負って、ちーちゃんと手をつないで歩きます。


「それよりさ、ちーちゃん。

 その三つ編みやめて髪をおろさない?」

「え、でも。

 三つ編みが似合うってみーちゃんが言ってくれたから……」

「私、ちーちゃんの黒くてまっすぐな髪が好きだから。

 どんな髪型でも似合うと思うんだ」


 よかった、ホントによかったです。

 こうしていつもみたいにみーちゃんとお話しして笑いあって帰れて。


 そうしてるうちに橋を渡って川沿いの四つ角に来ました。

 ここでお別れです。


「じゃあ、また明日」

「うん、また明日」


 私は顔をよせて、見慣れたかわいい唇にキスをする。


 そして団地の方向へ歩き出しました。


 ……。

 ……あれ。

 私、今何かしました?


 もしかして……キス、しませんでしたか?


 土曜日曜にいっぱいキスされて。

 それがなんだか当たり前みたいになって。

 でもみーちゃんのふわもこしらたきさんになっていたのは内緒で。

 

 はわわわわわわ!

 何て説明して、言い訳すればいいの!?


「あっ!」


 私は驚きと動揺の声をあげて、急いで振り向きました。


<終わり>

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しらたきさんと一緒のウィークエンド 館主(かんしゅ)ひろぷぅ @hiropoo

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