第620話 もう1度 ブリジア視点

「対抗手段が無くなったが…」


今のシャイナの一撃にかけていた。それが不発で終わったのは痛い。

じゃが、今の攻撃で何も得られなかった訳では無い。バハムートの両腕は肘先から無くなり、血も地面に大きな血溜まりができるほど抜けている。確実にバハムートは弱っている。


「ガアッ…」


バハムートは小さくそう鳴くと、地面に膝を付いた。やはり、この巨体とはいえ、血溜まりができるほどの血が抜かれたのはきついようだ。


「うぐっ…」


シャイナがそう言いながら行きと同じように鎖に連れられて帰ってきた。ただ、行きと違うのは鎖を持つ手を右手から左手に変えていることじゃ。それもそのはずで、シャイナの鎌を振った右腕は骨が入っていないかのようにぶらぶらしている。


「さっきほどの威力は無いけど、もう1発打つ。10分待って」


シャイナはそれだけ言うと、再び集中し始めた。


「今度は1人でできるか?」


「ん。悪魔の火で吸収してた残滓が結構残ってるからそれをかき集めるから大丈夫。それに、さっきは威力が高過ぎた」


リュウの問いの答えで分かったが、どうやらシャイナはリュウの炎をどうにかして自分の悪魔の炎に取り込んでいたようじゃ。それを圧縮させて鎌に纏わせていたようじゃな。

また、シャイナの言う通り、バハムートの腕を吹っ飛ばしてもまだ地面に谷を作る程の威力は要らなかった。今の半分の威力でも十分バハムートを倒すことは可能だろう。



「私も時間稼ぎに加わる!」


リュウはそう言いながら向かって来ているバハムートに向かって行った。


「待てよ!お前だけに行かせるか!」


それを見てドレリアも向かって行き、それに連鎖するようにみんなが向かっていった。



「まずい!」


今から弱ったバハムートから10分時間を稼ぐのは正直さっきまでよりも簡単だと思っていた。しかし、その考えはいけなかった。バハムートの戦い方ががらっと変わった。バハムートはある程度の自己犠牲を厭わなくなった。

そんなバハムートのとった行動は自分をも巻き込んで巨大な炎を爆発させた。その結果、最も近くにいたリュウもドレリアがもろにその爆発に巻き込まれた。



「私に対抗するように突っ込んで来て守られてるようじゃ世話ない」


「うるさい!…でもありがとな」


しかし、そのバハムートの火を飲み込む黒く輝く炎が一瞬上がり、そこだけバハムートの炎がやってきていなかった。


「見ての通り、シャイナにこの炎のほとんどを渡しているからこれを何度もできないから」


「何度も助けられるわけじゃないから大丈夫だぜ」


2人はそう会話をして再びバハムートに向かって行った。戦いを通して仲良くなったようで少し安心だ。そして、リュウの助けもあって10分の時間稼ぎは成功した。



「ガア!」


「なっ!」


しかし、シャイナの攻撃準備が完成すると、バハムートは自らシャイナに向かって行った。確かに今はシャイナの攻撃が整ったので、シャイナに向かうのを完全に阻止するわけにもいかない。


「守って!」


シャイナは一言そう言うと、自分もバハムートに向かって行った。


「ガア!」


バハムートはシャイナに半分程しかない両腕で殴りかかった。それを見てもシャイナは避けようとも止まろうともしない。


「させない!」


「させるかよ!」


その攻撃はシャイナの前にやってきたリュウとドレリアが防いだ。


「ガァァァ!!」


今度は口を大きく開いて炎の玉を数発放った。


「ほっ!」

「だあっ!」

「ふっ!」

「やっ!」


しかし、それは私とベクアとウカクと老人で全て斬り、殴り消した。シャイナはその隙にバハムートの身体を登りだした。


「ガ…ギィィヤアッ!?」


そこでバハムートは聞いたことの無い声を発し、初めて逃げようとした。


「返す!」

「行かせない」


しかし、行く手を遮るためにキャリナがバハムートから奪っていた魔法を一気に使い、エリーラが水の塊を高速でぶつけた。それによって逃げようとしていたバハムートの足は止まった。その間にシャイナは胸までやってきた。


「ふっ」


シャイナが左腕を振ると、サクッと簡単に鎌がバハムートの胸元に刺さった。


「弱邪炎神刃」


「ガアッ……」


シャイナがそう言うと、鎌から黒い炎が溢れたのか、バハムートの胸が大きく抉れ、貫通した。


「自分を生み出した力とほとんど同じ力に殺されるってどんな気持ち?………そう」


バハムートの血肉を浴びて真っ赤になったシャイナが何かバハムートに問いかけ終わると、シャイナはバハムートの抉れた身体をちょっと蹴って落下した。そして、蹴られた衝撃でバハムートの身体は仰向きで倒れた。

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