さよなら風たちの日々 第7章-6 (連載23)
狩野晃翔《かのうこうしょう》
第23話
《そしてもうひとつのピリオド》梗概ー2
翌日の夕方、少女と教師が電車を乗り継いで帰宅すると、少女の家は大騒動になっていました。何と少女の両親は警察に捜索願を出していたのです。
両親の厳しい追及に少女は、教師と二人でツーリングに行ったこと。途中でオートバイが故障したこと。仕方なく林道から歩いて戻って、国道に出たこと。そして疲れ果てて最後は、教師とホテルに泊まったことなどを話します。
でもパパ、ママ。わたしを信じて。
先生とは何もありませんでした。
だって二人とも疲れ果ててしまって、シャワーを浴びて簡単な食事をしたあとは、泥のように眠ってしまったんだから。
少女は泣きながらそれを何度訴えても、、両親は信じてくれようとはしせんでした。
そして捜索願を受けた警察は東京都青少年育成条例違反の疑いで、少女と教師を事情聴取するのでした。
晴れない嫌疑。誰にも分かってもらえない真実。先入観でしか見ようとしない両親、警察、まわりの人々。
少女は思いました。先生に相談したい。先生に会いたい。先生の声が訊きたい。
けれど少女が教師と連絡を取ることは、両親から固く禁じられていました。
今は会えない。でもそれでもいい。だって二学期になればわたしは堂々と先生に会うことができるんだから。これまでのように甘えることができるんだから。
少女はそう自分に言い聞かせて、教師と再会できる二学期を待つのでした。
九月。少女が待ちわびていた九月。
けれど九月になって二学期が始まっても、少女は教師と会うことはできませんでした。
なぜならば教師は一学期限りで、ほかの高校に転任になってしまったからなのです。
どこの高校に転任になったんですか。私立ですか。都立ですか。それとも全く違う、他府県ですか。
少女がほかの教師、学校関係者にそれを訊ねても、誰もが言葉を濁して、ほんとうのことを教えてくれませんでした。
わたしと先生を引き離したのは誰ですか。
パパですか。警察ですか。それとも東京都教育委員会ですか。物事を色メガネでしか見ない、世間の人たちですか。
先生。もう会えないんですか。一緒に部活、できないんですか。ほんとうに転任なんですか。ほんとうはもっと、厳しい処分を受けたんじゃないんですか。たとえば懲戒免職とか、教員免許はく奪とか、あるいは逮捕とか。
少女はぽろぽろと大粒の涙をこぼしながら、教師に手紙を書きました。
先生、ごめんなさい。
そんな書き出しで始まる手紙は、便せんで十枚にもなりました。
音楽室での出会い。クラブ活動。楽しい楽器の練習、指導、演奏。
先生。わたしは先生が作った歌が大好きでした。その歌を一緒に歌うことが、
ほんとうに楽しくて楽しくて仕方なかったんです。
もう会えないんですか。さよならですか。
そんなの嫌です。学校が違ってしまっても、先生はいつまでもわたしの先生なんです。わたしは今でも、これからずうっと、先生の教え子なんです。
少女はその手紙を封筒に入れました。
そうして封筒に宛名を書いてから、少女はあることを思いつきました。
そうだ。この手紙をポストに入れないで、直接手渡ししよう。
そのまま先生の家に行って、直接手渡ししよう。
そうすれば先生に会える。また甘えることができる。そうしていつものように、バカだなあ、と言って、笑顔を見せてもらえる。
そのときわたしは先生の胸で、泣きじゃくるかもしれない。
先生の腕にすがりながら、もう離れないって思うかもしれない。
《この物語 続きます》
さよなら風たちの日々 第7章-6 (連載23) 狩野晃翔《かのうこうしょう》 @akeey7
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