第1話 処分執行

 入学式が終わり、浦田が下校をしていると後ろから声をかけられた。振り返ると、下崎が居た。

「あ、下崎さん。だっけ?」

「うん、名前は裕子。よろしくね。」

「うん」

「今日先生が言ってたこと、どう思う?」

 おそらく処分のことだろう。

「親に言うべきだと思うな。」

「でも、あの先生の悪ふざけで、ただの補習とかするんじゃない?」

「あ、そうか」

 言われてみればそうだった。この高校のレビューも悪くはなかったから、変なことをしているわけでは無さそうだし、浦田の考えすぎだったのかもしれない。

 こうして、下崎の言葉をきっかけに浦田は疑うことは無くなっていた。

 四月三十日になった。

 浦田が登校すると、黒板にテストの時間割が書いてあった。「やっぱりテストはあるんだ。でも勉強したし大丈夫だろ。」

 そう思って準備をしているとホームルームが始まった。

「みんな席につけ、ホームルームするぞ」

 号令を済ませて、再び先生が続けた。

「今日は復習テストだ、くれぐれも最低点数を取らないようにな。」

 教室全体に、緊張が広がった。やはり皆処分というのが気になっているらしい。浦田と下崎だけは、対して怖がってはいなかった。

 一時間目、国語のテストが始まった。浦田はしっかり復習していたおかげで、ある程度は埋めることができた。その後の四教科のテストも楽々こなすことが出来た。だが、中にはペンが動いてない人も見受けられた。浦田はそのクラスメイトが少しばかり心配だった。

 そして終わりのホームルームが始まった。

「報告はしていなかったが、今日から君たちは寮生活のようなものとなる。親には事前に報告して了承を得ている。スマホ等の連絡できるものも全て預かる。敷地内からでることは許されない!」

 原松の言葉に全員の顔がこわばった。

(どういうことなんだ・・・・・・)

「場所と部屋は後で黒板に貼っておく、それを見て各自動け。食事の時間等は部屋にプリントがある。それを見て動け。以上だ、解散」

「待ってください先生!どういうことですか?」

「今日から敷地内のみでの生活だ」

「どうしてですか!」

「それ以上話すことは無い。これ以上質問すれば処分を下す」

 そう言うと、原松は教室を出ていった

「なんだよ、あれ。納得できねえよ!」

 クラス中から批判が飛び交った。ただ、無意味な行動に違いない。こんな高校は無い。従って学校特有の処分というのは、甘く見ることが出来なくなってきた。

 下校時間になった。生徒たちは校門に向かうと、門は閉まっていて、門番のようなガタイのいい男が四人並んでいた。

「でれなそうだね。」

「うん。」

 男の中の一人が言った。

「寮は左側だ。早く行け。」

 生徒たちは反発できる訳もなく、渋々従った。寮は意外と綺麗だった。校舎と同じくらいの大きさがあり、五人で一部屋。すごく狭い。文句を言っても変えてくれる訳もなく、ここで過ごすしか無かった。浦田のルームメイトは、矢萩慶太、広鹿真希斗、貴島康二、青昌直樹だった。誰も虐めるような性格じゃないので、助かった気がした。

「先生が言ってたことどう思う?」

「納得できないよな、意味わかんねえよあんなの」

「でも、逆らえば処分って脅しみたいに言われるし」

「まあ、普通にテストの点が良ければ普通に暮らせるんじゃね?」

「処分がどんなことかにもよるよな。」

「そもそも敷地内に閉じ込められてるような仕組みがおかしいんだよ。」

学校に対する不満を好き放題言い合う状態になってしまった。こんな状態が続いていると放送が入った。

「そろそろ十九時だ、食堂で食事を済ませて風呂に入り、二十一時には就寝。二十二時以降、声が聞こえれば強制処分だ。それと、明日は土曜だから学校は休みだ。校庭と寮内で自由行動可能、怪我などがあれば保健室に行け。日曜も休み。月曜にテスト返しだ。以上」

どうやら土日は休めるらしい、食堂に行けばご飯だけでなくお菓子も買える。ただしお菓子はお金がかかるから無駄な消費はしないようにしておくほうが良い。

 そして、何も起こらないまま月曜日を迎えた。放送が流れた。

「午前六時です。起床時間です。八時には各クラスの教室に着席しているようにしなさい。」

「ちっ、卒業までずっとこの生活かよ、面倒臭い。」

相変わらず誰からも愚痴が聞こえる。

 朝礼の時間になった。

「皆居るな。テストの結果を発表しよう。最低点数、二百四十八点の西川だ。こっちに来い」

「な、なにをするんだよ・・・・・・」

「いいからこっちに来い!!」

原松がいきなり声を荒らげた。生徒は全員驚いたような顔をしていた。西川は怯えながらも原松のもとまで行った。

「ついてこい」

「どこに行くんですか・・・・・・」

「黙っていろ。」

それ以上何も話すことも無く、西川は連れていかれた。

「何されんだよ。怖いよ。」

数分して原松が戻ってきた。「よし、今日はテストの返却を終えて帰宅だ。自宅学習をするように。それと、今回は百点を取った人は居なかったが百点を一科目以上取ると優遇、三科目以上取ると特別優遇がなされる。頑張るといい」

ここはただの学校じゃない。実力主義という事だ。賢い者は良い思いをして馬鹿は酷い目に合う。

 テスト返しが終わり、寮に帰宅した。校門には相変わらず警備がいる。

「ねえ下崎、処分ってなんだと思う?」

「分からない、けど怖い。連れてかれてから一度も見てないし」

結局処分の事が分からずに一日が終わった。

 次の日、登校すると教室が騒がしかった。何かと思うと黒板に写真が貼ってあった。

「浦田見てみろこれ、酷すぎる・・・・・・」

「は?なんだよこれ」

そこに写っていたのは薄暗い部屋、汚れたコンクリートで囲まれたまるで独房のような部屋、その中に手錠に繋がれた人の姿があった。体が酷く汚れている、アザのようなものも見て取れる。

「こいつ、西川か?」

「ああ、そうだ」

あまりに衝撃だったため、言葉に詰まった。

(これが処分ってやつなのか?)

その時、教室のドアが勢いよく開いた。

「分かったか?これが頭の悪い出来損ないに下される処分だ」

「ふざけんな!こんな事されてたまるか!」

そう叫びながら男子生徒が原松に殴りかかろうとした。しかし原松の動きが俊敏すぎた。原松は殴りかかってきた手を掴み、あいてる拳で肘を殴った。ゴキッという鈍い音と共に絶叫が耳をつんざく。原松は生徒の肘を、本来曲がるはずのない方向に曲げていた。肘から大量の鮮血が湧き出る。

原松が冷淡な口調で呟いた。

「俺は反抗期が嫌いなんだよ、こんなことしたくないから、言う通りにしてくれ」

生徒たちの絶叫が教室に響いた。平和な日本に住んでいた浦田達には、まるで地獄のような光景だった。

「それでは生徒の皆さん、面倒を起こさないよう気をつけて、勉強頑張ってください」

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異質学校 やまねこ @nasugohan1220

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