第5話 : 翌日のありすとディアン

 翌日―――


「ヘックチュッ!」


 なんとも可愛らしいくしゃみをするありすは、布団にくるまっていた。


「小娘、飯だ」

「うぅ……」


 ありすは重い体を起こすと、部屋に入ってきたディアンからお粥の乗ったお盆を受け取った。


「まったくとんだ阿呆だな。体調管理もできんのか」

「誰のせいだと―――!ゴホッゴホッ」


 昨晩、風呂上がりにディアンを探しに出たありすは薄着で体が冷え、加えて空を飛び冷風を全身に浴びたせいか風邪を引いてしまっていた。

 そのため今日は学校を休み療養していた。


「文句を言う元気があるなら明日あすには治ってるだろう。さっさと食って寝ろ」

「待って」


 出ていこうとするディアンをありすは呼び止めた。


「何だ。オレ様は忙しいんだ」

「そんなわけないでしょ、居候が。アンタに聞きたいことがあるの」


『忙しい』と言いながらもありすの質問に答える気があるのか、ディアンは椅子に腰を下ろした。


「何だ、言ってみろ」

「ちゃんと聞いてなかったけど、アンタが死ぬと私まで死ぬってどういうこと。マジで言ってるの?」

「マジのマジ、大マジだが?」

「あぁもう最悪……」


 聞き間違いではなかったことの確証を得てしまったありすはうなだれた。


「確かにオレ様が死ねば小娘も死ぬ。だが安心しろ、オレ様は絶対に死なん」


 自信満々に胸を叩いたディアンは「何故なら」と続けた。


「オレ様はいずれ『ヴァンパイア・デューク』となる男だからだ」

「は?なにそれ」


 ゲームやアニメなどで聞いたことのある言葉だった。だが、それがどういうモノなのかありすは知らなかったし、何故『ヴァンパイア・デューク』になれば死なないことに繋がるのか意味がわからなかった。


「聞きたいか?」

「いや別に」


 何故かテンションの上がっているディアンの様子に、面倒くさいことになると予想したありすははっきりと断ったのたが、聞こえていないのか聞く気がないのか、ディアンは『ヴァンパイア・デューク』についての説明をはじめた。


「仕方がない。話してやろう」


 何が仕方がないのかと言ってやりたかったが、言ったところで無理だろうと悟ったありすは、黙ってお粥を口に運んだ。


「ヴァンパイア・デュークというのはな、ヴァンパイアの頂点に立つ者に与えられる名だ。全てのヴァンパイアを束ね導く最強のヴァンパイアであり、誰しもが敬い畏怖する存在だ。そんな偉大な存在になる男が道端で死ぬはずがないだろう」

「へぇ~」


 ディアンの話をありすは興味無さそうに、お粥を食べながら聞いていた。


「それに寿命の面でみてもオレ様がキサマより先に死ぬことはない」

「何でよ」

「ヴァンパイアと人間では生きる年数が違うからな」


 ということはディアンは見た目は二十代前後だが、違うということがあるわけだ。気になったありすは質問した。


「アンタ今何歳なのよ」

「38だ」

「は?!―――ッ」


 衝撃の事実に驚いたありすはおもわずお粥を詰まらせてしまった。


「―――ゲホッゲホッ……ハァ……」

「変なところで驚くヤツだな」


 必死に胸を叩くありすを見て、ディアンは驚いたような呆れたような目でありすを見ていた。

 ありすはディアンがずっと『小娘』と読んでくることが癪にさわっていたし疑問だった。だがその疑問は晴れた。

 ディアンから見れば、ありすはまだまだ子どもだったのだ。


「38ってママと対して変わらないじゃない。38でその見た目と中身って……コワッ!」

「文句でもあるのか。言っておくがヴァンパイアは人間の倍は生きる。オレ様は人間でいうならまだキサマと対して変わらん」


『だとてしも結構問題があるのでは?』とありすは思ったが年齢関係なく一生こんな感じなのだろうと悟り、それ以上口にしなかった。


「とにかく、キサマの生活は今までとは変わらん。ただ……」

「ただ?」

「気がかりなのはヨグドスだな」


 そう言うディアンの表情はどこかうれいがあるようだった。


「あっそうだ。さっきの話しはまぁもういいとして、ガーゴイルとかヨグドス?ってなによ。あの化物のこと知ってるんでしょ」

「あぁ、知っている。なんせヨグドスどもはオレ様のいた世界の生物だからな」

「やっぱり」


 昨日出会った化物どもは異世界の生物。それはありすの予想通りだった。予想通りだったが何故―――


「でもなんでアンタの世界の生き物がこっちにいるのよ」

「さぁな。オレ様みたいに突然こっちの世界に来てしまったと考えるのが妥当だろう」

「てことは他にもいる可能性があるってこと?」

「可能性としてはな」

「どうすんのよ!あんなのアンタ以外倒せないじゃな―――ゴホッゴホッ!」

「いや、おそらくその点については大丈夫……なはずだ」

「なんで?」

「言っただろう。ヨグドスは日の光に弱いと。普通の光では死にはしないが嫌がるからな、街灯のある場所にも寄り付かん」

「あれ?でも」


 ありすが思い返してみると、二回ともガーゴイルは街灯のある場所に現れていた。


「逃げる前にオレ様たちと出会っただけだろ」


 ありすの疑問を感じ取ったのか、ディアンは吐き捨てるように答えた。


「ちなみにだがヨグドスとガーゴイルは一緒だぞ。ガーゴイルのように日に当たると死ぬようなヤツらの総称がヨグドスだ」

「話の流れそれくらいわかるわよ。てか普通にスルーしてたけど、何でこっちの言葉がそっちにあるのよ」

「何のことだ」

「ガーゴイルよガーゴイル。ガーゴイルってこっちの世界の言葉じゃないの?」


 ずっと気になっていた。言葉の通じなかった時からディアンがガーゴイルという名を使っていたことに。


「知るかそんなこと。偶然だろ偶然―――いや」


 何か思うところがあったのか、ディアンは顎に手を当て考え始めた。


「確かにそうだ。ということは……」

「な、何よ一人で話進めないでよ」


 一人納得した様子のディアンは腕を組んだ。


「戻れるかもしれないということだ。そうすれば契約の解除方法もわかるかもしれん」

「ホントに!?」

「だが可能性の話だ。あまり期待はするな」

「えぇ……なにそれ……」


 一瞬テンションが上がったものの、ありすのテンションは直ぐ様落ちてしまった。


「仕方ないだろう。まだ何も手掛かりがないんだ。それよりもキサマはさっさと寝て風邪を治せ。手間が増えるんだよ」

「だから誰のせいだと……」

「そろそろオレ様は行く。食べ終わったらそこに置いておけ」


 そう言いディアンは立ち上がると部屋を出ていった。

 一人残されたありすはお盆を近くの机に置くと布団にくるまった。


「どうなっちゃうんだろうなぁ」


 先のわからない不安を感じながら、ありすは眠りについていった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

BLOOD・My・Heart ~吸血鬼のオレ様、地球とかいう場所に来ちゃったので逆異世界生活頑張るぜ!!~ 霜月 @sougetusimotuki

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ