第612話 本気で戦える喜び ベクア視点
「ふっ…!」
「グギャア!?」
ウカクが尻尾を振ると、巨大な斬撃が飛び出した。それが龍に当たると、その巨体から鮮血が舞った。
「本気で戦える気分はどうだ?」
「国王様には内緒ですが、楽しいですね」
護衛は争い事がないことが1番いい。もちろん、ウカクもそのために下準備などもよくしている。だからこそ、本気で戦える機会はほとんどない。
プライベートではその機会が作れなくはないが、護衛という職は休暇とはいえ緊急事態に備えて親父からあまり離れられない。だから基本的に作るのは無理に近い。
しかも、ウカクは危険事態があっても護衛のトップということで先のように後方で指揮をすることが多い。だから親父から許可も出て、さらに指揮も別に任せられる者が現れたからこそ全力で戦えるのだ。
「円斬り」
「クシャァァ!!」
「えげつないな!」
龍に長い尻尾を巻き付け、それを引くと同時にゼロ距離から斬撃を放つ。まだまだウカクには隠し技が多そうだ。
「俺も負けてらんねぇな!」
俺は左腕を氷で作り出した。関節部分は雪で作ることで通常と同じように動かせる。
「バランスが悪かったんだ!」
「クギャアッ!?」
左腕が無くなったことで左右のバランスが少し狂っていた。それも今戻って俺も絶好調だ。
「ブレスが来ます!注意してください!」
「「!?」」
後ろからキャリナのそんな声が聞こえてきた。護衛達は全員後ろに下がった。
「ウカクも下がっていいぜ」
「いえ、ベクア様が下がりましょう」
しかし、俺とウカクは下がらずに上を向いてブレスを放つ準備をしている龍から離れなかった。その理由は誰かが標的とならないと後方に下がった獣人達にブレスが放たれるからだ。
「ちっ!ハズレか!」
龍はブレスを俺ではなく、ウカクに放った。
「魔斬り」
ウカクは尻尾を振って斬撃を出すと、ブレスが縦に割れた。
「ギャッ!」
さらに、ブレスを斬った斬撃はそのまま突き進み、龍の鼻先に命中した。まあ、あんまり威力は無いみたいだがな。
「ちぇっ…俺の霜も消えたな」
そして、今の炎のブレスの影響で俺の最初に食らわれた霜が落ちた。これからはもっと暴れてくるな。
「グガァァァァ!!!」
龍が鳴くと同時に第2ラウンドが始まった。
「グガァ……」
「もう少しか」
「はい」
あれからどのくらい経ったか。時間にして1時間は経っていないとは思う。そこまで時間が経った訳では無いが、目の前の龍はかつての威風堂々とした姿は無く、飛んでいるのが限界のような姿だ。
「全員下がれ」
「「「はっ!」」」
そんなところで俺はウカク以外の者にここから下がるように命令をした。それは別にいいとこ取りをするためではない。その理由を何となく察していた獣人達は素直に下がった。手負いの魔物は恐ろしいからな。
「何かするみたいだな」
俺の予想通りか、龍が何かを始めた。龍は空中でとぐろをまくように動き始めた。
「2人とも!とぐろの中心で龍の魔力が溜まっています!」
「文字通り最終手段ってわけだな」
キャリナの注意を促す声が聞こえてきた。龍が動いてとぐろの中心からでてきた身体は鱗が剥がれ落ちている。今している何かは自分をも傷付けるほどの威力があるようだ。
「何かされたらここら一体吹き飛ぶぞ」
今の龍を攻撃できればいいのだが、何せ高いところにいるし、万が一攻撃する瞬間に完成されでもしたら身体は木っ端微塵だ。とはいえ、何もしなければ誰かは犠牲になる。
「こういうのはどうでしょう?」
どうするか考えていると、ウカクがある提案をしてきた。
「良いのか?」
「はい」
その提案は特にウカクが危険となるものだった。だが、良い案だと思ったのでそれに乗った。ウカクが提案してきたのにウカクが危険だからと断るのはウカクの覚悟を踏みにじる行為だ。
「ガアッ…」
それから少し経って龍がそう鳴くと、とぐろから炎の玉が落ちてきた。それは龍と比べればかなり小さいが、俺らと同じくらいの大きさなので、俺達からするとかなり大きい。
「ウカク!任せたぜ!闘拳氷弾!」
俺は闘拳氷波の力を1点集中させた闘拳氷弾をその炎の玉にぶち込んだ。
バンッ!
俺の闘拳氷弾と炎の玉がぶつかると、炎の玉が破裂してさらに小さくなった炎の玉が降り注いだ。
「乱斬!」
ウカクは尻尾を何度も大きく振ると、そこから小さい斬撃が無数に空に放たれた。その斬撃は小さい炎と玉とぶつかると、ボンッ!と音を立てて炎の玉を消していた。
「おらっ!」
そして、俺の方に飛んできた炎の玉は俺が殴り消している。どうしてもウカクが撃ち漏らしてしまうのは俺の担当だ。
「うっ…!」
苦しそうなウカクの声が聞こえてきた。ウカクを見ると、撃ち漏らした炎の玉が近くに着弾して爆発し、爆風を食らったようだ。しかし、それでもウカクは尻尾を振るのを止めなかった。
「流石だぜ!ウカク!」
そして、ウカクは龍の奥の手を封じ切った。疲れたように座り込むウカクを横目に俺はもう浮かんでいることが精一杯の龍目掛けて飛び上がった。
「闘拳氷撃!」
そして、直接殴って攻撃力を増す効果だけを求めた闘拳氷波を脳天にぶち込むと、龍は勢いよく墜落した。
「龍を討ち取ったぞ!」
「うおぉぉぉ!!」
そして、空中で俺がそう叫ぶと、獣人達から雄叫びが上がった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます