第9話

 今日も私は気の行くまで寝て美味しい朝食をいただきました。

 今日の朝食は黒パンとビーンズスープです。

 ビーンズスープに入っていた豆はタンパク質が多く筋肉の維持にとても良いです。

 味はトマト味。

 トマトって野菜なのに結構甘いのですね。

 感激しながら今日も食べます。


 魔王のお陰で甘味にはかなり舌が肥えてしまいましたが、ご飯については塔に幽閉された初日から同じようなレベルの食事をいただいています。

 王都の一般的な庶民の食事より少しばかり料理の質は落ちるようですが今までの食生活を思えば十分に美味しい食事です。


 朝食を食べると私は魔王が来るまでベッドでごろごろしながら本を読みます。

 自分が持って来ていたのは読みつくしたので最近魔王が菓子と一緒に持って来てくれる本に目を通します。

 魔族が著者の本も結構面白いものなのですよ?

 魔族の使う文字もすっかり覚えてしまいました。

 最初の内は魔王に読み聞かせをして貰ってました。

 魔王は恋愛小説が好きなのか、人と多種族が種族の垣根を飛び越えて恋に落ちる展開の話を良く読ませてくれます。


「これで少しでも情緒が身体年齢に追いつけばよいのだがな」


 なんて魔王に言われました。

 解せぬです。

 私はこれでも皇妃候補だったので意外と頭は回るのですよ?

 私を子供みたいに扱う魔王の方が変なのです。

 えぇでも子供向けの本を読み聞かせて貰ったりしていた時は、魔王のリクエストでベッドに座った魔王の膝の上に座るよう言われていました。


 私これでも18歳です。

 確かに年より幼く見られることはありますが。

 何千年も生きた魔王にとっては人間の18歳と言うのは幼児と変わらない感じなのでしょうか?

 

 本当、魔王は変な方です。

 私に優しくしても何も見返りないと言うのに。

 そんな事を考えていたらウトウトしてきました。

 朝食を取ってベッドでごろごろしていたら眠くなってしましました。


 魔王が来るのは昼食が終わったくらいです。

 少し眠りましょう。


 ドンドンドン!!


 扉が大きな音で叩かれました。

 この部屋に扉は1つしかありません。

 塔から上り下りする階段に通じている扉だけです。

 一体誰が訪問しにきたのでしょう?


 正直熟睡一歩手前で起こされて少々怒りが込み上げます。

 私は睡眠を邪魔されるのが1番嫌なのですよ。

 無視を決め込んでも扉はノック(にしては力強過ぎる)は止まりません。

 【防音】の魔法を外側にも展開しておくべきでした。

 私の部屋からの音は【防音】の魔法を展開しているので、どんなに騒いでも外に聞こえる事はありません。

 でなければ人類の敵である魔王とこうも仲良く遊べてないでしょう。


 あ~扉叩くだけでなく何やら大声で喚き始めましたわ。

 結界が張ってあるからアチラから扉を開ける事は出来ないですよね。

 顔出しますか。

 本当っに面倒臭いのですが。


「どちら様でしょうか?」


 私が扉を開けるとそこには血相を変えた宰相様がいました。


「リコリス嬢、今日で幽閉は終わりです。皇太子殿下が失礼をしたことはちゃんと形にして詫びます。どうか王都に帰って来てください!!」


 土下座されてしまいました…。


「すいませんが私は帰るつもりはありません。この塔から出るつもりもありませんし《武神》に戻るつもりもありません」


 きっぱり言い放つ私に宰相様は絶望した顔をします。

 

「皇太子殿下が許せないなら皇帝陛下は殿下と聖女の首も刎ねても良いとおっしゃってます。それでも許されないでしょうか!皇帝陛下は貴女の望みを何でも叶えるとおっしゃってます」


「私の願いを叶えてくれる?だったら私に構わないで下さい。私はこの塔を出るつもりはありません」


 睡眠時間を削って国のために働けと言う事ですよね?

 この果ての塔での隠居生活を終わらせろと?

 ふざけないで欲しいです。

 私の人生の全ての奪ってまた命をはって働けと?


「私の時間は私のものです。たとえ王家の命であっても従う気はありません」


「貴様!王命に従わぬつもりか!!」


 宰相様が私に掴み掛ろうと腕を伸ばします。


 バチィッ!!


「グアァッ!!」


「言い忘れていましたがこの部屋の中は私が結界を張っているので、私が認めた人物か私以上の魔力を持つ者でないと入れませんよ?」


 得意属性の【雷】の結界です。

 威力はこれでもかと抑えているのですが普通の人間には耐えれなかったようですね。

 まぁ魔物相手に使っていた魔法ですから。

 宰相様が黒焦げになりましたが私の知った事ではありません。

 一応死なない程度には手加減してるので急いで手当すれば助かりますよ?


「ば、化け物っ!!」


 見張りの兵士が私に槍を突き立てようとします。

 その槍が結界に触れて崩れ落ちるました。

 宰相様が連れて来た兵士は皆及び腰になっています。

 まぁ私の能力の一端を見ればそうもなりますね。

 これでも十分力は抑えているのですけどね。


 《武神》舐めないで下さい。

 あ、今は武神ですね。


「そろそろ帰って頂けませんか?幽閉されているとは言え私はココから王都に向けて極大魔法を放つことも可能なのですよ?命が惜しければこれ以上私に係わらないで下さい私を敵に回したくなければ、ね」


 ガタガタ震えた兵士は大人しく扉を閉めなおしてくれました。

 ふぅ、朝から気分が駄々下がりです。

 

 この後、昼食は普段通りの内容のものが出ました。

 食事内容を落とす気はないようですね。

 取り合えずは飼い殺しにするつもりでしょうかね?

 これで食事を出さなかったら王宮と神殿に魔法ぶっ放してましたけどね。


 あ、極大は流石に使いませんよ?

 上級魔法ぐらいで留めてあげます。

 それにしても気分が悪いです。


 あぁ早く魔王来ないでしょうか。

 何だか朝の騒ぎのせいで無性に魔王に会いたくなりました。

 

 早く来て欲しい。

 楽しい気分にさせて欲しい。

 何時もみたいに美味しお菓子と紅茶を差し出して欲しい。

 そうすれば、こんな嫌な気分なんてぶっ飛んで行くに決まっています。


 魔王が尋ねて来るまでの時間が無性に長く感じて、やっぱり私は眠る事にしました。

 目が覚めたら魔王が来てくれていたら、それはそれは幸せだろうと思いながら。

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