第610話 仲間の分まで リュウ視点
「あ、立ち方分からないんだったんか。立たせに向かってあげるよ」
私は一向に起き上がろうとしない龍魔族に向かっていった。
「ガアッ!」
私が龍魔族の前に来ると、待っていたのか飛びかかってきた。
「伏せ」
「ドバスっ!」
私は龍魔族の頭をチョップして、再び地面に這いつくばらせた。
「このっ!」
「あれ?私は伏せって言ったよね?」
龍魔族は諦めることなく、再び私の顔を殴ろうと飛びかかって来た。
「何が悪いのかな?悪いのはその耳かな?」
「ガアァァァ!」
すっと下がることでそれを避けると、私は鱗で覆われた尖った右耳に指を突き刺した。
「どうしたの?脳まで貫通させたわけじゃないでしょ?」
「俺の耳が……」
私は鼓膜は突き破ったが、それ以上は指を入れていない。だから別に耳を押えて膝を付く必要は無いと思うんだけど。ゼロスならそんなの気にせず向かってくるはずだ。まあ、ゼロスの反射神経なら今のはそもそも当たらないけど。
「もういいぜ。お前を格下ではなく敵と認めてやる」
「遅いな」
あんなに遊ばれていたのに片耳を潰されるまでまだ私を格下だと見下していたのか。
「ガアアアア!!」
龍魔族がそう叫ぶと、身体中に青い炎を纏った。
「この姿を見て生きていた者は居ないぜ」
「自分より格上って思ってるのには見せたことがないだけじゃない?」
今の発言的にはイムに見せていないということなのだろうし、私の言っていることは違くは無いだろう。
「ふんっ。言ってろ!」
龍魔族は私の言葉をそう吐き捨てると向かってきた。今のモードにかなりの自信があるのか、もう挑発には応じないようだ。
「はあっ!」
龍魔族のスピードはさっきよりもかなり速くなり、前のようにおちょくることは無理だ。私は龍魔族から繰り出された拳を手の平で受け止めた。
「っ!」
しかし、その受け止めた手の平はすぐに離れさせた。
「おいおい。どうしたんだ?」
龍魔族はその様子をニヤニヤ見ながらそう言ってきた。
「少し熱くてびっくりしただけ」
実際にびっくりしたのは本当だ。青い炎が今の私の手の平を火傷させるほど温度が高いとは思わなかった。
「だったらびっくりしないようにいっぱい食らってくれよ!」
龍魔族はそう言いながら繰り返し攻撃してきた。私はそれをできるだけ触れないように避けていった。
「ふふふっ……」
「ん…?」
私が声を漏らしながら笑ってるのを見て不気味そうな顔をした。
「もしかして、これが奥の手?」
私は退屈そうにそう言った。これが奥の手だとしたらあまりにもだ。
「ふっ…お前が油断してくれたから準備が終わったぜ!奥の手はこれだ!」
龍魔族は鼻で笑うと、青い炎を右拳だけに圧縮して纏わせた。
「青炎拳!」
龍魔族は正拳突きのように右拳を突き出すと、巨大な青い炎の玉が放たれた。
「はっ…!」
避けようと思えば避けられなくは無い。だが、龍魔族に絶望を与えるためにわざと食らうことにした。
「ギャハハッ!当たりやがった!油断してるからだぜ!ざまあー見ろ!ギャハハ…」
「何か面白いことでもあったか?」
「っ………」
青い炎に包まれた私が声をかけたことで、龍魔族は笑い声を途中で止めた。
「な、何で俺の青炎拳を食らって平然としてやがる…?」
「あ、これのこと?」
私はそう言いながら青い炎を自分の纏っている黒炎で焼き尽くした。青い炎がなくなり、私の姿が再び見えるようになった。
「な、何だよ!それ……何でお前がそれを…その闇を使えてるんだ…」
「何ででしょうね」
「あ、ああああ!!!」
龍魔族は絶望したような顔をしながら不格好に走って私から逃げていった。
「えっと…黒炎拳?」
私は特に拳に黒炎を集中させることはなく、龍魔族のように正拳突きを行って黒炎の玉を放った。その玉は本当に拳ほどのサイズしかなく、龍魔族の青炎拳と比べたら弱く見える。
「ガアアッ!?!」
しかし、威力と速さは比べ物にならず、逃げていた龍魔族に当たると、一気に青い炎を覆い尽くして全身を燃やしていった。
「熱い熱い熱い!!ギィギャアーー!!」
「その黒炎はゆっくり身体を燃やしていく。お前が殺した私の仲間のことに懺悔しながらゆっくり死になさい」
この黒炎は消えることは無い。また、高温にも関わらずその身体をゆっくり焦がしていく。しかも、身体の表面を中心にできるだけ苦しませるようにだ。だから死にたくてもなかなか死ねない。
「ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!俺が悪かったから助けてくれ!!俺も同じ魔族だ!しかも龍だ!だから助けてください!!」
「い・や・だ」
私は龍魔族の懺悔する声と断末魔のような悲鳴と助けを呼ぶ声と文句を聞きながら徐々に死に向かっている龍魔族をただ眺めていた。
「あ、死んだ」
そして、数十分後龍魔族は死んだ。なまじ再生能力があるのでなかなか死ねなかったようだ。
「悪は死ぬ運命なのよ」
魔族は悪なのだ。その悪の中でも同族を虐殺して楽しんでいた極悪人の運命は悲惨なものだろう。
それは誰一人例外はなく、私も同じこと。
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