第10話
さらさらと髪を梳かれています。
とても気持ちが良いです。
心地が良くてこのままずっと寝ていたくなりましたが、誰がこんなに優しく触ってくれているのだろうと言う気持ちが勝ってゆるりと目を開けました。
あぁやっぱり。
私の髪を梳いてくれていたのは魔王でした。
何だか胸がポカポカします。
「おはようございますまおー」
呂律が回り切らないまま挨拶をします。
すると予想通りの優しい笑みを浮かべてくれました。
「まだ寝てて良いのだぞ?」
「まおーが来てるのに寝てるのもったいないです」
クスリと魔王が微笑みます。
やはり美形の笑顔は眼福ですね。
「菓子は食べるか?」
「食べます食べます食べます!!」
一気に目が覚めました。
だって魔王のお菓子はとても美味しいですから!
「今日は何ですか?」
「ガトーショコラだ」
魔王がテーブルの方へ向かいお茶の用意を始めます。
何となく距離が離れて寂しい気持ちがするのは何でしょう?
もっと傍に居てて欲しかったな、と思いました。
友情てこんなに熱いものなのですね。
あ、紅茶の良い匂いがします。
それと一緒に嗅ぎなれない匂い。
ベッドから降りてテーブルへ向かいます。
いつもの綺麗な透きとおる紅茶に胸が踊ります。
そして見慣れぬ物体が。
黒い…。
この黒いのは何でしょう?
「魔王、この黒いのは何ですか?」
「チョコレートケーキだ」
「!?」
チョ、チョコレート!?
体がわなわな震えます。
噂には聞いたことがあります。
それはめっぽう甘くて美味しいのだとか。
チョコレートがあれば恋も要らないなんて本に書いてありました。
これが、その”チョコレート”なのですね!
皿に切り分けられたチョコレートケーキが乗せられます。
正直よだれが垂れそうで口を結ぶのに必死です。
顔もだらしくなくなりそうなので一生懸命クールな表情キープです。
「召し上がれ」
「頂きます!!」
魔王が1口大にフォークでチョコレートケーキを切ります。
それを刺して私の口元に持ってきます。
パクッ
「~~~~~~!!!」
何ですかコレは!?
甘い!
物凄く甘いです!
そしてこの豊潤な香り!!
イチゴもマカロンも美味しいけどこのチョコレートは甘さにおいてはそれより上です。
どちらの方が美味しいと言う話でありません。
どれも魔王の作って来てくれるお菓子は美味しいです。
それでもこれ程の甘さのお菓子を食べるのは初めてです!
「魔王!チョコレートは物凄く甘いです!!」
「チョコは甘いからな。甘味に慣れさせてから出そうと思っていた」
其処まで考えてくれていたなんて!
本当に魔王は優しいです。
でも「友達如きにはココまでしない」とこの前言っていました。
ではやはり私は魔王の親友なのですね!
親友、良い響きです。
友達なんて出来た事の無かった私に親友が出来るなんて感無量です。
「魔王、とても美味しいです。やっぱり私、魔王が大好きです!」
「あぁ我もリコリスが好きだぞ」
目を細めて笑う顔は慈愛に満ち溢れています。
正直魔族が羨ましくなりました。
こんなに優しい統治者の下で暮らせるなんて幸せじゃないですか。
少なくとも魔王は物心ついたばかりの子供に国を護らせるなんてしないと思います。
「魔王は優しいですね。魔王の下で暮らせる者は幸せです」
珍しく魔王が驚いた顔をしました。
そんな表情も綺麗ですね。
魔王の顔面偏差値の高さに感慨深くなります。
「なら、我の下にくるかリコリス?」
あれ、なんか魔王の様子が普段と違うような?
あぁでも魔王に着いていったらきっと毎日が楽しいでしょうね。
でも私には過ぎた幸せです。
「来世でお願いします!」
笑ってそう返すと魔王が顔を手で押さえて大きな溜息を吐きました。
たまにソレしますけど魔王の癖なんでしょうか?
「割と分かりやすくアプローチしているつもりなんだがな…」
アプローチ?
何のアプローチでしょう。
取り合えず魔王は心なしかガッカリしているようです。
「どうしました魔王?気分悪いですか?」
「いや、これは長期戦だと改めて思ってな…」
「何と戦っているのか分からないけど魔王が長期戦と言うなら相手はかなりの強者ですね。応援します!」
「そうだな、もう少し積極的に行くとしよう。心していてくれ」
「良く分からないけど私は魔王の味方ですよ!」
よしよしと頭を撫でられてしましました。
私の励ましが効いたのでしょうか?
優しい表情です。
魔王が嬉しそうだと何故だか私も嬉しくなります。
午前中の嫌な出来事もはるか彼方へ吹っ飛んでいきました。
その後もチョコレートケーキを魔王に食べさせて貰いました。
そして今日の私は、何と、初めて紅茶をストレートで飲んだのです!
チョコレートが甘いからその方が良いと魔王が勧めてくれたからです。
確かにチョコの甘さを中和してくれる紅茶のお陰で甘さに飽きることなく最後までチョコレートケーキを食べる事が出来ました。
これで私も大人の仲間入りですね。
ところで前から思っていたのですが。
「魔王はお菓子を作るのが上手いですが自分では食べないのですか?」
疑問に思っていた事を聞いてみました。
何時も私が食べる姿をニコニコと見ているだけでしたので。
「お前が美味しそうに食べる姿を見るだけで我は満足だぞ?」
「でも折角なら一緒に食べたいです。美味しいものは分かち合いたいです」
「そうか、では明日からは我も食べよう。我にはリコリスが食べさせてくれるか?」
「はい!食べさせあいっこですね。ウチの両親もよくしていました。凄く幸せそうでした。きっと明日からはもっとお茶の時間が楽しくなりますね!」
「そうだな。楽しくなるな」
優しい笑顔でまた頭を撫でられてしまいました。
でもこのナデナデも結構好きだったりします。
魔王の手は美味しい物を作り出せるし、こうやって私を簡単に幸せにします。
まさに魔法の手です。
いつか私も魔王のような魔法の手を持てるでしょうか?
もし持てたなら今まで私を幸せにしてくれた分、私も魔王を幸せにしたいと思いました。
皇太子から婚約破棄を言い渡されたので国の果ての塔で隠居生活を楽しもうと思っていたのですが…どうして私は魔王に口説かれているのでしょうか? 高井繭来 @ominaeshi
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