第616話 作戦 ブリジア視点
「まずはバハムートとヒュドラを引き離すのじゃ!」
バハムートは基本的にヒュドラの後ろに陣取っている。とはいえ、バハムートは素早く動き回るので、なかなか引き離すのは難しいだろう。
「木蔓!」
「重力操作!」
「影操作」
そのため、ヒュドラを動かなさければならなかったが、それはエルフの3人がやってくれた。
具体的には1人が地面から生えてきた大きな木でヒュドラを巻き付けて押して、もう1人が重力を横方向に強め、最後の1人が影を操作して無理やり何十mも引き摺るように動かした。
「…気にする様子は無いのじゃな」
1番の懸念点点はバハムートがヒュドラの傍に戻るかどうかじゃった。しかし、バハムートは離れていくヒュドラを横目に見送っただけで追おうという気は無い。
「ガアッ!!!」
バハムートは真正面にいる私達から目を離さずに吠えた。もしかすると、バハムートは戦闘を楽しんでいるのかもしれない。
「まずは妾からじゃ!」
私はそう言うと、バハムートの文字通り目の前に転移した。
「はっ!」
目とはいえ思いっきり振らないと傷を与えられないので、後ろまで振りかぶって太刀を振った。
「ちっ…」
しかし、太刀が当たる前にバハムートが頭を横に振り、頭部にある角が迫ってきた。そのため、透過をしてそれをやり過ごした。
「ほとんど効果無しじゃな…」
妾が時間を稼いでいる間に他の者達は攻撃をしていたようだが、ほん少し血が出るくらいでほとんど効果は無いようじゃ。
「どうするのじゃ?」
妾はもう一度転移でみんなの元まで戻ってそう問いかけた。同じことを何度繰り返そうと勝てる未来は見えない。
「大きな傷さえ作ってくれれば私が血を抜いて殺すわ」
「何じゃと!?」
いくら傷を付けようとすぐに再生されていたので、大ダメージを与えたところで回復される可能性があった。しかし、それはエリーラの力によって防げそうじゃ。
「ただ、どうやってその大きな傷を作るんだって話なんだよ」
ドレリアの言う通り、問題は防御力の高いバハムートにどうやって大きな傷を作るかだ。
「時間があればあれの四肢をぶっ飛ばせるくらいの攻撃はできる」
「何じゃと?」
そう答えたのはシャイナだった。確かにシャイナなら複数の悪魔の能力を使えるから可能かもしれないが、悪魔の同時使用は1人ずつのはずじゃ。
「そのためにはリュウに協力してもらわないと無理だけど」
「ん?」
突然協力を求められたリュウは首を傾げた。それを見たシャイナがリュウに手招きをして耳を近寄らせると、耳打ちで話した。
「…本気で言ってるのか?その力がお前にどんな効果をもたらすか分からないんだぞ?」
「その力は私にダメージを負わせるものじゃない。それに、ベクア、エリーラが怪我しているのに私だけ安全策を取る訳にはいかない」
リュウに詰められたシャイナだったが、堂々とそう答えた。
「覚悟があるならシャイナの心配はしない」
リュウはそう言うと、シャイナから目線を外して妾達を見てきた。
「私達が準備を始めたらバハムートは絶対にそれを止めさせるように私とシャイナを殺そうとする。それをお前達は死ぬ覚悟をして止めないといけない。できるか?」
「な、何でそ…」
リュウの発言ということで、ドレリアが文句を言おうとしたが、腕をドレリアの前に出して止めさせた。
「シャイナとリュウが準備をしている最中は無防備になるじゃろう。そんな時に妾達が我が身恋しさでバハムートを通すと2人は死ぬのじゃ。じゃから2人を守るために妾達にも同じように命をかけろというのは至極真っ当じゃ」
「そうだな…」
ドレリアは妾の話に今度はちゃんと同意した。
その後に妾は全員の顔を順に見て回って覚悟を確かめた。
「分かったのじゃ。妾達はお主らを守るために命を懸けるのじゃ。ただ、エリーラだけはその後に重要な役目を持っているから安全第一にしてほしいのじゃ」
「分かってる」
エリーラには大ダメージを与えた後に血を抜くという役割が残っているため、ここで死んでもらってはならない。
「じゃが、妾達が命を懸けるのじゃから、お主らは何があろうと準備を途中で停めるんじゃないぞ」
「ん」
「ああ」
2人が妾から目を逸らさずそう答えたので、私は2人に背中を向けてバハムートの方を見た。
「待ってくれてありがとうなのじゃ。ただ、待ったことを後悔させるのじゃ!」
妾は余裕からか悠長に作戦会議を悠長に待っていたバハムートに向かって行った。そして、妾に続いてシャイナとリュウを除く皆もバハムートに向かって行った。
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