第598話 天使化

(あとはタイミングだ)


できるだけイム以外の魔族全員に霹靂神を食らわせたい。本当はイムにも食らわせたいが、そこまで欲張るとイムに何らかの行動を起こされる危険性がある。そのせいで4人の魔族に当てられなくなったら本末転倒だ。


(気付かれないように…)


俺は追い込まれているという感じを装って3人を集合させるように動き出した。

そのうち3人に囲まれるような形になった。


「サンダーバースト!」


霹靂神が完成したことで簡単な魔法を使う余裕も生まれた。しかし、その程度の魔法なら大したダメージにはならないと、魔族達は構わず向かって来ている。


「グアァァッ!」


「しまっ…!」


下からベヒモス魔族が現れ、俺を羽交い締めにするようにしがみついた。その瞬間に残りの3人の魔族は俺を戦闘不能にさせようと全速力で近付いてきた。俺はこれを待っていた。


「霹靂神!」


完成した霹靂神に神雷を纏わせて俺を中心に放った。俺から何十メートルかは雷に包まれた。

だが、霹靂神1発ではベヒモスですら倒せなかったのだからSSSランク帯の魔族は倒せないだろう。そして、もう1発は警戒して食らってくれないだろう。だからここで決めるしかない。


「天使化」


俺はこのスキルを初めて使用することができた。頭の中で称号獲得のアナウンスが聞こえてくるが、今はそれどころでは無い。天使化を行った瞬間にユグ、ダーキ、ブロスの気配が消えたのだ。というよりも気配が一緒になった。しかし、それも今気にしている余裕は無い。今のうちに殺ることをやらないと。


「しっ…」


それぞれの王達の気配は消えたが、身体は今までで感じたことがないくらいに軽い。また、今まで以上に体から力が溢れてくるような感覚がある。今なら確実に殺れる。


「しっ…!」


俺は殺すならこいつだと決めていた魔族に向かって駆け出した。神雷纏の中では例え高ランクの魔族であろうと耐えるのに忙しく周りを気にする余裕は無さそうで、その魔族は俺から逃げることは無かった。


「まっ…」


「はっ!」


そして、俺が目の前に来てやっと自身の危機に気が付いたその魔族に2本の剣を振り下ろし、魔族を縦に3等分した。


「ふっ!」


すぐにアナウンスが聞こえなかったので、まだ生きていると判断して、まだ倒れていない魔族に横から剣を振って胴体も3等分した。

すると、アナウンスが聞こえてきたが、あまりちゃんとは聞かなかった。その理由は霹靂神が終わったからだ。



「「「ヒュド!」」」


魔族達はバラバラにされたヒュドラ魔族を見てそう声を上げた。ヒュドラ魔族の名前はヒュドだったのか。

ちなみに、ヒュドラ魔族を1番優先的に倒した理由は俺以外の誰かが戦うとしても1番厄介であろうからだ。ソフィが味方を連れてきてくれた時はここ居る魔族は誰かが相手をすることになる。その時に毒を使うヒュドラ魔族は前もって殺して起きたかったのだ。



「キュオーーン!!」


ヒュドラ魔族の死が分かったのか、俺達の周りを陣取っていたヒュドラ魔族が鳴いた。だが、周りには魔族達がいるので毒を吐く気は無いようだ。


「凄いよ!ダーリンが天使になれるとは思ってなかったよ!」


俺が怒りに震える3人の魔族とヒュドラを警戒していると、俺から5歩ほど離れたところにイムが転移してきてそう言った。ちゃっかり俺の範囲外に転移してきたな。

目線を動かしたことで自分の姿が改めて見ると、エンチェントの光とは別に俺の周りが白く輝いていた。しかし、白い翼が生えるとかはないな。


「ダーリンが天使なら僕の計画も少し変更になるかな?あっ!もちろん、良い意味でだよ?だからそこは心配しなくていいよ」


むしろ悪い意味で変更してくれた方が俺的には嬉しいんだがな。


「うーん…。さっきまでは魔族共に戦わせてダーリンの今の強さを把握したかったんだけど、さすがに今の状態じゃあそこの奴らには荷が重いよな…。とはいえ、僕じゃあ今のダーリンをちゃんと手加減して気絶させるのは難しいんだよな…。こんなことなら強さだけじゃなくて手加減できる弱さも特訓しとけばよかった…」


イムが1人でボソボソ何か言っている。何を言っているかまでは聞き取れないが、どうせまともなことは言っていないだろ。


「っ!」


今なら油断しているイムを殺れるかもしれないと考えていたが、その考えはこちらに高速で俺の方へ向かってくる者に気付くと中断された。


「オッラ!」


「はっ!」


「あっ!ちょうど良かった!」


その者は勢いそのまま俺に殴りかかってきた。俺は返り討ちにしてやるつもりで剣を振った。天使化に少し慣れたのか、感覚的にはヒュドラ魔族をバラバラにしたよりも力が籠っていた。


「くっ…!」


しかし、俺が数歩分少し押されてしまった。やってきた者を見て俺は目を見開いた。


「お前強いな。俺様の子分にしてやってもいいぜ」


俺に攻撃してきた謎魔族の周りは黒く輝いていた。その姿はまるで俺の天使化と真逆のようだった。


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