第609話 本能で リュウ視点

「来たのはお前か…」


私が龍魔族の元へ着くと、私を見て残念そうに文句を言ってきた。


「あのさ、間違えてきたとかなら他のところに行って変わってもらえば?」


「私はお前がいると分かっていてここに来た」


私がそう返答すると、龍魔族は大きなため息をついてから頭をがしがしと搔いてから言った。


「あのさ、お前は竜の魔族だろ?それで、俺は龍の魔族なんだぞ?格が違うんだよ、格が。何でそれで勝てると思ってるんだ?」


龍魔族は私のことを見下しているかのようにそう言った。いや、かなり見下しているのだろう。


「お前は3対1でも逃げられたのを忘れたのか?」


「あ?あれは殺すなって指示が出てたから本気を出せなかったんだ」


確かにそれはあるだろう。現にあの時に殺す気で来られていたら私は今ここには立っていないだろう。


「くくくっ…」


「何がおかしいんだ?」


しかし、私はつい笑ってしまった。笑った理由を聞かれたので、素直に答えるとしよう。


「いや、お前は周りに自分よりも強いと思っている奴がいたら静かなのに、格下しか居ないとなるとよく喋るんだな。龍の魔族ともあろう者がこうもビビりの小心者だと考えるも笑いが止まらなくってな」


「殺す!」


龍魔族は縦に割れた目を血走らせて勢いよく向かってきた。

かなり煽ってしまったが、しょうがないことだ。私も魔族なのだ。しかも、ここには私とこいつしか居ない。何も隠す必要が無い。いや…もう誰1人同胞が居ない以上、何かやらかしてもただ私が死ぬだけだ。もういつどこでも何かを隠す必要も押さえ付ける必要も無い。魔王である私が皆のお手本な行動をする必要は無くなったのだ。


「死ぶふへっ!」


私を殴ろうとしてきた龍魔族を私は蹴り飛ばした。


「来いよ。お前達が殺した仲間の分まで遊んでやる。ついでにお前の言う格の違いってやつを教えてやるよ。産まれたばかりのガキが」


「くっ…!」


私が仁王立ちで挑発するようにそう言うと、龍魔族は再び向かってきた。


すっ…


「っ!」


私がさっきと同じように足を上げると、蹴りを警戒して走りながら顔の前で腕を構えた。


「ほいっ」


「あがっ…!」


私は上げた足を下げて龍魔族の足を引っ掛けた。目を自分の腕で無くしていた龍魔族は気付けるはずもなく、足をかけられて簡単に転がった。


「石でもあったか?まずは歩き方から練習したらどうだ?教えてやるぞ?」


「てめぇ!」


今度は殴ってきたので、それを横に動くことで避けて、ついでに龍魔族の足を踏んで背中を軽く押した。


「あわっ…!」


龍魔族は前のめりに倒れていった。その道中でしっかり私を見ているので、手を付いてすぐに起き上がる気だろう。だから私は踏んでいた足を蹴り上げた。


「がはすっ…」


龍魔族は足が上げられた影響で急に倒れるスピードが早まった。その結果、手を付くのが間に合わず、顔面が地面にぶつかった。まあ、ダメージは無いだろうな。


「いや、ごめんな。私はお前のことを過大評価していたようだ。歩き方の前に立ち方の練習をした方がいいな。しかし、立ち方など生まれた瞬間からできていたようなものだから教えられるかどうか…。

あっ!こういうのはどうだ?幼児と混ざって一緒に練習するってのは。自分よりも早くから立ち方を練習している先輩達も居るぞ」


「くそがっ!」


龍魔族は怒りながらも恥をかかないためか、色々なことを経過しながら慎重に殴ってきた。だから私はそれを手の平で受け止め、普通に腹を殴った。


「ごはっ…!」


龍魔族は腹を押えて膝をついた。


「どうした?何か落ちてたか?よだれを垂らしているが、落ちてるものを食べたらダメだからな?」


私は膝を付いて俯いている龍魔族を上から見下ろしながらそう聞いた。


「な、何で…竜のくせにそんな強いんだ」


「はあ…」


私はため息を吐きながら龍魔族を蹴り飛ばした。


「私が1番聞きたいわよ。何でスライムの癖にそこまで強いんだってね」


長く生き残れば生き残るほど強くなるのは分かる。しかし、スライムの魔族があそこまで強く賢くなるのは分からない。


「加減したから生きてるはずだよ。早く立ち上がってもっといたぶらせろ」


やはり、私も魔族である以上、魔族本来の本能である残虐性に従って戦った方が強いな。

まあ、産まれたばかりとはいえ、自分の上位種にここまで遊んでいられる理由は他にもあるけど。

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