No.2
私は、寝巻きのままスニーカーを履いて玄関の外に出た。夢と同じ景色だった。母が農家の実家から持ってきた鍬が家の壁に置かれていた。
地面を沼に変えて生息する生き物なんて、どちらかというと妖怪の様だった。
家族に聞いても『コンテイナマズ』という生き物は知らなかった。インターネットで検索しても、そんな生き物はヒットしなかった。
「コンテイという文字は“根底”という漢字に置き換えられる。だから、自分の根底に住む生き物と会ったという事だよ。」と、国語教師の父が私の夢を分析をした。
県外の大学に在席する私は、冬休みに姉と共に実家に帰省していた。
歴史好きの姉は、近所の湧き水が出る池に散歩しに行こうと私を誘った。
この池は鎌倉時代の武将と縁があるらしい。
水中から伸びるガマは、重そうな種子を蓄え風でしなっていた。
池の中心には神様奉る建物がある。鳥居をくぐり、そこへと向かった。姉はポケットからがま口を取り出し、私に五円を渡した。そして、私たちはこの土地の神様へと頭を下げた。
この神殿の裏に回り込むと、地下へと続く階段があり、その中はちょっとした観光名所になっている。
水路が作られ池の綺麗な湧き水が流れている。その側にある石畳の通路をただ進む。地下の中は空気が澄んでいた。天井からは、所々植物の弦が垂れている。観葉植物のエアープランツみたいだ。
この石垣で作られた地下空洞の壁になにやら、手の平サイズのたっぷりと水を含んだ丸っこい形をした植物が並んでいた。
よく見ると、表面は黄緑色の毛の様なものが生えていて、クチバシの様な突起と生気のない飾りの様な目の模様がついていた。
「これは、水ヒヨコっていうらしい。動物と植物との間みたいな生き物みたいよ。」
歴史的観光名所に行くのが趣味な姉は、こういう知識をよく知っている。
「こっちのは、みずみずしさが無くなって、しぼんでる。それに苔が生えてる。なんで?」
先客の家族とすれ違う。子どもが、この生き物をチラッと見て、気持ち悪いと、心底興味無さそうに言い放つ。そして、家族とこれから行く遊び場について話ながら去っていった。
「水ヒヨコはこういう綺麗な水辺にしかいない。しぼんで苔が生えているのは、老化したやつ。長い間生きていた証拠。」
どのくらい生きていたの?と聴こうとして、私は本当の目覚めを迎えた─
正月に帰省して、不思議な夢を見て、近所の歴史ある池に姉と行った記憶は事実だ。
しかし、その池の神殿の裏には地下への階段なんて存在しない。池のガマだって、夏から秋に房をつけるものだ。
この記憶はいったい何年前のものだろう。当事は大学生で、姉と2人でマンションに同居していた頃だ。
今は、2人共に独立をして別々に暮らしている。
私は今でも実家の田舎の風景を舞台にした夢を見る。そして、今でも『コンテイナマズ』の夢が忘れられない。夢の中に住む不思議な動物に心を囚われてしまった。起きて忘れてしまった、存在しない生き物たちともう一度会えないだろうかと後悔する。
だけど、一生のうちにどれだけ会えるのか楽しみだ。
枕元に置いた日記帳に書く。
─根底生物No.○○『水ヒヨコ』─
『コンテイナマズ』 沼蛙 ぽッチ @numagaeru-pocchi
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます