第613話 失くしたもの シャイナ視点

「ん…?」


「おはよ」


エリーラは寝てから10分程で目を覚ました。


「少し記憶が曖昧だわ。あの魔族はどうなったのかしら?」


「エリーラが湖の水を操って魔族を倒したわ」


「そうだったわね…」


エリーラは額を抑えながら何とか思い出したようにそう答えた。


「こんなのんびりしている場合じゃないわね。早くまだ戦っている女王様達のところへ助けに行かないと」


エリーラは立ち上がりながらそう言った。確かに近くの戦闘音からまだエルフの女王達の戦闘がまだ続いているのが分かる。


「ふふっ…私達は2人でもう魔族を倒したのに女王様達は3人なのにまだなのね。そこを私が助けに行く…良い気分だわ」


「エリーラ、大丈夫?」


不気味に笑っているエリーラに私は心配するような声をかけた。これは別に不気味に笑っていることを心配しているのでは無い。心配しているのはエリーラは魔族を倒した時の弊害が残っているから。


「何よ。そのシャイナらしくない要領を得ない心配は?何を心配しているのかはっきり言いなさいよ」


エルフの女王達にマウントを取る妄想を邪魔されたからか、少し機嫌が悪そうにエリーラはそう言った。心を読んでも早く言いなさいと思っているので、正直にストレートに言うことにした。


「魔法は使える?」


「は?」


エリーラは最初は何を言ってるんだ?みたいなことを思っていたが、試しに魔法を使おうとして表情が変わった。


「……これはいつから?」


「大量の水を操作する途中からだと思う」


エリーラは少し目を見開いて驚きながら私に質問した。戦闘中だったので絶対とは言えないが、多分最後の水を操っていた時の途中からだと思う。

今のエリーラは魔法を使おうとしても魔力が全く動かない。いや、動かせない。


「精霊降臨」


エリーラは私の言葉に返答することなく精霊降臨を行った。


「…なるほどね。魔法が使えなくなったデメリットだけでは無いようね」


エリーラは人差し指をくいっと上げて周りにある大量の水滴を持ち上げてそう言った。この水達はエリーラが作った巨水龍が弾けた残骸だが、こんな細かく大量の水を同時に操作できるほどエリーラは器用ではなかった。恐らく、魔法が使えなくなった代わりに水の操作能力は格段に上がったのだろう。


「これなら問題なく戦えるわ。むしろ強くなったと言ってもいいかもしれないわね。まあ、精霊化が使えなくなったのは痛いけれど、どうせこのレベルの戦いになったら魔力を纏ってステータスを上げるのは当たり前だから関係ないかもしれないわ」


エリーラは魔力を消費して行う精霊化が使えなくなったのにも関わらず、結構あっさりとしている。心を読めるからわかるが、これは強がりでも何でもない。ただ、魔法の代わりに得たものがそれほどまでに強かったのだ。


「少し時間を食ったわね。行きましょうか」


「ん」


私が返事をすると、エリーラは大量の水を持ち上げたままリヴァイアサンと戦っているであろうエルフの女王達の元へ向かった。



「木炎剣!」


「重弾!」


「影狼!」


「シィヤッ!!!」


バシャンッ!!


「水を持ってくる必要は無かったわね」


「ん」


私達がエルフの女王達に元に着くと、そこには私達が魔族と戦った時と同じくらいの大きさの湖があった。そして、その湖の中にいるリヴァイアサンと湖の上に浮かんでいる2人と水面に立っている1人で激しく戦っていた。

エリーラは持ってきた水をそっと捨てた。



「私があの湖の水を退けるわ。だからシャイナはその間に殺っちゃいなさいよ」


「ん。でも水は少し残して置いて」


「何か考えがあるのね。分かったわ」


エリーラはそう言うと、一気に湖の水をほぼ全て持ち上げて横にズラした。あまりにも非常識な光景にエルフの女王達もリヴァイアサンも固まった。そんな中、私だけがリヴァイアサンに向けて飛び出した。


「注文通り」


湖の中には深い所でくるぶし程の水が残っていた。


「ふっ!」


私は走りながらリヴァイアサンに鎌を回転させながら投げた。


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