第603話 戦闘開始 ベクア視点

「キャリナ!殺るぞ!」


「うん!」


俺は移動した先で待ち構えていた魔族を見ながら後ろに居るキャリナを鼓舞した。


「…お前達もパパの仇だな!」


「パパ?あー、あのベヒモスか。確かに殺った時の時間稼ぎには俺も協力したぜ」


俺がそう言うと、ベヒモス魔族はドンッ!と力強く地面を踏んで勢いよく突進してきた。


「せいっ!」


俺はその突進を横に躱しながら、ベヒモス魔族の脇腹に拳を突き刺した。


「びくともしねぇな!」


既に獣化と氷雪鎧と魔力纏はやっているが、それでも今のはほぼノーダメージのようだ。



「悔しいが仕方ねぇか。あくまで俺はサポートで、メインはキャリナだからな」


未だに俺から注目を話さないベヒモス魔族には聞こえない声でそう言った。正直、ここまで効かないとは思わなかったが、肉弾戦でベヒモス魔族と対等に戦おうとしている訳では無い。俺のすべきなのはキャリナが本領発揮するためにできるだけダメージを与え、時間稼ぐことだ。



「おら!どうした!当たってないぜ!」


「ブモオッ!!」


再び突進してきたベヒモス魔族に俺は立ち向かった。



「ブモ……」


「ちっ…落ち着きやがった」


ベヒモス魔族の頭に血が上っている間は突進程度しかしてこなかったから楽に対処できた。だが、何度やっても当たらないからか頭を冷やしたようだ。まだ10分程度しか時間を稼げていない。ここからは油断できないな。


「ブモオッ!」


「同じか?」


しかし、ベヒモス魔族は再び突進してきた。俺はそれを警戒して少し早めに避けた。すると、方向転換して避けた俺の方に向かってきた。その程度は予測していた俺はそれも避けるために再び回避行動を取った。


「っ!」


ベヒモス魔族が腕を横に伸ばしたが、その腕は俺には届かないはずだ。しかし、嫌な予感がずっとする。俺はその予感を信じて、両腕に高密度の氷を纏わせて顔の前でクロスした。ベヒモス魔族が横に来た時に両腕に硬いものがぶつかる衝撃と共に俺は勢いよく吹っ飛んだ。



「ちっ…!魔力でも纏ったか!」


魔力を感知できない俺には分からないが、今のは無属性魔法などのような魔力の塊をぶつけられた時の感触に近かった。


「…今ので全て割られるか」


痺れた腕を見ると、今の一撃だけで纏わせた氷が全て砕かれていた。氷が無かったら砕かれるのは俺の骨になるだろう。


「連撃を食らったら即終了ってか…」


1発で氷が砕かれ、2発で骨が砕かれ、3発で肉体が弾け飛ぶか?


「へっ…!」


連続を食らわないように今までのように逃げ続ければいいのだが、ベヒモス魔族がじーっと見ているだけのキャリナを警戒し始めた。

俺は自分の安全のために妹を危険に晒して逃げるような兄では無い。


「行くぜベヒモス魔族!」


俺は初めて自ら向かって行った。



「らあっ!」


「…軽い!」


俺が勢いをつけて殴っても、ベヒモス魔族は1歩後ろに下がるだけだった。これは完全にベヒモス魔族のステータスは俺の上位互換のようだな。


「1発で終わりと誰が言った!」


「うっ…」


俺はそのまま回転してベヒモス魔族の顎を蹴り上げた。ステータスでは負けを認めるが、スキルつまり技では俺はゼロスにだって負けているとは思っていない!

今の顎への攻撃はクリーンヒットしたようで、一瞬ベヒモス魔族はふらついた。


「だららららららっ!!!」


俺は畳み掛けるように拳をベヒモス魔族に浴びせた。


「…痛いぞぶっ!」


だが、正気に戻ったであろうベヒモス魔族に両腕を掴まれた。俺はそれを支えにして飛び上がってベヒモス魔族の顎を膝で蹴り上げた。喋っていた途中だったからか、舌を噛んだようで口から血が垂れている。


「ふんっ!」


「かっは……」


しかし、ベヒモス魔族はすぐに俺の体を持ち上げてから地面に叩き付けた。雪で背中は防いだが、衝撃は完全には殺せず、一瞬呼吸ができなかった。


「ぬんっ!」


「ぬおっ…!!!」


そこ呼吸が止まった隙をついて、ベヒモス魔族は俺を踏もうと足を振り下ろしてきた。俺はそれを氷でガードしながら潰されないように抑えた。


「ぐぬぬ…!」


力で負けているため、このままでは潰れるのは時間の問題だ。だから俺はここで決断をした。


「左腕はくれてやるぜ!」


俺は身体を横に向けて、左腕を下にすることで胸を潰されることは回避した。しかし、その代わり左腕は潰された。


「ぐがっ…!」


「ふっ…」


さすがに片腕が潰されるのは結構痛いな。しかし、今はそれどころでは無い。ベヒモス魔族は反対の足で再び俺を踏み潰そうとしている。次は片腕でしかベヒモス魔族の足を受け止められないので、すぐに潰れてしまう。さすがに残った右腕も犠牲にするわけにもいかない。


「があああっ!!」


俺はベヒモス魔族に踏まれたまま動かない左腕を自ら力強くで引きちぎりながら飛び上がった。

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