第5話 俺①

 ジメジメとした籠もった空気に蒸せ返り目を覚ました。ゆっくりと周りを見渡すと、コンビニ弁当のゴミや飲みかけのペットボトル、空の缶ビールで溢れ返る部屋の景色に自分の世界に帰ってきたのだと自覚した。


 夢の中で過去の自分に会いに行くなんて馬鹿げた妄想だろうと思い込んでいたが、まさか本当にできるなんてな。


 大学生の頃入っていたオカルトサークルの教本が今更役に立つとは俄かに信じられないが、好きな女の子の気を引く為の教本代3万円にはどうやら付加価値があったようだ。


 しかし、この荒れ果てた部屋の様子や自分の身なりから考えると、過去の自分を変える事によって未来の自分が変わる事はないという事か……。期待外れというか……予想通りというか……。


 飲みかけのペットボトルに手を伸ばすと一気に飲み干す。


「まずっ! 賞味期限切れてるじゃねーか」


 空になったペットボトルを座ったまま部屋の端にあるゴミ箱へと放り投げた。が、見事に外れる。


「やっぱりダメだなー、俺」


 仕方無しに立ち上がるとペットボトルを拾い、ゴミ箱へと歩み寄る。するとゴミ箱の底に破られた一枚の写真を見つけた。


 記憶に無い事から酔っ払った拍子に自分でやったものだろう。よくある事だ。


 なんとなく破片になった写真をパズルの様にセロハンテープで繋ぎ合わせていく事にした。そこには、桜の木の下でハニカミながら裏ピースでポーズをとる俺と笑顔の千代ちゃんが写っていた。


 不思議な子だった……。



 –−−–−––−–−



 千代ちゃんとは大学の食堂で出会った。彼女は一人できつねうどんをすする俺に「なんで自分いっつもきつねうどんなん?」とキツめの関西弁で喋りかけてきた。俺は女子に話しかけられるなんていう突然の出来事に動揺して「あっ、えっ……きつね、きつね、きつね」と謎のきつね連呼を繰り出してしまった。あまりの恥ずかしさに顔を俯ける俺を見て「なんそれ! 自分変わってるなぁ!」と膝を叩いて笑う千代ちゃん。 


 そんな豪快な笑い方からは想像出来ないクシャッとした笑顔、ツヤのある茶髪のショートカット、小動物の様に小さくて細い手足、その全てが一瞬にして余す事なく俺を魅了したのだった。

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