第605話 選手交代 ベクア視点

「借りますね」


「おう」


俺が返事をすると、氷雪鎧が消えた。少し前まではちぎれた腕の止血のために必要だったが、エリクサーで傷が塞がって戦いをキャリナに任せた今は必要ないな。


「行ってきます」


「行ってこい」


キャリナはそう言うと、闇陰鎧と氷雪鎧を纏ってベヒモス魔族へ向かって行った。元々は氷雪鎧などの少し特有のスキルは借奪眼では手に入れられなかったが、スキルレベルを上げることで手に入れられるようになった。


「しっ!」


「ガァ!」


キャリナの鉤爪はベヒモス魔族の左腕に防がれた。しかし、キャリナの攻撃はそれだけではなく、そこから繰り返すように攻撃を繰り返した。



「火力が足りねぇな」


キャリナは何度も攻撃を繰り返しているが、如何せん攻撃力が足りていなく、効いているとは言えない。


「だが、何度も攻撃が当たるものか?」


俺でも攻撃をここまで連続で当て続けることは無理だった。今のキャリナの素早さは俺よりも低いはずだ。ベヒモス魔族からの攻撃が当たらないことはキャリナの能力を考えればできる気がするが、攻撃を当て続けるのは無理な気がする。



「ああ、なるほど。ベヒモス魔族が遅くなったのか」


よく見ると、ベヒモス魔族の全身に霜が降りていた。どうやら俺の最後の闘拳氷波は直接ダメージを与える技ではなく、相手を薄く凍らせることで動きを鈍くする効果のようだな。


「火炎ダブルエンチャント!」


キャリナがそう言うと、キャリナの周りに濃い赤色のオーラがまとわりついた。


「次を使ったか」


キャリナの獣化状態の尻尾は3つある。つまり、借奪眼で手に入れたスキルを眼の分と尻尾の分を合わせて4つストックできるのだ。


「しかし、良かったのか?」


キャリナに借奪されているスキルは使えない。つまり、ソフィアは火魔法の進化系である火炎魔法もエンチャントとダブルエンチャントも使えないのだ。

まあ、本人が良いと言って借奪させたんだから良いはずだ。そして、ダブルエンチャントで攻撃力を上げたことでベヒモス魔族に攻撃が効くようになった。


「あ…当たらなブヘッ!」


自分の攻撃が全く当たらずに一方的に攻撃され続けているベヒモス魔族は何か叫ぼうとしたが、殴られて止まった。

キャリナはずっと接近してベヒモス魔族を攻撃しているのに未だにベヒモス魔族からの攻撃を掠ってもいない。


「予測眼…条件が整うと最強に近いよな」


キャリナのオッドアイの1つは借奪眼だった。そして、もう1つは予測眼だったのだ。俺の予想通りキャリナは2つの魔眼を持っていたのだ。


その予測眼の効果は相手の行動を観察することでその相手の行動を予測することができるというものだ。それがキャリナの契約している猫魈の力で強化され、大体の相手の行動パターンを予測できれば少し先の未来予知にも近いことができるようになった。


これはシャイナの心眼の応用と似ているが、少し違う。例えば、心眼ではゼロスのような何も考えていない反射的な行動を前もって知ることはできないが、キャリナの予測眼でならそのような反射的な行動をも予知することができる。逆に、予測眼では少し先のことしか分からないため、心眼で分かる先の計画や作戦などは分からない。どちらもそれぞれで違う長所と短所が存在する。


そして、予測眼の最大の長所は自分と戦った時にどうなるのかを前もって予測できることだ。最初から勝てれれば良かったのだが、そうでは無かったからキャリナはその時がくるのを待っていた。そして、俺が闘拳氷波を当ててベヒモス魔族の動きが鈍くなったことで、キャリナは勝てるようになったから俺と変わったのだ。



「ガ…ガアァァァ!!」


ベヒモス魔族はこのままではまずいと思ったか、口を大きく開いて口に溜めた魔力で光線のようなものを放ってきた。予測眼はこういう隠された手を出されることに弱い。予測眼では見たことしか予測できないからだ。


「ふっ!」


しかし、この光線は前に戦ったベヒモスで見た事のなるものだった。キャリナはこれまたスキルレベルを上げることで借奪できるようになった俺の魔力殴で魔法を殴り消した。魔力を込められたものを殴り消せる魔力殴を借奪していたから俺はベヒモス魔族の腕の延長のような魔力の塊を消せなかったのだ。


「終わりです」


「こはっ…!」


口を大きく開いていたベヒモス魔族の口の中から鉤爪を貫通させた。



「惜しかったな」


「もう少しで私は完勝でした」


キャリナの突き刺した鉤爪が付いている右拳は酷い火傷になっていた。どうやら鉤爪に氷と闇を集中させたようだ。また、ベヒモスの時よりも口が小さくなり、凝縮された光線は魔力殴では完全に殴り消せなかったんだな。やはり、予測眼は不測の事態に弱いな。まあ、俺のように腕が消し飛んでいないだけマシだろう。

また、警戒していたバリアと回復は使わせずに勝つことができてよかった。まあ、ベヒモス魔族が低レベルで使えなかっただけかもしれないけどな。


「俺達は勝ったぜ」


俺はキャリナに自分の分のエリクサーを投げて、右腕を上に伸ばしてこの場には居ない親友に勝利を報告した。

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