第607話 役割交代 エリーラ視点

「…よく見つけたわよね」


シャイナはゼロスがイムについて行くと言ってからステータスをより上げられたり、対魔族で良い能力を持った悪魔を急ピッチで探していた。その結果の1つが今の風の能力の悪魔だ。火の能力の悪魔はパワーが高いが、その火で傷を作ると同時に傷口を焼いてしまうため、血が垂れない。だからより切断力を増し、傷が残って血がより垂れるように風を纏わせる能力の悪魔を見つけたのだ。



「問題は思っていたよりもリヴァイアサン魔族のステータスが高かった」


シャイナはリヴァイアサン魔族にあれからまだ傷を付けられていない。馬鹿でも高ランクの魔族だからか、頑なにシャイナの風を纏わせた攻撃を回避し続けている。掠るだけではまともに血が出るほどの傷にならないからそうされるとかなりきついだろう。

こうなったら私も手助けした方がいいかもしれないわね。


ジャンっ!


何てことを考えていると、シャイナが意味もなく鎌の持ち手の先に付いている鎖を地面に叩き付けた。もちろん、苛烈な戦闘中だから私の方に目線を向けることはしないが、何が言いたいかはわかった。

要するに、邪魔をするなと言いたいのだろう。まあ、今のシャイナは1人のみの心を読む真剣モードだから私が自己満足の手助けをするとかえって戦いにくくなるわね。

だから私はシャイナと魔族の戦いを傍観し、傷が出来たらすぐに血を抜けるように準備をしていた。


シャイナと魔族の戦いの様子に夢中になり過ぎていたのだろう。私はあることを見逃していた。



「っ!!シャイナ!すぐに私を見て!」


「っ!」


シャイナは俯瞰の目で私の姿を確認して心を読んだのだろう。急いで魔族の後ろに回るような動きを取った。しかし、それでは遅かった。


「ビヒュフハッ!」


魔族は気持ち悪い声で笑った。その理由は魔族の足が湖に入ったからだ。これをシャイナが前もって対処できなかったのは魔族の頭の中では湖のことが抜けていたいたからだろう。魔族は馬鹿だったお掛けで逆に助かるなんてやるせない。

そして、この件を魔族と戦っていたシャイナを責めるのは有り得ない。これは完全に傍から見ていた私が気付かなかったせいなので、私のミスだ。


「シャアッ!」


魔族が足元の湖の水をすくってシャイナにかけた。その行動自体は子供の川遊びでもよく行われる行為だが、リヴァイアサンの魔族であろう者が行うとその意味合いは大きく変わってくる。



「うっ…」


シャイナから小さい声が漏れた。魔族がすくった水の一滴一滴が針のようになって高速でシャイナに向かってきたからだ。その魔族ですらどこに当たるか理解できないランダムで放たれた水の針をシャイナが完全に防げる訳もなく、半数ほど体に当たった。さすがに高速の小さな水をシャイナに当たるまでの数秒で操るのは私にも無理だ。



「シャイナ下がって!」


「……ん」


私が大きな声でそう言うと、シャイナは渋々といった感じで私の元まで戻ってきた。


「ごめん」


「これは完全に私のミス。シャイナが気に病む必要わよ」


シャイナが珍しく落ち込んだ様子でそう言ってきた。しかし、この件に関してはシャイナの落ち度は全くない。



「それでどうする?」


「……」


シャイナにそう言われて少し考えてた。水という利点を思い出した魔族はもうあの場から動こうとしないだろう。現にもう胸元まで水に浸かっている。

だからといって遠くから見ているだけなら湖の水も使って攻撃してくるだろう。そうなると、大量に水が魔族の元にある以上、不利になるのは私達だ。

また、魔族を放置して私達がどこかに行くと、魔族はゼロスや他の者達の元に行ってしまって邪魔になってしまう。


「役割を少し変えるわ」


私は湖の方に歩き出しながら続きを言った。


「私がさっきのシャイナのように魔族と戦うわ。シャイナは魔族の隙を見つけたら身体のどこでもいいから魔族に傷を付けて。その際にはついでに私を鎖か何かで巻き付けて魔族から遠ざけてくれるとベストね。それと、私と魔族の戦いに横槍を入れてくれるのは大歓迎だけど、それは私の邪魔にならないようにしてほしいわ」


「わかった」


私が油断していたせいで魔族が湖に戻ってしまうという失敗を、私は自分自身で取り返すために湖に足をつけた。

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