第600話 時間稼ぎの行方

「ダアッ!」


「くっ…!」


ムートと戦い続けて2日目の夕方になり始めた。そこでとうとう俺が押され始めてきた。その理由はムートの近接戦のスキルレベルが俺との戦いで上がっているからだ。


(どうする?)


俺にも強くなる方法を2つ残している。何か某戦闘力53万の宇宙の帝王みたいで少しかっこいいな。

そんなことは置いておいて、急激に強くなってパワーバランスが俺に傾いてもあえて接戦を演じる演技力は俺にはない。だからといって俺が優勢なのに隙を見逃すのも不自然だ。本当にずっと見ているイムが邪魔過ぎる。


「そろそろ眠くならないのか?」


「全くだ!こんな楽しい時間は生まれて初めてだぜ!」


というか、不眠不休の称号を持っていないだろうに良くここまで眠気を出さずに動けるものだ。


(あ、そうか!)


称号の話をしたことで俺に名案が生まれた。その1つを細分化することで急激に強くならないが、確実に強くなる方法を思いついたのだ。


(称号を不眠不休を残しつつ、未セットからセットに戦闘用に1つだけ移動)


俺は心の中でこう唱えて称号を入れ替えた。天使化をすることで称号を何個か獲得した。それを全て入れ替えるのではなく、1つずつ入れ替えることで強さを調整するのだ。


(まだか…ならもう1回)


しかし、これをやってもまだ俺が押されていた。あまり強い戦闘用な称号ではなかったのだろうか。ならばともう一度同じことを行った。


「はっ!」


「かっは…!」


ステータスが少し増してたのか、俺の剣がムートの腹に当たった。ここで初めてムートは俺を目の前にして膝を地面についた。これには周りで見ていたイムも少し驚いていた。


「ふっ!」


「ぐぶっ…!」


俺のちょうど蹴りやすい位置に移動したムートの顔面を蹴った。ムートは転がりながら吹っ飛んだ。

俺は追撃をするというていでムートの方に向かいながら、ムートの腹を見た。


(斬れてる…)


ムートの腹はパックリと斬れていた。今までは硬い鱗を数枚程度しか斬れていなかった。もしかすると、最初の称号は剣の斬れ味を増加させる効果だったのだろうか?だからステータス面ではあまり強化されたと感じなかったのか。


「相変わらず、再生能力が高いな!」


「頑丈が取り柄なんだぜ!」


ムートは近付いた俺が振った剣を腹を手で押さえながら飛び退いて避けた。そして、飛び退いた先で手を離すと、内臓が漏れ出そうなほど深い傷が塞がり、今では横線の傷跡しか見えなくなっていた。


(本気で殺すとしたら一気に攻撃するしかないな)


こんな1分程でここまで回復するのなら、殺すとしたら攻撃の手を止めずにやるしかないだろう。それか、この高い防御力のムートを一撃で殺すかだ。後者は現実的では無いな。


「行くぜ!」


「ああ」


そして、またムートは向かって来た。今までよりも剣を警戒するので、俺がやや優勢となり、戦いやすくなった。




(…こいつを誰が倒すんだ?)


俺がそんな疑問を浮かべたのはムートと戦い始めて3日目の朝だ。もうムートは俺が称号を入れ替えないといけないのではと思うほど強くなっていた。

リュウが手も足も出なかった俺と戦い始めた時のムートは、俺との戦いを通してかなりパワーアップしている。


(ここでこいつを殺ってイムも殺るしかないか…)


みんなが来てくれる前にムートを殺るしか無いかもしれない。そもそも俺が急激なパワーアップで不意をついてイムに攻撃することは可能なのか?


「おい!どうした!注意散漫だぞ!」


「ちっ…!」


なんて余計なことを考えていたらムートの拳が顔面に迫ってきていた。俺はそれを慌てて首を傾けて躱して、転がってムートから逃げた。


『お兄ちゃん!まだ元気そうですが、ところどころHPが減っているので、ずっと戦闘してますか?』


(ソフィ!?)


そんなタイミングで俺の頭の中にソフィの声が響いてきた。


『お兄ちゃんのソフィです。貞操が無事そうで安心しました。準備整いましたので、全員で転移したいと思います』


(ありがとう!)


気になる単語があったが、それよりも来てくれるということにかなり感謝した。


(不眠不休を残して称号を戦闘に最適化)


俺がそう唱えると、天使化の光が更に輝き出し、そして輝く範囲も増えた。それに伴って強化も大きくなった。


「はっ!」


これならソフィ達が来る前にムートに大ダメージを与えられる!と思ってムートに剣を振った。


「それはダメだよ」


「うっ…!」


しかし、その剣が届く前に横に転移してきたイムが殴ってきた。俺はそれをもう1本の剣でガードしたが、イムの拳がかなり重く10m以上吹っ飛んだ。

結果的には急激にパワーアップしてムートを殺そうとしなくて良かったな。


「本当の計画には不要だけど、ムートは駒としては過去最高に優秀だから取っておき……」


そこまで言うとイムは言葉を止めた。そして、すごく不機嫌な顔でこう言った。


「時間稼ぎが目的だったんだね。さすがダーリン気付かなったよ。だったらムートに本気を出さしてさっさと終わらせるべきだったよ。いや、僕が最初からやればよかったかな?はあ…こうもしてやられるとは思わなかったよ。魔族と魔物共、ここに戻って来い」


イムがそう言い終えた瞬間に俺の後ろにソフィ達が転移してきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る