第611話 休んでられない ベクア視点
「じゃあ、行くぞ」
「はい」
俺らが担当していたベヒモス魔族は殺した。だが、戦いがここで終わった訳では無い。まだ戦闘音はそこら中で聞こえている。大体の音の方角で誰がまだ戦っているのかは分かる。ただ、それは体が大きくて暴れ回ることがよく聞こえてくるSSSランクの魔物に関してだけだ。魔族達の戦闘音は聞こえて来ない。勝ったのか負けたかもまだ分からない。
そのため、俺達が向かうのは魔物と戦っている方だ。
「…ベクア兄様。本当に大丈夫ですか?」
「その確認はもう済んだはずだぜ。そんなん言ったらキャリナも大丈夫か?ストックは無くなっただろ」
俺には左腕が無く、キャリナは借奪したモノも無くなっている。かなり戦力はダウンしているが、まだまだ戦える。
たた、戦力がダウンしているので、足を引っ張る恐れのある魔族との戦闘には混ざりに行かない。
「私は大丈夫ですが、ベクア兄様は腕が…」
「それ以上言うと怒るぞ。ゼロスは敵の親玉と1人で戦ってんだ。俺が魔族を1人倒したくらいでギブアップできるわけねぇだろ!」
ゼロスやソフィアは俺達よりも強い敵と1対1で戦っている。そこに混ざれないのならば、せめて役立てるように命ある限り戦い続けなければならない。
「…はい」
「話は終わりだ。そろそろ見えてくるぞ」
そろそろ俺達の向かっていたところに到着する。木々を抜けると、苛烈な戦闘現場が現れた。
「わぁー!!」
「ぐぅーー!!」
「そこ!前に出過ぎるな!」
「ウカク!状況を説明しろ!」
俺が着いた瞬間に龍に何人かの護衛隊の獣人が尻尾で吹き飛ばされていた。
「ベクア様!魔族はもう殺し…た……の………」
ウカクは俺の声を聞いて少し声を弾ませながらも戦闘からは目を離さずに横目で俺の方を見た。しかし、俺の左腕が無いのに気が付いて、目を見開いて言葉がしりすぼみになった。
「ベクア様…腕は…」
「そんなどうでもいい話は後だ。まだ余裕で戦える。戦況は?」
「…はい。離脱が3分の1ほど。エリクサーのおかげでまだ死者はありません。また、龍のHPは半分を切るかどうかというところです。とはいえ、魔力を温存するような動きが見えるので奥の手に近い何かを隠しているかもしれません」
ウカクのこの切り替え能力は親父も俺も高く評価している。他の護衛ならまだ俺の腕についてうだうだ言っていただろうな。
「キャリナ。聞いていたな?」
「はい」
俺は横にいるキャリナに声をかけた。キャリナは堂々と頷いた。こんな自信満々な姿はゼロス達と会う前では考えられなかったな。
「ウカクに代わり、キャリナが全体の指揮を取れ。もちろん、指揮だけじゃなくて多少は攻撃もしてくれ。そして、ウカクは俺と前に出るぞ」
「畏まりした」
「分かりました」
指揮能力はキャリナよりもウカクの方が高いだろう。しかし、視界の広さはキャリナには遠く及ばない。キャリナの眼なら龍の巨体を含む全ての戦況を見ることができる。その分早く指示が出せるのでそこを考慮するとウカクと遜色はないだろう。
そして、何より大きいのはウカクが本格的に戦闘に混ざれることだ。今の俺やキャリナと比べたらウカクの方が戦力になる。
「お前ら!戦闘を続けながら聞け!俺とキャリナが魔族を殺してここに来た!今から戦闘に合流する。それに伴って指揮者をウカクからキャリナに変更する!俺とウカクを中心として戦闘していくから指揮をよく聞け。それと、俺の片腕が無いが、そんな小さいことは気にするな。片腕が無かろうとお前らよりも強いぜ」
「「「おおおお!!!」」」
俺の声が響くと、戦っている者から傍から聞けば怒声のようにも聞こえるほどの歓声が聞こえた。
「ガァァァ!!」
大きい声を上げたからか、龍が俺とウカクの方に向かって来た。
「俺に任せろ。言葉だけでは伝わらない馬鹿がいるみたいだがら目で教えてやる」
ウカクが獣化をして出てきている尻尾で向かってくる龍に攻撃をしようとしたので止めた。俺のさっきの言葉だけでは足りないようで心配そうに俺を見ている者に見せ付けてやろう。ついでに俺を守るように動いたウカクにも見せてやる。
「闘拳氷波!」
「ギィヤァァァ!!」
ベヒモス魔族ですら行動を鈍らせたあの攻撃が龍の鼻先に当たった。
「流石に巨大過ぎるな」
龍が大き過ぎて全身に霜を降ろすのは無理だった。だが、頭とその少し先までは霜が降りた。
「行くぞ!」
「おおおおぉ!!!」
俺の力に不信感が無くなったのもあり、皆は勢いよく怯んでいる龍に向かって行った。
ちらっと横を向くと、ウカクがペコッと頭を下げてから他の護衛と共に向かっていった。さて、俺も負けずに行くとするか!
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